冒険の書 X22
「クッソ…!!どこにいてもすぐ見つかる!!
逆に黒幕の場所がわからねぇ!!」
空き家に入りポーションをがぶ飲みして魔力と体力を回復しながら吐き捨てる。
ポーションももう数が心許ないが、それ以上に虚ろに迫ってくる一般人や巨人に追いかけ回されるこの状況が精神をすり減らしてくる。
《京介、落ち着いて。多分敵は高い所でふんぞり返ってる。1度周囲をゆっくり確認しよう。》
「…その心は?」
《自分が凄いやつと思ってる奴とバカは高い所にいるのが定石。多分見つかってない今なら2階から探せる。》
なかなかの毒舌で思わず笑みがこぼれる。そうだな、そういう奴はだいたい塔の上とかに居るよな。一旦深呼吸して思考を巡らせる。
「…相手が慎重、あるいは前線で戦わないタイプならどっかに隠れてるか。
この場合どちらも当てはまるな。」
《きっと陰湿だけど自信過剰なタイプ。そういう奴は目立つ場所で強い部下に自分を守らせてると思う。》
モノ子の言う通りだ。空き家の2階に登り、窓から周囲を見渡す。高い建物はあまり無いが…、大きめの目立つ建物ならある。
「…多分あれ冒険者ギルドの建物だ。他の街のギルドによく似てる。
そういえば魔法球の連絡が途絶えたって言ってたからな。最初に早い段階で襲撃されて根城にされてる可能もあるな。」
《確率は結構高いと思う。他の家はほとんど平屋だし。》
確かにそもそも大きな町でもないからな、モノ子のお陰で冷静に判断出来た。とりあえずギルドをめざして移動しよう。
『(主よ、大丈夫かの。)』
移動しようとするとマリィの声が聞こえる。戦闘続きで余裕がなかったが、声を聞く限りは大丈夫そうだ。良かった。
「すまん、さっきまで立て込んでた。2人は大丈夫か?体調になにか変化はないか?」
『(うむ、全く問題ないのじゃ。主だけに戦わせてしまってすまんの…。
…うむ。伝えよう。主よ、アイもお主の身を案じておる。ちゃんと無事な姿を後でみせるんじゃぞ。)』
「わかった、約束する。」
現状2人は歯がゆいだろうが出てもらう訳にはいかない。もし出てきてあいつらと同じようになったらと思うとゾッとしてしまう。
そうして俺は二階の窓から飛び降りる。すぐに見つかるが、追いかけられる前に風魔法で飛び上がって空を跳ねながら移動する。
どうせ見つかるなら一気に行った方が楽だ!
そして無事、冒険者ギルドらしき建物にたどり着くと、当たりのようだ。
巨人族も利用するのか、大きい扉なんかも用意されている上、建物の中からなにか禍々しい気配を感じる。
この気配、魔王程じゃないが相当な力をもっているな…。
カオスヘイローを抜剣し、構える。
「…おイおい。こっチは色々罠張ッてヤってンのに、全部とばシて本陣二突っ込ンで来るトカセオリーなイのかヨ。
でモお前ハ俺みたイなスペシャルじャないみたイだナァ…。ナら楽勝ダロ。」
建物の中にいるにも関わらず聞こえるやたらデカイ声でこちらに話しかけてくる。
しばらくすると扉が開き、他の巨人より1.5倍ほど大きい巨人が現れた。
剣を構える俺を指さしてヘラヘラしている。面も随分悪い。やってる事がそのまま面に出てるような悪辣な顔だ。
「剣なんテ構エて物騒ダなぁ…。最初ハ自己紹介が常識ダロぉ??
俺の名ハ バルバレゴ様だ、世界を破滅サセる最悪の存在さァ。
まア分かりヤスく言えバ最強ノ巨人って所かナ?
で?オ前ハ?」
「……斎藤。斎藤 瞬だ。」
嘘である。洗脳なんて使うやつにバカ正直に名前を名乗るわけない。名前も今考えた。
しかしバルバレゴ。神話とかでは聞いた覚えの無い名前だ。神の名をもってたら能力も分かりやすいんだがな。世界を破滅とは大きく出た物だ。
巨人と特異な能力を合わせて考えるとバロールなんかが近いのだろうか。竜と違って詳しくないから参考にもならんがな。
「斎藤…。お前モ転生者、いヤソの面ハ召喚者って所カ?お前ミたいな面ノヤつは珍シいからナ。
ヘヘッ、なら俺の力ガ効かナいのも納得っテか?
………そんナ訳ネェだロ!!!!最強ノ俺の力が効かナいなんテ許せネぇ!!こコで殺しテヤル!!」
バルバレゴが手をかざすとギルド周辺に人や巨人が一斉に集まってくる。
ギルド内部からも重武装で強そうな冒険者が続々と出てくるが、全員目が虚ろだ。まだこんなに洗脳してたのか。しかも実力者もかなり混じってそうだ。
というかあいつ転生者って言ったか!?こいつも俺と同じ異世界から来たってことかよ。
元は俺と同じ日本人なのかもしれないな。
「どうダ斎藤。俺ノコレクションは?
強い冒険者モ良い女モ全部俺ノ物だ!!
お前二も仲間が居れバ奪ってヤったのになぁ?
ボッチなんテつまンねぇゼ!!」
誰がこんなカス野郎に大事な家族をやるかよ。そもそも俺はそういうジャンルが苦手なんだ。
「ならお生憎様だったな、俺はソロ歴2年半なんでな。お前にやる仲間なんざ居ねぇよ。」
長い事お喋りしてくれてたお陰で、必殺技の準備が整った。この手のやからはほっといてもいくらでも喋るから楽でいいな。
《バカがベラベラ喋ってくれるから準備時間があって助かった。でも京介?一人だった時間は4年じゃ無かった?》
おいおい、何言ってんだよモノ子。ホーリーヘイローを手にした時から俺はもうずっと、モノ子と一緒だっただろうが。だからぼっち暦2年半くらいなんだよ。
《………っ!!!!》
瞬間、カオスヘイローからとてつもない量の光と闇が溢れ出す。
え、モノ子?どうしたんだ?大丈夫か?
《っはぁ…はぁ…きょっ、京介…!!そんな事…言われたら…!!嬉しくてっ!もう…抑えられないっ…!!一緒に…全部…斬って!!》
急に息が荒くなり、どこか色っぽい声で叫ぶモノ子。魔力を貯めすぎたのだろうか。
まあいい。カオスヘイローを横に構え、回転して360度を横薙ぎする。全部斬るわけにはいかないが、バルバレゴの洗脳は全部断ち切ってやろう、モノ子。
《「【光魔一閃・極】!!!」》
ビュンッという少し軽い片手剣の振るわれる音とは対照的に、光と闇の波が周囲一帯を断ち切る。
「……ア?何ダ、虚仮威シかヨ。何にも切れテネェじゃネえか。
オラ、お前ラ。さっサと斎藤を八つ裂キにしチマいな!!」
バルバレゴは斬られたと思ったのに一切ダメージは無く拍子抜けと言った表情で再び攻撃命令をだす。
しかし
「……あれ?俺なにしてたんだっけ?」
「ここ、どこだ?」
「ン?オデナンデコンナトコロ二?」
俺達の斬撃を受けた者達が人間、巨人問わず正気に戻っていく。
《ふ、ふふふ。アハハハハ!!私と京介の2人でやったんだ!!最っ高!!私達2人ならなんだって出来ちゃうんだ!!私と京介がベストパートナー!!アハハハハハハ!!!》
いつになくハイになってるモノ子。これも精神汚染の影響なんだろうか。あんまり良くなさそうだ。
今回の件が終わったら何とかした方がいいかもしれない。教会の聖水とかでなんとかなるかな。
「っと、みんな!さっさと逃げるんだ!!」
声をはりあげ、周囲に居る人達に逃げるよう促すが、状況を理解できてないようで立ち往生している。
「っ!!!白銀の牙総員!!市民を守りながら撤退するんだ!!」
俺の声に最初はポカンとしていたが、ランクの高そうな冒険者が状況を分からないなりに察したのか声を張り上げると10人程度の冒険者が陣形をとりながら避難してくれた。
これで周囲を気にせず戦える。
「……テメぇ!!なにシやがっタ!!」
「悪いがお前の洗脳?かなにか知らないがぶった斬らせて貰ったぞ。
今後お前が何度その力を使おうと俺達が断ち切ってやる。諦めて介錯されるか、諦めずに俺達に斬られるか選ぶんだな。」
「…さ…斎藤ォ!!!!チくショー!!死にサらせ!!【ダークボール】!!」
闇魔法の黒弾が大量に放たれる。
だがこちらも対抗して光弾を放つ光魔法の【ライトボール】を放ち打ち消す。下手に避けて市民に当たると行けないからな。
でも強力な洗脳能力は厄介だったが、魔法の威力は大したことない気がする。
「ちイ!!最強のはズの俺がナんで押されテるんダヨ!!」
《京介、ここは一気に片付けた方がいい。
まだ奥の手を持ってるかもしれない。》
落ち着いたのかいつものモノ子に戻っている。良かった。そしてモノ子の言う通りだ。
【光魔一閃】を撃つにはまた準備が必要だが、バルバレゴの戦闘スタイルは魔法主体の様だ。
その上普段は他者を操って戦わせているなら接近戦に弱いだろう。このまま押し切る!
【ソニックダッシュ】で加速し、一気に距離を詰めて袈裟斬りを放つ。
が、手応えが無い!?想像した手応えがなく少し体勢をくずしてしまう。
バルバレゴの姿も霧散していく。幻を作る魔法!?
《京介!早くはなれて!!》
なんとか体勢を立て直し距離を取ろうとするが、こちらに手をかざし万遍の笑みを浮かべるバルバレゴ。
「甘いンだヨバーカ!!」
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気がつくと手元からカオスヘイローが消えた。
いや、それどころか先程まで戦場だったはずなのに周囲に人影もない。
「…さっきのは幻覚魔法?奴の魔法か?
なんとかしなきゃ…モノ子!聞こえるか!マリィ!!返事してくれ!!」
手に持っているはずのモノ子の名を呼ぶが返事はない。異空間に退避しているマリィも同様だ。
「うっ…あぁ…。主…。」
物音と声が聞こえ振り返ると、そこにはマリィがボロボロになって倒れていた。
「なっ…マリィ!?どうした!なにがあった!?」
駆け寄り抱き起こすが返事が無い。
もう、事切れていた……。嘘だ…こんな…。
また物音が聞こえる。今度は金属音。
振り返ると、そこには折れたカオスヘイロー。その姿が時折バグったようにモノ子に変わる。
「モ…モノ…子…?」
触れると、その姿が消えていく。
「駄目だ…!!モノ子!行かないでくれ!!モノ子!!」
また物音がする、今度はぐしゃりと、なにかが潰れたような音…。
そこには、人の形を保てなくなって溶けていくアイの姿。
「ア…アイ…?なん、で…なんで皆…。いや違う、幻術だっ…これは幻なんだ…!!
覚めろ!!覚めろよ!!!!」
口ではそう言いながら、必死にアイに回復魔法を使うが、なんの効果もない。
そんな俺の前に、誰かが現れた。
「あーあ、お前が呑気に幻覚なんて見てる間にみーんな殺されちまった。可哀想になぁ、3人ともお前が正気に戻って助けてくれるのを信じて必死に戦ったのによ。
元とはいえ勇者様で、そんなお前を心から信じてくれた大切な家族だったのになぁ?
いや、いまや勇者気取りの偽物の癖に、人助けなんてしたからバチが当たったんだな。なっさけねぇ。」
目の前に居たのは、自分だった。
ああ、そっか。俺のせいなのか。
俺が弱いから…、魔王に負けた俺が勇者面して人助けなんてしたり、今更仲間なんて作っちゃだめだったのか。
「俺は、あの日、1人ぼっちで死ななきゃだめだったのか。」
全身を痛みが突き刺した。いや、痛いのは多分心だ。そのはずなのに、まるで全身から血が溢れ出す様に……。
「あ、ああ……あああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
俺は、また負けた………。
何より大切なあの子達を失って……。




