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敗北した元勇者の放蕩の旅  作者: 頂 有栖
第2章 マリーシア編

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冒険の書 X23

キョースケとモノ子がずっと戦ってる中、アイとマリィは次元の家の中で2人の無事を祈るしか出来なかった。

マリィは1度キョースケと話してたけど、今はキョースケに話す余裕が無いのか歯噛みしていたが、突然顔をあげる。


「っ!!まずいっ!!主が敵の幻術に呑まれたのじゃ!!」


そう叫ぶと突然次元の家から飛び出すマリィ。急いで追いかけてアイも次元の家から出ると、膝を付いているキョースケと精霊の姿に戻って巨人とキョースケの間に立ち塞がっているモノ子。モノ子は両方の手から巨大な光と闇の魔力を出している。


「京介には指1本触れさせないっ!!」


「ガはハハは!!何ダよ斎藤!!仲間イるジャねぇか!!ダが斎藤が動けナきャマた全員洗脳してヤれバいイだけダからナ!!

お前ラは全員嬲リコろしてヤるよォ!!!」


敵の巨人の身体が紫色に光る。また外に顔を出した時と同じように頭がいたくなる…。が、すぐにそれは消える。

まるで別の何かが打ち消したような。


「�����」


人の声とも取れない声、だが今のは確かにキョースケの声だった。でもなにを言っているか全然分からない。

キョースケが、助けてくれたの…?


「京介!?」「主!?」


2人の叫び声が響いたその瞬間、2人の姿が黒く染まり、同時にキョースケの身体が黒い泥のように変化していく。

2人の身体がキョースケに飲み込まれると、黒い魔力のような物が溢れ出し、キョースケの姿がどんどん変わっていく。




【異界破滅者 顕現 異界勇者】




目の前に文字が浮かび上がる。

左腕から剣を生やした黒い人型のなにか。そうとしか表現できない何かがキョースケが居た場所に立っていた。


『キョースケ…?』


返事はない。

なぜアイが、あの人の名前を呼んだのか。一瞬分からなかった。誰よりも優しくて、誰より強くて、私の、『アイ』の1番大切な人はこんな姿じゃないはずなのに。


「����������」


「ヘェ…俺の幻術魔法みタいにお前も隠シ球ガあったッて事カヨ。ダがまぁこれデ少しハ」


スパンっと軽い音が響くと巨人の腕が後方にボトリと落ちる。


「あ?あァぁぁアああ!?俺の腕ガァァァあああア!?」

「�����」


黒いなにかが聞き取れない声をあげ左腕をかざすと、巨人の身体がどんどん四角く切り取られていく。これ…マリィが次元の家を切り取った時に使った空間を切り取る次元魔法…?


「おイ!?なんダこいツ!!俺ノ幻術が効いテねぇ!?異界破滅者ってナんなンだヨ!!こンなバケモノなんテ聞いねェぞ!!!?ふザケるなヨ!!!こンなのチートだろ!!俺の洗脳ト幻術は最強のハズなンダ!!

負けルわケ無いンダァァァアアア!!」


再び巨人が紫色に光るが、剣になっている左腕の一振で巨人の身体ごと消し飛んだ。

が、消し飛んだはずの身体からなにかが飛び出す。


『ちくしょう!!ちくしょう!!せっかく俺が好き放題出来る異世界に最強の力をもって転生したのになんでこんな化物がいるんだよ!!

絶対新しい身体を手に入れて復讐してやる…か…』


「�����」


『ギャァァァァァァァアアア!!!!?』


一瞬人のような幽霊のようななにかが見えたが、即座に捕え、斬り裂き、再び絶叫をあげ消し去る。

戦いは、一瞬で終わった。戦いですら無かった。でも異形になったキョースケは目元から黒い泥のような涙を流しながら声にならない声を上げつづける。


「����������」


『…キョースケ!!!』


次の瞬間には、アイは駆け出していた。

身体は人型から粘体になる。彼を覆い尽くしてなお余る程に巨大化する。

飛びかかって呑み込んでも、キョースケは逃げない。

触れてわかる。キョースケ、寂しくて、苦しくて泣いてる。

モノ子とマリィを取り込んだみたいだけど、たった一人で暗闇の中で泣いてる。


『きっと…助けるからね…。』


あの日と同じ言葉。あの時は知らなかったけど、今なら分かる。今度こそ私が私の勇者様を助けるんだ。


【魔導 悠愛 発動】


あの日、キョースケを助けた奇跡の力。この力ならきっとキョースケを元に戻す事も出来るはず。

前回は溜め込んでた分とキョースケの腕と記憶でなんとかしたけど、今回は3人の魔導力を貰って使えばなんとか…!!!


『…っ全然足りないー!!ならっアイの体ももってけー!!』


何百年とかけて成長した肉体がどんどん消えて無くなっていく。でも構わない。キョースケを、みんなを助けられるなら…!!

奇跡よ、起きて!!3人を助けさせてっ!!



しばらくすると、小さくなったアイの傍でキョースケとモノ子とマリィの3人に別々に別れて気絶していた。

身体の大半を失いクタクタだが、ここには居られない。

最後の力を振り絞ってマリィを回復する。


『…【ヒール】。マリィ起きて…。』


「ん…な、なんじゃ…?」


『マリィ…お願いー…もうクタクタで動けないから…。』


「しっかりせいアイ!!わ、分からんがわかったのじゃ!!あー!もうとにかく全員かつぎ込むのじゃ!!」


マリィが竜の姿になり、次元の家へと扉を開いてくれた所で、アイは気を失った。


─────────────────────



目を覚ます。

右側にはマリィ、左側にはモノ子。お腹の上にはスライム形態のアイが寝ていた。

動かない身体で周囲を必死に見回すと、どうやら次元の家の中のようだ。

俺…なにしてたんだっけ…?


堪えられない程の脱力感に再び目を瞑ると、ステータス画面が浮かび上がる。


【ステータス】

京介 ��の使徒 LvXXX

状態 右腕欠損 混沌剣の騎士 次元竜の主

【異界破滅者 異界勇者】

停止中 発動条件

【異界勇者の器】×不活性状態

【異界勇者の剣】× 不活性状態

【異界勇者の加護】× 不活性状態

全ての条件が揃った時、任意発動可能。

異界から訪れし世界を救う救世主。しかし一度反転すればそれは世界を滅ぼす災厄と転ずる。

魔王と表裏一体の存在。



目をあけ、見開く。加護が消えて…項目が増えていた。しかも説明文付き。

異界破滅者…なんだっけ…身に覚えがないな……。

そう思ったら瞬間、まるで思い出すように記憶が溢れ出す。


「あ…あああ…。」


不親切なこの世界にしては珍しく、能力の詳細と、異界勇者になっていた時に起きたことまで鮮明に思い出される。

あの時、バルバレゴの幻術で心が折れた俺は、モノ子とマリィを取り込んで、バケモノになって…。

あれはバルバレゴと同じ世界破滅者、いや【異界破滅者】……。

絶望と殺意に呑まれて大切な仲間の力をあんな風にふるってしまった。

アイが必死に止めてくれなかったら、もしかしたら俺がこの世界を滅ぼしていたかもしれない。

そして何より、俺のせいで皆が…。


「主よ……。目が覚めたかの。」


「ごめん……マリィ、俺……。」


俺の次に目を覚ましたのはマリィだった。

マリィは首を振る。


「我らは大丈夫じゃ。礼はアイにちゃんと言うのじゃぞ。あやつが1人で奇跡を起こしたみたいじゃ。

その後も我を回復してここに避難できるようにしておったしの。さすがじゃ。

……それに、謝るのは我じゃ。」


…ああ、そうだ。アイが助けてくれたんだ。

その後の事までしてくれたなんて…。

でもマリィが謝るのはどういう事だ…?


「…マリィ、なんで謝るんだ…?2人をあんな目に合わせたのは俺なのに…。」


「今は…まだ話したくないのじゃ…。後日ちゃんの話すから、待っててくれるかの?」


「…京介、私もごめん。私もあの時幻術を断ち切れたはずなのに。

そのあと京介の苦しみが流れ込んできた瞬間、なにも出来なくなっちゃった…。

守ってあげられなくて…ごめんね…。」


「マリィ…モノ子…謝らないでくれ…。悪いのは俺なのに…。

そうだ……アイは…?アイの加護が消えて…。」


『…無事で、良かった。今度はキョースケの力になれた。キョースケ、大丈夫だから今はゆっくり休んで?』


スライムの姿でどこか消え入りそうな声でそういうアイ。

意識が保てない、でも…良かった。皆生きてた。無事だった。


─────────────────────


再び目を覚ます。

アイはまだ俺の上で寝ていた。隣から物音がする、モノ子が料理を作っている様だ。

マリィも一緒なのだろうか。


『キョースケ。おはよ。』


「アイ…、おはよう。またアイに助けられたんだな…。」


『ううん、でも今『アイ』は力を使いすぎちゃってるから。『私』がお話相手になるね。』


この感じ……時々違和感はあった。でもやっぱり君は。

口に出そうとするが、手で口を抑えられる。


『それはアイが起きてからね。』

「…アイは、大丈夫なんだよな?」


『…大丈夫…とはちょっと言いづらいかな。エネルギーを使いすぎてお腹ぺこぺこ、あと…アイは言いたくないだろうけど…、キョースケは知っておいた方がいいと思う。』


暗い表情をする。俺はアイにそんな無理をさせてしまったのだろうか。


『…しばらくはこのちっちゃい姿でしか居られないの。3人を助ける為にアイは無理しちゃったから…。何百年と生きて巨大化していた身体の大半を【悠愛】の魔導で使っちゃったの。』


何かが崩れるような音が響く。

俺の…俺のせいで…アイは…。


『もー!!『私』!!アイが休んでる間に好き勝手しないでー!!勝手なことするならもう身体貸してあげないからねー!!』


突然ピョンとアイが跳ねる。『アイ』に入れ替わったのか…?


『キョースケ!アイは大丈夫だよー!だからそんな顔しないでー?ちょっと小さくなっちゃっただけだよー!!』


「アイ…。でも俺のせいで…。アイの加護も消えちゃってるし…本当に大丈夫、なんだよな…?アイは居なくなったりしないよな…。」


『んー?あ、ほんとだー。もうちょっと元気になったらかけ直して上げるねー!

キョースケ。アイはねー、大好きなキョースケや2人を助けたかっただけなのー!だからキョースケはアイの事ギュッて抱きしめてありがとー!って言ってくれたらそれでいいのー!

あと絶対アイは居なくならないよー。キョースケと旅するって約束したからねー!』


アイを抱きしめながら優しく撫でる。心なしかアイが少し軽くなった気がする。


「アイ…ありがとう…。ごめんな…。

アイは約束守ってくれるのに、俺約束破ってばっかりだな…。」


『ごめんはよけいだよー!!!

でも…えへへー。ダイエット成功だよー!最近キョースケとモノ子が作るご飯とか宿で食べるご飯が美味しくって食べすぎてたからねー!!』


それと約束破ったからまたデートだねーと笑ってくれる。この子はどこまでいい子なのだろうか。


『それに…心配しないでー。アイね、本当は好き嫌いいっぱいなんだー。石とか食べ飽きてきらーい!ってずっとおもってたのー。

でもねー、キョースケとモノ子のご飯ならいっぱい食べれるからーすぐにおっきくなっちゃうよー!!だから』


『元に戻れる様にいっぱいご飯たべさせてねー!!』


俺は泣きながらずっとアイを撫で続けた。




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