冒険の書 X24
「3人とも…改めてごめん。俺が油断したばっかりに、3人を危険に晒した。
その上制御出来ない力のせいで2人を巻き込んで、アイはしばらく人の姿になれなくなってしまった…。本当にごめん……。」
全員揃ったので、改めて謝罪する。
アイはモノ子が作った山盛りのご飯を『おいひー!!!』といいながら食べている。
「京介、顔を上げて?私は大丈夫、何ともないよ。
京介が助けてくれたから、無事だった。それに京介との一体化…いい経験だった。」
「…我も何ともないのじゃ。それに我も思わず飛び出してしまったのじゃ。主が助けてくれなかったら操られていたじゃろう。冷静さをかいておった。
下手をすれば操られた我らとモノ子が戦う事になっておったかもしれんからの。
それにあの姿になったのは我のせいでもある。すまなかったのじゃ。」
『キョースケ、そんな顔しないでー?ほらみてー、モノ子が作ってくれたご飯食べたらちょっとおっきくなったよー。
だから大丈夫ー。すぐ元に戻れるよー。』
3人が俺を見つめてくれる、声をきかせてくれる。俺が自分を責めないように、必死になってくれているのが伝わってくる。
「あの時3人が…殺される幻をみせられたんだ…。怖くて…苦しくて…思い出しただけで気が狂いそうになるんだ…。」
ボロボロと涙が止まらなくなる。まるで今まで抑え込まれていた物が決壊するように溢れ出す。
身体を抱えて丸まって震えてしまう。
『あ…、キョースケにかけてたアイの加護が無くなってるんだったー…。ごめんねキョースケ。もう少し力が戻ったらかけ直すからねー。』
アイが優しく背中をさすってくれる。心配かけてばかりで本当に情けないな…。
「…加護、やっぱりアイの加護には精神汚染と似た効果があるの?」
『精神汚染?はわかんないけどー。キョースケ、初めて会った時身体だけじゃなくて心もボロボロだったからー…。少しだけど心の痛みを感じなくなるようにしてたのー。』
「…それで京介、前より元気だったんだ。
それに私の持つ精神汚染と似た力が作用してバルバレゴの洗脳に対抗してたんだ。
…アイが京介を守ってくれてたんだね。ありがとう。」
「…やはり我がそばにいては主を苦しめるだけかもしれんな。アイは主の恩人でモノ子はずっと心の支えじゃ。
じゃが我は…。」
「マリィ…どこかに行っちゃうのか…?俺が…弱いから…3人を守れないからか…?」
マリィの言葉を聞いてどうしようもなく胸が痛くなる。わがままなのは分かっている…、それでも行って欲しくない…。
「ち…違う!!主は悪くないのじゃ!!
どこにも行かんからそんな顔をしないで欲しいのじゃ…。」
「マリィ…お願い。マリィの事情は分からないから強制は出来ないけど、少なくとも今は私達と一緒に京介の傍にいてあげて。」
「……わかったのじゃ。
じゃが主よ。お主が我らを失うのが怖いと言ったように、我はお主らに嫌われるのが怖いのじゃ…。
本当の事を話して拒絶されるのが怖いのじゃ…。」
酷く暗い顔になるマリィ、少なくとも俺がマリィを嫌いになることなんてありえないのに。
「…むふふ、聞こえておるぞ。主はどんなに傷ついておっても、本心でそう言ってくれるのじゃな。…これは言わぬ方が信頼してない様で傷つけてしまうの。
分かったのじゃ。……主よ。我は、主の持っておった【勇者の加護】から生まれたのじゃ。正確には今我が持っておるのは【異界勇者の加護】じゃがの。」
『勇者の加護?どういう事ー?』
マリィが…勇者の加護から…?一体どういう事なんだ…?勇者の加護は勇者の名と制約と共に失ったはずだが…。
「うむ…、主は以前勇者の加護と勇者の制約を失ったと言っておったな。
今ならわかるのじゃがこれ程大きな力。ただ消滅するには大きすぎたようじゃ。
恐らく主から離れた勇者の加護はヘルヘイムのある場所に落ち、そして竜神殿と我が生まれたのじゃ。」
よく考えたら俺が魔王に負けて数日、突然ダンジョンが出来るというのも偶然にしては出来すぎてる話だった。
そうか、あのダンジョンは勇者の加護がきっかけで出来たのか…。
「…どれだけ魔力が溜まってもなにかきっかけがないとダンジョンは生まれない…。要は京介の勇者の制約がきっかけになったってこと?
…マリィの竜の姿が京介の好みどストライクなのはそれが理由?ずるい。」
「我としてはもうちょっとかっこよくて威厳のある姿が良かったのじゃがな…。まあ元の持ち主の趣味嗜好が反映されたのじゃろう。今では気に入っておるしの。
…我を構成する要素は、主を苦しめた勇者の力じゃ。その上今回の異界勇者の力も我が居なければ発動することはなかったかもしれん。」
『マリィ、それは違うよー。
キョースケを苦しめてたのは勇者の制約で加護はキョースケを強くしてくれたんだよー。』
「…アイの言う通りだ。制約は俺を苦しめたが、加護は俺のLv上限を引き上げてくれた。俺がここまで来れたのはその力のおかげでもあるんだ。マリィを生んだ力は俺にとって辛いものじゃない。
」
「…お主らは本当に強いんじゃな。そんなボロボロで、心まで折れてしまっても、それでも我にそう言ってくれるんじゃな。
…でも、きっと、また我の異界勇者の加護のせいで主があの姿になってしまうのじゃ。」
「…それを言ったら私もそう。
【異界勇者の剣】…私のは文字がおかしくなってて殆ど読めないけど、これもきっとあの時の力に関係してる。
…でも私は京介から離れる気は無い。意地でも使いこなして、京介の為の力にする。」
異界勇者の剣はやっぱりモノ子が持ってる力なのか…。
でもモノ子はもう前を向いている。あんなことがあったのに、それでもまた俺の為に力になろうとしてくれている。
「…ありがとうモノ子。
今回の件で思い知った。俺は弱い。嫌っていたはずの勇者の制約、生き返る力に頼っていたから初見の相手の搦め手に簡単に引っかかる。
死んでもやり直せばいいなんて甘い考えが抜けてなかったんだと思う。」
先日のレースで負けて気合いを入れ直したと思ってたのにこのザマだ。
我ながら情けなくてまた涙がでてきそうだ。
それでも、たとえ心が折れたとしても立たなきゃ行けない。今はアイの身体を取り戻す為に。
「しばらくはアイの身体と力を取り戻す為にオーシャに戻ろうと思う。
魔物を狩って、食材も集めて、少しでも早くアイが戻れるようにしたい。今後の事はその後考えよう。手を、貸してくれるか?」
「…やはりお主は強いのじゃ。折れながらでも立ち上がれる奴など早々おらんのじゃ。
我の方こそ、お主とアイの為に手を貸させてほしいのじゃ。」
「私は元より京介の剣。京介が立つ為なら支える杖にでも何にでもなる。料理も任せて。」
『ご飯いっぱいつくってくれるのー!?やったー!!今のアイはいくらでも食べれるからいっぱい食べさせてねー!!』
こうして俺達はそれぞれ傷を負いながら、再びオーシャへと戻る事となった。
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「あんた達!!無事だったのかい!!」
ロスリナから1日かけてオーシャへと帰還、そのままギルドへ向かった。驚いた顔の船長が迎えてくれる。3人はまだ疲れているだろうから次元の家で休んでいる。
どうも俺達が寝ている間にそれなりの日数が経っていた様でオーシャの方では行方不明扱いされていた。
ロスリナの方はあの時避難誘導してくれた冒険者達とギルドから派遣された騎士や冒険者を中心に復興がすすんでいるらしい。
「詳しく聞かせてくれるかい?
向こうに着いたギルドのメンバーから現地の冒険者の話を聞いたんだが要領を得なくてね。」
俺達は【異界破滅者】になった自分達の事は伏せて【世界破滅者】バルバレゴの事について話した。
既に完全に倒したが、深手を負わされたので治療していた事にしておいた。
「洗脳と幻覚…。厄介極まりない力だね…。
あんた達には相当無理させちまった。詫びさせておくれ。
あんた達が居なかったら今頃後続の騎士や冒険者やギルドの者達も皆操られてただろうからね。
だが…【世界破滅者】か。禁書にそんな記述があった気がするね。」
ちょっとお待ち、と言って部屋を出る船長。
しばらくすると1冊の本を持ってきた。
「それは?」
「昔冒険の中で見つけたタイトルの無い本さ。
おかしな事が書いてあったから禁書庫にぶち込んだんだが…。
あったあった、やっぱり書いてあるね。」
差し出された本を受け取りそのページを読む。
【世界破滅者】 この世界で生まれた規格外の力を持つ怪物。世界破滅者が力を解放している時に近づくと視界にその者の名が現れる。
世界破滅者の名を冠する者は皆一様に世界を滅ぼすに足る力を有している。
「…複数体いるって事ですか。」
「少なくとも今回のバルバレゴ?ってやつは初めてだけどね。
資料が残ってるのだと…、【星喰】【魔王】あとは【ダンジョン】だね。」
【星喰】……聞いた事無いな。魔王は分かるが、ダンジョンも?
「ダンジョンは最強の魔物を作り出す揺り籠だって説があってね。まあこれに関しては眉唾物さ。
【星喰】に関しては過去に勇者の手で退治されたらしいが、勇者伝記には記述がないからね。
こっちも本当かわかったもんじゃない。
なんでも世界を丸ごと食っちまう化物らしいが、そんなのがいたらたまったもんじゃないね。
まあつまりこの本も真実かどうかも分からないオカルト本ってことさね。」
……なにか引っかかる気がするが、少なくとも大して参考になる本では無かった。
「それで、これからどうするんだい?報酬の件はもう少し精査させてもらってからにするつもりだが。」
「しばらくオーシャに滞在させて貰うつもりです。」
「そうかい。なら宿にはこちらから話を通しておくよ。好きなだけゆっくりしてきな。
改めて、無理させて悪かったね。ありがとう。」
船長に見送られてギルドを後にする。
3人はまだ寝ているだろうか。ならば少しでも食材を集めておこうかと思い、1度オーシャを出る。
「…京介、起こしてくれたら良かったのに。」
「モノ子も疲れてるだろ。それより悪いけどマリィを呼んでくれるか?血抜きは済ませたから空いてる異空間に入れてもらってくれ。」
数匹で済ませるつもりだったが集団で襲ってきた巨大な鳥、スカーレットホークを魔法で全て倒して解体する。
これだけあれば少しでもアイが元に戻る足しになるだろう。1分でも、1秒でも早くアイを元の姿に戻さなくては…。
「…京介、1人で無理をしようとするなら私は手伝えない。手を貸してって言ったのは京介、ちゃんと頼って…?」
悲しそうな顔をするモノ子。しまった…俺はまた間違えて…。
「ごめん…俺また…。」
「ううん、大丈夫。一緒にマリィ呼びに行こ?」
モノ子に手を引かれ、俺達は次元の家の中に入っていった。




