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敗北した元勇者の放蕩の旅  作者: 頂 有栖
第2章 マリーシア編

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冒険の書 X21

後日、再びギルドに訪れるとギルドの中は慌ただしくなっていた。


「あ、キョウスケさん!おはようございます!」


「おはようございます。お忙しそうですね。」


「ええ…すみません、少し立て込んでまして、資料室は使って大丈夫ですよ。」


受付嬢さんも書類を持ってバタバタとしている。

先日聞いた件、やはり大事だったのだろうか。


『キョースケ。』

「ああ、船長に話を聞いてみよう。」


受付嬢さん達は話を聞けそうにない。これは直接行くしかないだろう。

船長の居るであろう部屋をノックすると通される。


「……偵察に向かった者達が帰ってこないんだ。

その上、向こうのギルドとの魔法球での連絡も途絶えた。

今、この街で動ける騎士と有志の冒険者でいくつかの隊を編成して既に何組かに向かって貰ってる。」


奥の部屋で忙しそうにしていた船長に話を聞くと、詳しく教えて貰えた。

状況は芳しくないようだ。


「町の名前と場所を教えていただけますか。」

「名前はロスリナ、場所はここだよ。早馬なら半日で着く距離だね。

しかしあんた……、いいのかい?」


「…戦闘にはそれなりに自信がありますし、仲間のお陰で命を奪わず制圧も可能かとおもいます。

先日はああ言いましたが…巨人族の件、俺達も調査させていただきます。」


巨人族の暴挙の原因は分からないが、魔物に操られたりなんて事も考えられる。

それに昨日の3人との話の後、モノ子が今ならほぼフルパワーのカオスヘイローが使えると言っていた。今のカオスヘイローなら意識のみを断ち切って気絶させる事も可能らしい。凄まじい力だ。

今回の様な本当に傷つけていいのか分からない相手と戦う時にはかなり有効だろう。

それに……困ってる人が居て俺にどうにか出来るなら、助けたい。


船長は深々と頭を下げてきた。

時間が惜しいのでアイとマリィは次元の家に待機してもらい、モノ子はカオスヘイローの姿で俺は加速系魔法を使って一気に目的地に向かう事となった。



──────────────────


走ること数時間、消費する魔力と体力を出発時ギルドで受け取った魔力ポーションとスタミナポーションでこまめに回復する。

高級品らしい、特に魔力ポーションは相当貴重な様だが前払い分と言って譲ってくれた。

道中たまに襲ってくる魔物もいるが、ヘルヘイムの魔物に比べればかなり弱い。

それにカオスヘイローの技の練習台だと思えばいい。お陰で意識だけを斬る技もかなり使いこなせるようになってきた。だいぶずるいなこの技。


そうして走っているうちにロスリナの町が見えてくる。塀に周囲を囲まれているが、そこまで高くないから高いところから見れば様子もわかりそうだ。

しかしあまり大きな町ではないが…様子がおかしい。

話では巨人族による襲撃があったと聞いていた。

にも関わらず煙が上がってる等の争いがある様子は見えない。もう収まったのだろうか…?いやそれにしても音沙汰が無さすぎる。ギルドに報告が無いのも変だ。


「もう着いたんじゃな、速いの。流石主じゃ、我も速く泳ぐ訓練でもせんと…なんじゃ、これ…。頭が…。」

『着いたのー?………う…うう……。』


少し離れた場所から観察しようと木陰に隠れる。

次元の家から2人も顔を覗かせるが、すぐに顔色が悪くなってひっこんでいく。

マリィ?どうしたんだ?アイも様子がおかしかったが。


『(分からん…、じゃが外に出た瞬間頭の中を弄られとる様な感じがしたのじゃ…。

今は何ともないが…アイも同じ様子じゃ。)』


次元の家の中から念話のような感じでマリィの声が聞こえる。

弄られる様な…?そんな感じは俺は一切感じない。カオスヘイローに触れるがモノ子も何ともないようだ。


《…私と京介だけ何ともない?》


その様だ。しかしモノ子も精霊の姿だと影響があるかもしれない。

今回は俺達で何とかするしかないようだ。

出鼻をくじかれたような気分だがどうするべきか。


『(主よ、無理するでないぞ。お主なら大丈夫じゃろうが、アイも心配しておる。撤退も視野に入れるのじゃ。)』


分かってる。無理はしないし、場合によっては後続の騎士や冒険者を待つことも考えよう。


《…京介、まずいかもしれない。

頭を弄られるような感覚って、洗脳とかそういうのかも。無効化できてる京介のステータス確認する、詳しく教えて。何かわかるかも。》


目を瞑り自分のステータスを確認する。


【ステー�ス】

京介 ��の眷属 LvXXX

状態 ��の加護 左�欠損 混沌剣の使い手 次元竜姫の主


特に変化はない。モノ子に書かれている通りを伝えると少し間があった後にモノ子は口を開く。


《読めない加護、アイの加護…だと思うって言ってた。多分それに私の持ってる【精神汚染】と同じ効果があるのかも。私やマリィの主になってる影響の可能性も0じゃないけど。》


モノ子、【精神汚染】なんてステータス持ってるのか…?絶対いい効果じゃないとおもうんだが。

それにアイの加護にそんな効果があるなんて。

当の本人には抗体がないから予想の範疇程度かもしれないがな。


《大丈夫、京介の事が好きすぎて京介が他の人と話してるだけで嫉妬で気が狂いそうになるだけのステータスだから。

…多分このステータスがこの辺一帯にある何かへの抗体になってるんだと思う。》


それ俺の負の感情のせいだよねと思いつつ、その事については後日話し合う事にする。

もしモノ子の推理が正しいなら今後くる騎士や冒険者達にも悪影響が出るのは避けられないだろう。場合によっては隣国からの討伐隊なんかが編成されたらとんでもない事になりかねない。

本当に洗脳ならその効果次第では同士討ちとかになってしまう。

だが俺が引き返して騎士達に伝えても信じて貰えるかわからない。船長だけでなく他の人とも話を付けとくべきだったか。


「…この様子じゃ、あのロスリナに何も無いってことはないだろうな。

あんまりのんびりしてると他の人達にどんな影響が出るかわからん。

マリィ、俺達は町に潜入する。問題はないといいが次元の家の中でも違和感を感じたりしたらすぐに撤退するから教えてくれ。」


『(了解じゃ、無理するでないぞ。主の命第一じゃ。)』


肯き、隠れながら町に近づく。何かあるとわかった以上バカ正直に突っ込む訳にも行くまい。

町の門近くに行くと、門番だろうか。人が立っているが門の内側を見つめている。普通じゃない。


《こっちを見てないなら塀から登れるかも。》


モノ子の言う通り見える範囲の見張りはあいつらだけのようだ。

サッと登って町に侵入しよう。

俺は風魔法で飛び上がって塀に捕まり、内側をこっそり覗いた。

ゾッとして思わず声を上げそうになる。

町の中には、人と巨人が共に暮らしていた。

巨人のサイズは人間の2倍程度だろうか。個体差もありそうだが、思った程ではなかった。

しかし問題はそこではない。

隣人のように、ならんで歩いていることもあれば、武器を振り上げ人を襲っている巨人もいる。

しかしその事に誰も疑問を抱いていない。

当たり前の様に生活している。


「…多分モノ子の言った通り洗脳だな…。

随分悪趣味なヤツがいるみたいだ…。」


モノ子は何も言わない。恐らく絶句しているのだろう。困惑と恐怖の感情が伝わってくる。

俺も同じだ。少なくともこんなの見ていたら俺達まで気が狂いそうになる。


「ん?…巨人達も行動が一貫してない…?洗脳されてる?となると巨人以外の真の原因となる黒幕が居るのか?」


巨人が洗脳の力を持って人を操っているなら、奴隷の様に扱ったりするだろう。だがまるで当たり前の様に一緒にいる。巨人も洗脳されていると考える方が自然だろう。

塀の上からじゃ限界がある。

このままじゃ見つかる可能性もあるし潜入するしかないだろう。

しかし街ひとつ飲み込む程の洗脳の力…。

魔王クラスの力の持ち主…?四天王に状態異常をばらまいてくる蝶みたいな奴が居たが、そいつを明らかに超えてる規模だ。

俺に…勝てるのか…?


《京介、今は全力の私が居る。それに相手の洗脳が効かないって事は京介と私はこの黒幕に相性が良いんだと思う。》


むしろ最善である俺達がなんとかしなきゃ行けないって事か。俺達が来て正解だったかも知れないな。

被害を最低限にするためにも、戦うしかない。

ありがとう、モノ子。弱気になりかけてたけど大丈夫そうだ。

そうして出来るだけ物音を立てない様に侵入し、

家の隙間から再び周囲を確認しようと顔を覗かせると…。


「…………………。」「…………………。」「………………。」


巨人も人も何も言わずにこちらをじっと見つめてきていた。バレた!?しかしこちらを見る目が、濁っている…?

そして…その全てが同時ににやりと笑った。


『新シいおもチャ、みィつけタ。』


【世界破滅者 悪辣ナル巨人ノ覇王 顕現】


ゾクリと全身に鳥肌が立つ。人々に見られたのも気持ち悪かったが、悪意に満ちたおぞましい声が何処からか聞こえ、視界に現れた謎のメッセージが現れる。世界破滅者…?なんだそれ。


状況は不明だが少なくとも敵に居場所がばれている。

ここはもう打って出るしかない。


《京介!!囲まれてるっ!》


気がつくと背後にも人が立っていた。

カオスヘイローを抜剣し、意識を集中させる。

多分洗脳を解いちゃ駄目だ。最初に襲われていた人、おそらく俺と同じ外部の人間だった。

俺と同じ耐性持ちで正気だった可能もある。正気に戻った人が襲われる可能性を考えると気絶か撃退が最前手。


「…モノ子、意識だけ斬る。やれるな。」


飛びかかってきた人を一太刀で切り伏せる。

だが身体は一切切れていない。まるで通り過ぎる様に剣が身体を通り抜けると、斬られた人は動かなくなる。

技名は…【気絶】でいいかな。名は体を表すしわかりやすい方がいい。

1.2.3.4.5.6.7人と流れるように斬っていく。一先ずは打ち止めだろうか。

かなり集中力を使うが巨人相手にも効果があるようだ。


《ああ…京介が私を完璧に使いこなしてくれてる…。京介と私の絆が証明されてる…幸せ…。》


恍惚としているモノ子の顔が浮かぶ。モノ子が嬉しそうでなによりだ。

剣を振るい鞘に戻す。


『あーア!!殺シちゃっター!!人殺シはイけナイんだゾー!!捕マえなきャなー!!

って言ウか俺ノ洗脳きいテネェじゃン!!ズルすんナよ!!チーターとカ萎えルわー。

シャーねぇかラ集団リンちするカー!!』


また声が響く。聞いているだけで頭が痛くなりそうな声だ。殺してないし。

しかし声の主の言う通りこちらに迫る足音が聞こえてきた。何度も相手をしていたら俺の身が先に持たなくなる。

ここは身を隠しながら声の主をさがすしかないだろう。何とも戦いにくい。洗脳による一般人、冒険者の兵隊化か。

クソみたいだという事に目を瞑れば良いアイデアかもしれないが、人道から離れすぎてる。相手は魔物なのだろうか。少なくとも魔王では無さそうだが…。あいつはまだ品があった。こいつは話し声と雰囲気だけだが外道にしか思えない。


そこからも隠れては見つけられて襲われるを繰り返す。

どうやら洗脳された人間は俺の場所が分かるようだ。町自体にかけられた洗脳の影響か…?

はたまた声の主の能力か。

少なくとも今は一時でもはやくこの状況を打破しなければいけない。



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