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敗北した元勇者の放蕩の旅  作者: 頂 有栖
第2章 マリーシア編

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冒険の書 X25

あの日から半月近くが経過した。

スライム姿のアイを連れて食堂でご飯を食べるのは食堂や周囲の冒険者や客に迷惑をかけかねないので毎日次元の家でモノ子と2人で作る事にしている。

有難いことに町1つ救ったということで報奨金と共に物資も多く貰えた。毎日のように大量の食材を買い込み、4人で大量の魔物を狩り、そして育てた野菜を収穫して毎日大盛りのご飯をつくってアイに食べて貰った。


半月を過ぎた頃にはアイもそれなりに力を取り戻したおかげか気がついたら俺にかけてもらっていた加護が戻っていた。

アイの言っていた通り、精神的にかなり楽になったが…これでいいのだろうか。


「アイ、今日は昨日買ったレシピの料理を作ってみたんだ。食べてみてくれ。」


そうして今日もモノ子と2人、ご飯を作る。今日つくったのはブイヤベースの様な海鮮スープ。モノ子がレパートリーを増やしたいと言うので本屋でレシピ本を数冊購入した。

その中で何となくどんなものか分かるものから作ってみる事にした。

元の世界でも作った事は無いが、料理動画でたまに見ていたから作り方はある程度は知っていた。


『おおー!!美味しそー!!ほら!皆で食べよー!』


4人で食卓に着き、手を合わせる。最初の頃はひたすらご飯をつくってアイに食べて貰っていたが、『1人だけ食べるのはつまんないー!!』というアイの要望でちゃんとご飯3回、昼の3時くらいと夜中のおやつの時間も4人で取る事にしている。


「「「『いただきます(じゃ)!』」」」


まずはスープを1口。うん、魚介と香味野菜の味がしっかり出ていて美味い。

魚のアラやカニや貝の旨みが出たスープは絶品だ。

パンを浸して食べてもとても美味い。


『キョースケ!モノ子!凄く美味しいねー!!アイこのエビが好きだなー!プリプリー!』

「ありがとな、おかわりもあるからいっぱい食べるんだぞ。」

「美味しくできて良かった、初めて作る料理だから少し不安だった。」

「安心するのじゃ、お主らの作る料理はどれも絶品なのじゃ。うむ、今日のも美味いのじゃ。」


少し前までは気まずさがあったものの、最近は食事中の会話も増えて笑顔が戻ってきた気がする。


「次はアクアパッツァを作ってみるかな。似たような材料で作れた気がするし、レシピ本にも似たようなのが載ってたし。」

「なんかカッコイイ名前。水魔法にそんな名前の奴ありそう。」


4人で笑いながら食卓を囲む。この時間が失われなくて、本当に良かった。


─────────────────────


洗い物を済ませ、椅子に腰掛ける。

モノ子とマリィは先に宿の部屋に戻った様だ。アイは少しやることがあると言っていたが。

様子を見ようと家から出るとアイはあの時植えたリンガの木に水やりをしていた。


『いっぱい飲むんだよー。そしたら君もアイみたいにおっきくなれるからねー。』


見慣れた少女の姿のアイが楽しそうに水やりをしている姿にこちらも思わず笑顔に…


「………アイ?」

『ん?あ!キョースケ!!見てみて!さっき試しにやってみたら人型になれたのー!!いっぱいご飯食べたおかげだねー!!』


アイを強く抱きしめる。良かった…。本当に、良かった…。


『心配かけてごめんねー。100%復活!!とはまだいかないけど、もう大丈夫だよー。

だからキョースケ、泣かないでー。』


「だっで…、俺…俺のせいで…。良がった…、良がった…。」


『もー、キョースケは泣き虫だねー。初めて会った時から泣いてばっかりー。

でも、ありがとー。アイの為に泣いてくれてるんだもんねー。』


アイの言う通りだな。20歳にもなって女の子に泣きついてばかりだ。

いい加減大人にならないと…。でも、たまにする嬉し泣きくらいは許して欲しいな。




『っと言うわけでアイ、復活でーす!でもわがまま言うともう少しの間は毎日キョースケとアイのご飯食べたいなー!!』


しばらくした後、アイは嬉しそうにそう宣言する。


「アイがそうして欲しいならもちろんそうするよ。でも俺達の飯が良いのか?また旅を再開したらいやでも毎日食べる事になるぞ?」


『うん!なんかねー、2人がつくってくれたご飯の方がいいんだー。』


何とも可愛らしいわがままだ。献立を考えるのは大変だがモノ子と一緒に頑張って考えるとしよう。


「わかった。これからもしばらくは俺達で作るよ。なんならアイも作るか?」


『アイは食べるの専門ー!でもたまにはお手伝いするねー!』


「ははっ、よし。それじゃ2人にも報告するか。きっと喜ぶぞ。」


アイの手をとって次元の家から出ようとするが、手を握ったままアイは動かない。


「……?どうしたんだ?」

『…キョースケ。『アイ』が元通りになったら『私』の話を聞いてもらおうと思ってたの。』


アイの雰囲気が変わる。どうやら入れ替わった様だ。


『その様子、やっぱり気付いてたんだよね。何時から?』


何時から、と言われると分からない。そもそもまだ確証も無い。そんな事が本当にあるかも疑わしい。だが。


「何時からかは分からない。でも、君なんだろ。俺がこの世界に来た時に、初めて会った聖女。」




『…えへへ、正解。【勇者様】、私の事覚えててくれたんだね。すっごく…嬉しい。

アイとしてではなく『私』としてキョースケとお話出来るのもこれが初めてだね。』


アイの中にいたもう1人の存在、やはり彼女はあの時に会った聖女だった。


─────────────────────


『改めて自己紹介。私の名前はユウ。元ヴァルナ教会の聖女だよ。旅の途中で教会を抜けてからは僧侶として活動してたんだけどね。まあそれはオイオイ…。』


ユウ…ユウって名前だったのか。初めて会った時は聴き逃してしまったが、無事名前を知ることが出来て良かった。


『私もキョースケと同じ様に魔王に挑んだんだけどね。何にも出来ずに負けちゃった。

気がついた時には地の底に居て、キョースケの事を考えながら死んじゃったんだけど、そこでアイに出会って、アイの1部になったの。』


『…あの時はねー。アイ、まだ考える力もほとんど無かったのー。でもユウを見た時に何か…何かしなきゃってなって、気がついたらアイの中にユウが居たのー。』


『うん。アイには本当に感謝してる。本来は死んじゃってたし、完全に飲み込まれるだけだったのに、アイの中に私も居させて貰ってるし。』


そうか、そうだったのか。


『えへへ、やっと伝えられた。

キョースケが私の事覚えてなかったらどうしよーってずっと不安だったんだ。でも覚えててくれて嬉しい。』


「…この世界であの日まで、俺に優しくしてくれたのはほぼ君だけだったし、魔王に負けて思い浮かんだのは君の事だ。忘れたりなんかしない。」


『えー、でもアイのこの姿って結構私に似てると思うけどなー。すぐ気づいて欲しかったかなー?』


うっ、痛い所を付いてくるな…。


「…さ、流石に4年も経ってるからな…。」


「えへへ、冗談だよ。

さて、じゃあ私はここまで。あとはアイの話を聞いてあげて。元々私はアイのオマケだし。」


想像もしていなかったまさかの再会。

だが、五体満足、とはお互いいかなかったが元気そうで良かった。



『えっと…キョースケ。アイの話も聞いてくれるー?』


ユウからアイに切り替わる。アイは言いずらそうにしているがあまり言いたくない事を伝えようとしているのだろうか。


「もちろんだ。聞かせてくれ。」


『アイ…アイねー…?初めて会った時魔物でも人でも無いって言ったよねー…?』


初めて出会った頃の話だ。まだ数ヶ月程度なのにずっと前に感じる。


「ああ、あの時はそう言ってたな。」


『…その、アイの本当の正体はねー。【星喰】って言う名前の怪物なんだー…。』


「星喰…あ…。」


オーシャに戻ってきた時の事を思い出す。船長に見せてもらった本に載っていた【世界破滅者 星喰】。

一瞬まさかと思ったが、本当にそうだとは思わなかった。


『お空のずーっと上から色んな所に落ちてねー。全部食べちゃう悪い存在、それがアイなんだー…。』


ホシハミ、星を喰う者で星喰って事か。

アイはずっと昔から一人だと言っていた。

お空の上…この世界にも宇宙があるとすれば、アイの正体は外宇宙侵略生命体、そんなところだろうか。

だとすると俺と同じ【異界破滅者】なのかもしれない。

この世界に落ちて星ごと食いつくそうとしていた…?いやでも数百年生きてるとか言ってたよな。


「にしては美味いもんばっかり食ってたような…。いつからこの星にきたんだ?」


『うう…だって石とかおいしくないんだもんー!!いつからかはわかんない…でも魔王城が立つ前からだから多分もう数千…いや数百年とか経ってるー…。』


今サバ読んだか…?アイってもしかして数千歳…?

しかしアイは何でも食べれるが、自らの意思で食べる物をえらんでたのか。


「えー、めっちゃ選り好みしてるじゃないか。

グルメな侵略者ちゃんだな。」


『だって美味しいモノ食べたいもんー!!…ユウと一体化してからは食べなきゃって本能よりも【勇者様】の事ばっかりだったしー…。』


どうもおもったよりユウに侵食されてたようだ。たまに主導権奪われてるし大丈夫なのかな。


「そうか。ならそれでいいんじゃないか?」


『…いいのー?アイ…世界を食べちゃうかもしれない化物なんだよー…?

それに…もう気づいてるよねー。アイがユウを…キョースケの大切な人を食べちゃったって…。』


「俺も世界を破滅させちゃうかもしれないバケモノだ。似たもの同士だよ。

それにアイがユウを食べてアイの中で生きながらえさせてくれたんだろ。

おかげで再会出来た。本当にありがとう。」


これも、紛れもなく本心だ。アイのその行動が、アイの中にユウを生きながらえさせ、結果的に俺の命も救ってくれたんだ。


『キョースケ…。ありがとー。アイね、キョースケの事大好きー。

あ…そっか、やっとわかったー。』


『キョースケ、アイねー。キョースケの事【アイ】してるよー。

えへへ、これがきっとアイ、なんだよねー。』


その時のアイの表情は、今まで見た事ないくらい綺麗で、俺は思わず自分の胸をぐっと抑えてしまった。



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