サイドストーリー EX3 アイ
昔々のお話。
空からとある山に薄ピンク色の何かが落ちてきた。
落ちてきた何かは頂上から一直線に地面へと潜っていく…否、一直線に地面を喰らっていく。
ある程度喰い進めた所で周囲を一気に喰らって大きな部屋が出来る。
それから休んで喰らってを繰り返してじわじわと山の地下にはトンネルや部屋ができて行った。
それから何百年と経ち、山の頂上にはいつしか巨大な城が立っていた。
禍々しい装飾の施された城。だが薄ピンクの何かには関係なかった。
むしろ城が出来た頃から周囲に岩よりもっと美味しい物が溢れかえっていたからだ。何かは岩を食べるのをやめた。
何かはたまに外に出てはそれらを狩っては食べて、少しづつその身体を巨大化させていった。
また何年も月日がながれた。
穴の上から普段食べる物とはちょっと違う物が落ちてくる事が増えた。
何かは何もしなくても待っていれば落ちてくるのでそれを食べる事が増えた。
今日も4つ、落ちてきた。
何かはそのうち3つをすぐに食べ、最後の1つも食べようとした時、最後の1つから掠れた音がした。
「どうか…ご無事で…勇者様が元の世界に帰れる事を…ずっと祈っております…。私の愛する勇者様…。」
そうして最後の1つもうごかなくなった。
何かは一瞬動きを止めたあと、最後の1つを喰らった。
だが、いつもと何かが違った。
喰べ終わった何かの姿が、人型に変化できるようになっていた。
『あー、あー。おー、喋れる喋れるー。
初めてだったけど上手くいったねー。
この子…うんうん『私』が何を言ってたか今なら分かるー。知識って便利だねー。
でも…『アイ』ってなんなのかなー。それに『勇者』って…?
……あー、駄目だぁ。これ以上は上手く取り出せなくなっちゃった。』
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また時間が経つ。1年程だ。
かつては塊で移動していた何かはいつしか自ら掘った洞窟を埋め尽くさん程に広がっており、粘液の洞窟と化していた。
『あー、1人って退屈だなぁー…。』
退屈過ぎるのか身体はドロドロになっている。何かは石を投げて遊ぶ。自分の粘液の身体で石が跳ね回るのを眺めるが、別におもしろくもないようだ。
『どこか行きたいけど、その間に勇者が来たら嫌だもんなぁー…。
退屈がこんなに辛いなら『私』にならなきゃ良かったなぁ…。』
しょぼんとする何か。しかし次の瞬間、べちゃりと何かが落ちてくる。
『…ん?なにこれ?あ、人間の腕だー。
最近はあんまり落ちて来なかったのにー。』
何かは近寄って腕を手に取る。ボタボタと血が流れ出ている。
次の瞬間、薄ピンクの真上に青年が落ちてきた。
『いったー!!くない!!なになにー!?』
落ちてきた青年に潰されながらも青年を抱き起こす。何時ものご飯かと思ったが、薄ピンクが触れるとまだ熱を持っていた。
『あっ!やっぱり!久しぶりに落ちてきたー!!
でもまだ温かいー??それにこの子どこかで…。あれ…?』
青年の顔を見る。まるでどこかであった事のあるような、ずっと会いたかったかのような衝動に駆られる。
が、まだギリギリ意識を手放していなかった青年がもがきはじめた。
全身ズタボロだがギリギリ生きているようだ。
『わーっ!!血で真っ赤になっちゃうー!!大人しくしてー!!』
何かは青年の動きを止めるために身体の1部を青年の口の中に押し込む。
荒療治だが、効果はてきめんで酸欠になった青年は動きを止めた。
『あ…やりすぎたかもー…。
でも酷い怪我ー…。『私』の魔法じゃ助けられないかもー…。』
ひとまず次起きた時に青年を驚かさないようにか何かは自分の身体を人間の少女のように変化させた。
そうして少し悩んだ少女は決意したように先程落ちてきた腕を取り込み消化する。
同時に青年の頭に触れる。
『…要らないので良いから、ちょっとだけちょうだいー。』
青年の頭から何かが抜けていき、少女に少しづつ入っていき、そして消えていく。
『よし、これだけあれば大丈夫ー!!身体の1部と記憶って結構魔導力になるんだねー。今まで貯めた魔導力と合わせれば全然足りそー!』
青年のズタボロの身体を少女が抱きしめると周囲の粘液がゾワゾワと2人を包みはじめた。
『きっと…助けるからね…。』
2人を包み込んでドームのようになった粘液は、まるで鼓動のように脈動をはじめた。
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男の子を無事助けられた。
初めて使ったから上手く行ってよかった。
男の子が起きたあとお話を聞いたら今まで凄く大変だったんだって。
一人ぼっちなのが嫌なのはずっと一人ぼっちだったから凄くわかる。
頭を撫でてあげると照れくさそうにしてた。
男の子はキョースケっていうんだって。名前を教えてもらったけど、よくよくかんがえたら私に名前は無い。今まで要らなかったし『私』の名前は私の名前じゃない。
『キョースケ!よろしくねー!私はえーっと…あっ!【アイ】、アイだよー!』
【アイ】がなんなのかよくわかんないけど、アイはそう名乗った。
もしかしたらいつか、その意味がわかる時が来るかもしれない。
それが良い意味だと、いいな。
キョースケは『勇者』だった。きっと『私』が会いたかった勇者はキョースケだったんだ。
その証拠に『私』がたまに出てくる。
というよりアイが逆に飲み込まれそうになる。すごい、これも【アイ】なのかな?
キョースケに仲間になろうって言って貰えた。
凄く嬉しい。
アイはもうキョースケの事が大好きになっていた。多分これは『私』の気持ちだけじゃない。
キョースケとこれから行く旅にアイ達は心も身体も震わせた。




