冒険の書 X26
『実はね、私アイの事知ってたんだ。』
「知ってたって?」
『星喰、実は数百年前にアイとおなじような存在が現れてたの。
周囲の何もかもを食い尽くすスライムみたいな怪物なんだって、当時の勇者様に倒されたみたい。』
あの本に書いてあった事、本当だったのか。
あの本や勇者伝記以外にもそういう資料があるのかな。
「アイ本人じゃないんだよな?」
『アイはずーっとあそこにいたから、倒された事ないよー?』
「そうだったのか。…アイが全然仕事しないから、別働隊が送られたみたいな感じだろうか。」
住処にしてた洞窟の上に魔王城建てられるくらいだからな…。引きこもりの侵略者って所か。
『アイはあんまり食べなくても大丈夫なのー!!キョースケからのご飯とアイさえあればお腹いっぱいなのー!!』
その時は俺まだ居なかっただろ。
『ちなみに私のアイの中の占有率は2割だよ。
記憶や思考は私がベースになってるから乗っ取りやすいんだ。でも喋ってる時はだいぶアイの口調に引っ張られちゃうんだよね。』
『むー…あんまり出てこられるとごちゃごちゃになっちゃってこまるんだけどなー。
アイがもっとユウに乗っ取られるかもしれないしー…。』
なんか…おもったより変な関係なんだな…。
どちらかと言うとユウの方が侵略者っぽい。
『っと言うわけでアイ達のお話はおしまいー。
これからはキョースケのお話ねー。』
「俺の?」
『うん、キョースケ。アイ達ね、キョースケにお願いがあるんだー。
キョースケには、アイ達の【勇者】になってほしいのー。』
勇者になって欲しい…。勇者で無くなった俺に勇者になって欲しいって一体どういう意味だろう…。
『勇者のステータスとかじゃなくて、誰よりも優しくて誰よりも勇敢なそんな【勇者】の姿をキョースケに見せて欲しい。』
「…でも俺、魔王に負けて…今回もあんな事に…。」
『挫折も、失敗も、後悔も、敗北も、勇者には必要な事だと、私は思う。魔王に負けちゃっても、失敗しちゃっても、』
『それでも、誰かの為に泣きながらでも立ち上がれる強さを持ってるキョースケに、アイ達の勇者になって欲しいんだー。』
『きっと、キョースケならなれる。ちっちゃい時からいっぱい勇者の本を読んできた私が言うんだからお墨付きだよ!』
「俺に…出来るかな…。」
もう、何度目かのアイと、ユウの優しい抱擁。
今ほど両手で抱きしめられたらと思う時は無い。
『キョースケにしか、アイ達の勇者にはなれないよー。』
俺の大切な人達が、またこうして俺を支えて、立ち上がらせようとしてくれている。
だったら、もう一度立ち上がろう。
もしかしたらまた失敗してしまうかもしれない。また異界勇者の力に飲み込まれてしまうかもしれない。
それでもこの子達が信じてくれるなら、たとえもう勇者じゃなくても。
「俺は、きっと、2人の為に本当の勇者になってみせる。」
目の前で笑顔を向けてくれる子達の為にも、大切な家族であるモノ子やマリィの為にも。
もう、うずくまってはいられないんだ。
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「…というわけだ。2人にも凄く心配をかけたけど、もう大丈夫だ。
…いや違うな。2人にもこれからいっぱい迷惑かけると思うけど、一緒にいて欲しい。」
アイを連れて次元の家を出ると、宿の部屋の中でモノ子とマリィが待っていた。
俺はアイの話を掻い摘んで話し、そして改めて2人に今の気持ちを伝えた。
「…ずるい、出来れば私が京介を立たせて上げたかった…。でも…アイ、ありがとう。
それと京介、迷惑はいっぱいかけていい。そうしてくれた方が嬉しい。」
「…我の事を知っても、それでもまたそう言ってくれるんじゃな。
ならば我の返事は決まっておる。主よ、こちらこそ、一緒にいさせて欲しいのじゃ。」
2人ともこれからも一緒にきてくれる様だ。良かった。
異界勇者の事もあるけど、いつかきっとあの力も使いこなせる筈だ。その日までは封印だな。
「ありがとう、2人とも。
さて、じゃあいつまでもオーシャにいる訳にはいかないな。明日には出発しよう。」
『えー!?急だねー!』
「ああ、ロスリナの様子も見に行きたいしな。
結局目が覚めたあとはオーシャに向かったからロスリナの状況は見てないからな。
…といっても異界勇者の姿を見られてたら一悶着ありそうだけど。」
一応あの時は避難してもらってたが、それでも見られている可能性は十分にある。
今考えてもあの姿は無い、化物すぎる。バルバレゴも大概だったが、2人並んだらギリギリ異界勇者の方が化物だった。
今の所ギルドからそんな話は聞いてないから大丈夫だとは思うが…。ちょっとだけ不安だ。
「何かあったら今度こそ私がまもってあげるから安心して。」
「そうじゃな。それに主は結構めんたるが弱いからの。いざとなったら我が竜の姿でよしよししてあげるのじゃ。」
心強くて涙が出そうだ。でももう出来るだけ泣かないようにしよう。
なんたって俺はこの子達の勇者になるんだからな。召喚されて言われるがままになった勇者じゃなくて、本当の勇者に。
『あ!!じゃあ明日は朝市で食べ物いっぱい買わなきゃだねー!
海のレースが終わったおかげでいっぱい漁にも出られてお魚いっぱいって聞いたんだー!!』
「はは、そうだな。山ほど買ってこう。
でも魚は足が早いからな。その分皆で頑張って食べなきゃだぞ。」
もう夜も遅い。さっさと寝て明日に備えよう。
その日の夜は、久しぶりに人型のアイがお腹の上に乗って寝てたので重かった。よく考えたらある意味2人分の重みだもんな。頑張ってこの重みを抱えなきゃな。
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翌日、日も上がりきらないうちに皆で朝市に買物にでる。
『あー!これおいしそー!!
おお!ねぇこれ絶対美味しいよー!!全部下さーい!!』
「の…のうアイよ、我の異空間にも限りがあるのじゃ。あまり無理に詰め込むでないぞ。
緊急避難した時にカニだらけとか嫌なのじゃ。」
美味しそうな物と見るとアイが大量に買い込んで無理矢理マリィの異空間に押し込んでいく。
さすがの物量なのでマリィもだいぶ渋い顔をしていた。
「んー…いい鍋ではあるけど…。ダイモン印の鍋には及ばないかな…。」
「お客さんダイモン親方の鍋使ってるのかい!?あの人の作品と比べられちまったらおいら達商売上がったりだぜ…。あの人は俺達職人からしたら神様みたいなもんだよ。」
金物屋の屋台の店主が落としながらもガテアにいたドワーフの職人、ダイモンさんを絶賛する。
あの人まじで何者なんだよ。別の大陸にまで名前が及んでいるとか凄すぎるな。
「さて、だいぶ買い込んだな。このままだとマリィの異空間どころか次元の家まで海鮮まみれになりそうだしさっさとギルドに挨拶して街を出ようか。」
「そうしてくれると助かるのじゃ…。」
ギルドに向かい、扉を開ける。いつもの様に受付嬢さんが迎えてくれる。
「あら、キョウスケさん。今日はお揃いなんですね。」
「ええ、今日で街を出ようとおもいまして。お世話になりました。」
「そうでしたか…寂しくなりますね。
あ、そうだモノ子ちゃん。これアレの先行販売チケット。公開はだいぶ先だけど公開されたら是非またオーシャに来てね。」
モノ子が受付嬢さんから何かのチケットを受け取っている。まさかアレかな?貴族の女性と使用人の男の奴。
それにしてもモノ子は行く先々で大人の女の人に好かれるな。妹属性ってやつかな。
「ありがとう、京介と一緒に必ず見に来る。」
そして船長の部屋のドアをノックする。
「ん?ああ、あんた達か。なんだい、久しぶりにいい顔になったじゃないか。
今日は出発の挨拶って所かい?」
流石ギルドマスターで船長と言った所か。
相変らず話が早くて助かる。
「ええ、随分長居しちゃったのでそろそろ旅に戻ろうかと。」
「そうかい。あんた達には随分世話になったね。出来ればこの街にずっといてくれても良かったんだけど、それはこっちのわがままだね。
次にいくあてはあるのかい?」
「特には無いです。ロスリナの様子を見たあとは魔法都市バルタスに向かおうかなーってくらいですかね。」
一応魔法都市で次元の家に魔法の風呂を設置出来ないかずっと考えていたからな。
あとはダンジョンとかもあるらしい。面白いお宝が手に入るかもしれない。
「バルタスか。あんたらならあそこのダンジョンも踏破しちゃうかもしれないね。
気をつけておいき。それで何かあったらいつでも帰ってくるんだよ。」
船長に礼を言いギルドを後にする。
結局3週間近く滞在してしまったオーシャともお別れだ。まあまた劇を見に戻ってくることになるかもしれないがな。
さて、まずはロスリナに向かわなきゃな。
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「あんたは!?良かった。一応オーシャのギルドマスター…船長からきいてはいたが無事だったんだな。」
のんびり歩きながらの旅だったので1日程かかったが無事ロスリナに到着。だが町に入る前に声をかけられる。
誰だっけこの人。
「おっと、挨拶が遅れたな。私は冒険者パーティー【白銀の牙】のリーダー、イッサだ。
あの時あんたが助けてくれなかったら俺達はどうなっていたか想像もつかない。心から感謝する。」
「…京介、あの時避難誘導してくれた冒険者じゃない?」
あー、なるほど。あの時は本当に助かった。
その後の復興にも尽力してくれたとか。
「京介だ。あの時は俺も深手を負ってしまって避難してたんだ。船長から話は聞いている。後のことを全部任せてすまなかったな。」
「気にしないでくれ。俺達に出来ることをしてただけだよ。
…町自体にはそこまで被害は無かったんだ。問題は人だ。一生消えない傷を負った者。殺されてしまった者。殺めてしまった者。操られていたとはいえ皆一様に深い傷を負っている。
それでも俺達は生きている。ならば生き足掻くさ。」
この世界の人達は想像以上に強く、逞しいな。
俺も見習わなくては行けない。
しかしそうなるとあまり街によるのは良くないか?
「歓迎したい所だが察しの通り、まだこの町は外の人間を受け入れる余裕はない。
英雄として迎え入れたい所だが今は思い出すだけで気が狂ってしまう人もいるくらいだ。」
イッサは暗い表情をする。この様子だと操られている間の記憶もあるのかもしれない。この人は町の人の為に必死に耐えているのだろう。立派な冒険者だ。
「そういう事ならまたいつか復興した時に来るよ。」
こうして俺達はロスリナを後にする。【世界破滅者】による傷痕は大きかったが、それでも彼のような人がいればいつか…。
『よーし!じゃあ魔法都市に向けてしゅっぱーつ!!今度はどんな美味しいものがあるかなー!』
「最近は海鮮ばかりだったからそろそろ違う料理本も欲しい。魔法料理とかあるのかな。」
「魔法を食うのかの…?我の魔法だとビリビリ痺れそうで嫌じゃの。」
『キョースケ、賑やかでいいね。』
「ああ、全くだ。」
仲間も1人増えた…でいいのだろうか?微妙な所だ。
1度は折れてしまったけど、この子達とならきっと何度だって立ち上がれるだろう。
それに本物の勇者になるって目的も出来たしな。何したらいいかわからないから今まで通りではあるが、少なくとも今後は仲間達との約束だけは絶対に守るようにしようと思う。
さて、じゃあ目指すは魔法都市 バルタスだ。
第2章 おわり




