冒険の書 X16
翌日、早速近場の海岸に行き準備を始める。
オーシャの港から出発出来れば楽だったんだけど、人前でマリィが竜になる訳にはいかないからな。念の為に海パンとゴーグルも用意しておいた、海に魔物がいるから海水浴とか危なそうだけどこういうの普通にあるんだな。みんなの分の水着も買ったから、これは後日のお楽しみだな。
「それじゃ、昨日計画した通りにいきますか。」
《『『おー!!』』》
計画はこうだ。とりあえず今回は偵察だ。まずは現地を見て状況を判断、魚や魔物の規模の確認だな。次にリバイアサンの戦闘能力の判断、戦闘能力を見極めて場合によってはこの海域から去るまで待たなきゃいけない。もしリバイアサンがめちゃくちゃつよくて、場合によって逃げられないってなったら、急いで次元の家に避難する、というのが今回の計画だ。
レースだったらもう観戦するなり参加するなりなるようになれとしか言えない。
というわけで早速昨日ぶりに再び海に潜る。昨日に比べるとなんか魚の数が少なく感じる。
しかしゴーグルがあると目が痛くないしいいな。
『ん?あそこにおるのは……。』
「キューキュー!!」
「マナティ達!どうしたんだろ。」
『昨日ぶりー!!ポヨポヨー!!』
しばらく泳いだ先にいたのは昨日ぶりのマナティ達。だが必死に何かを伝えようとしている。
「キューキュキュキュー!!!」
『ふむふむ……主よ、今日は今代の王が泳ぐらしいのじゃ。恐らくリバイアサンとやらじゃろう。
危ないから他種族は逃げろと……多分そう言っておる。』
わざわざ俺達の身を案じて来てくれたのだろうか?優しい子達だ。
しかしそいつが来るなら好都合。戦うにしろレースをするにしろ行ってみるしかない。
「キュー……。キュキュ!!」
俺達の雰囲気に何かを察したのか手招きするマナティ。
《今のは何となく分かる。着いてこいって》
俺達は頷き後を追うことに。
マナティ達の後を追ってしばらく泳ぐ。
すると……見たこともないくらい大量の魚や海の魔物がうじゃうじゃいた。
こんなに大量の奴らに襲われでもしたら流石にひとたまりも無いが、マナティ達のおかげか襲われる事は無いようだ。
「キューキュー!」
マナティが元締めみたいな雰囲気の魚人みたいな魔物に話しかけてる。マーマンとかそういう奴か?
しばらく悩んでいる様子だったが、こちらを見て頷くとサムズアップされた。
「キュキュ!!」
『……主よ、参加出来るみたいじゃ。』
「……何に?」
『何って…お主の言っておったれーすみたいじゃよ。』
ほんとにレースなのかよ。まあ無血ですむならそれが一番だけどさ。なんで魚の文化にレースがあるんだよ。
「ニンゲン……デハナイネ。モチモチタチノシリアイ?」
「キュ!!」
ほんとのほんとにレースだとは思わなかったので困惑していると人魚の女性が近寄ってきた。
喋る魔物?…いや人魚って魔物なのか?きになるが……。あとマナティってモチモチって名前なんだ……。可愛いね。
「ヘェ…コノコ達レース二デルンダ。
アタシハ今日ノレースクイーンノ ナディダヨ。ヨロシクネ。」
「あ、どうもご丁寧に。俺は京介です。」
『アイだよー。』
『マリィじゃ。よろしくの。
それでナディよ、れーすについて詳しく聞いても良いかの?』
「アア、カマワナイヨ。」
渡りに船とはこの事か。
ナディさんに説明してもらってようやく色々わかった。
この魚の大群、海の王たるリバイアサンによって開催される海の最速王決定戦を見に色んな海から集まっているらしい。そしてもっとも速い者が新たなリバイアサンになるのだとか。
そのレースは各地で開催されており、今回はたまたまここだったそうな。
そして大量に居た魚達、こいつらは観客であると同時にコースでもあるらしい。なんともまあはた迷惑な……。いや、海はこいつらの物だから、催し物やってる時に船なんかに通られたら迷惑か。
「昨日マデハ予選ダッタケド、今日ガ本番ダヨ。王モオ見エニナル。」
え、本番?と言うことは最終日?もしかして俺達別に来なくても明日にはこいつらどっかいくのでは?もしかして無駄足?
「…ん?あれ?昨日まで予選なら俺達出れないんじゃ無いのか?」
「キュキューキュ!!」
マナティ…いやモチモチが胸を張ってドヤ顔してる?
「ヘェ…モチモチ達ノ特別推薦ナンダ。コレハモチモチ達二恥カカセラレナイネ。」
「キュ!!」
『なんかお前達ならやれる、頑張れよ的な事言われとるのじゃ…。もう後に引けんぞ主よ。まあ泳ぐのは我じゃがな。』
残念ながら退路は無いらしい。まあ色々世話になったモチモチ達の顔に泥塗る訳にはいかんよな。
『モチモチ達すごいんだねー。何者なのー?』
「アイドルダネ。コノ子達ハ大人気アイドルグループ『モチモッチン』ッテ言ウンダヨ。」
方言系アイドルグループマナティって事……?いや確かに可愛いとは思うが、なんか海の文化って大分俗世的だな…。俺みたいな異世界召喚があるくらいだから、異世界転生して魚になって文化広めてるやつがいるんじゃないのか?
この調子だと海の中に竜宮城みたいなゲームセンターとか出てきかねんぞ。
『それで、今代の王とはどいつじゃ。』
「王ハマダダネ。スタートピッタリ二クルノサ。トマレナイカラネ。
サテ、モウスグスタートダヨ。アタイモイクカラガンバリナ!」
止まれない……?なんかマグロみたいな奴だな。
しかし海の魔物の王は速さで決まるのか。マリィが勝ったらどうなるんだろ。
「キュキュ!!」
モチモチ達が手をビシッとする。多分激励してくれてるんだな。
「ありがとう、頑張ってくるよ。」
モチモチ達に見送られて俺達はコースへと泳いで行った。
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「で、結局全員で行くのか?」
『当然じゃ。主は我を魔法で強化、モノ子はいざとい時の自衛手段と周囲の確認係。アイは固定係と防御と同じく確認係じゃな。』
「3人乗りだと危ない。今日も剣で腰に張り付いてる。状況は京介に伝える。」
『ぶつかられても跳ね返すから安心してね。』
時間ギリギリだが、何とか作戦会議をする。
コースに入り上を見ると小魚が集まって今日のコースの地図になっている。器用だし賢いなこいつら。
周囲にはシャチみたいな魔物とか、イルカみたいなのとかから人魚、魚人まで様々。予選を勝ち抜いて来ただけあって皆速そうだ。
念の為にエアーバブルを張り替えておこう。
「アーアー!!ソレデハコレカラアラタナリバイアサン決定戦 最終戦ヲ開始スル!!
ルールハタンジュン。今イルスタート地点二モットモ速ク3週シテ戻ッテキタ者ガアラタナルリバイアサンダ!!露骨ナボウガイハ禁止ダガショウトツ等は問題ナシ!以上!」
水中なのによく届く声でナディさんが説明してくれる。良かった、よく考えたらルールとかも詳しく知らなかったからな。
「デハスタート…ノ前二アイドルグループ『モチモッチン』二ヨルダンスショーヲオタノシミクダサイ!!」
「キュキュー!!」
なんか始まった。可愛い10匹程のモチモチがモチモチしながら音楽に合わせてダンスを披露している。どっから音なってんだよ。
会場は大盛り上がりだけど、なんというか……。気が抜けるな。
『モチモチ達可愛いねー!!』
《モチモチしたい。》
「うん、そうだね。」
結局メインはステージじゃないはずなのに3曲+アンコールまでやってはけていった。
なんなら終わった瞬間観戦に来ていたと思っていた魚がちょっと減っている気がする。おいこらメインイベントはいいのか。
「はぁ……まあどこの世界でもアイドルが居ればドルオタってのは居るよな…。」
『どるおた?何じゃそれ?』
「うん…また今度教えるよ。…言って俺もドラオタだしな。」
かなり気は抜けてしまったが改めて気を引きしめる。せっかくやるなら勝ちたいしな。
他人に対して強化魔法を使う練習もしっかりしたし問題なし。
「それじゃ、せっかく参加するんだから勝ちに行こうか。」
《『『おー!!』』》
ナディさんが旗を握ったのを確認して早速魔力を用意した時、背後からとてつもない圧を感じた。
「……スタート!!!!」
ナディさんのスタートの声と共に旗が振られる。
直後、巨大な魚影。でかい、そして速い。
魚影は一瞬で俺達をぶち抜いてトップでスタートしていく。
急いで気を持ち直し、風の強化魔法【ソニックダッシュ】と後ろへ向けて自分達を押し出すように水魔法【ハイドロジェット】を放つ。
「マリィ!!行くぞ!!2人はサポート頼む!!」
『はっ!!すまぬ!ゆくぞ!!』
マリィも気を持ち直し、一気に加速する。
ほんの数秒ではあったが、出遅れた。他の選手達も圧に押されていたが、続々とスタートしている。
《まずい、さっきの魚影。もう見えない。》
「マリィ!!」
『これからがすたーとじゃ!主よ!2速じゃ!!』
「わかった!アイ!光の防御魔法を俺達の背後に!!」
『任せて!! 光の守り人よ、我を守護する盾となれ、【ホーリーシールド】!!』
アイに声を掛け火と水の魔力を調節する。
周囲の参加者に怪我させないように注意しながら、水中を『爆発』させる。
合体魔法【イグニッションブースト】。地上で使えば水蒸気爆発が起こる危険な魔法だが水中だと水中爆発が起こる。
そのままだと俺達にもダメージがあるが、そこはアイの防御魔法でカバーだ。
『おおっ!!一気に加速したの!!我も全力で行くぞ!!』
一気に加速し、減速無しで【ハイドロジェット】で姿勢を制御しながらカーブを曲がると、少しづつ前を泳いでいた魚影が見え始める。しばらくはまた直線だ。
追加でマリィに無属性の素早さを上げる魔法【ラピットブースト】と体力を回復する【ライフアップ】をかける。魔力に限界こそあるが、加速出来るところでは加速しなきゃ行けない。
《だいぶ近づいた。後方はだいぶ振り切ってる。》
モノ子の言う通り後方は確認できずトップのリバイアサンにもだいぶ近づいた。
そして…先程まではしっかり確認出来なかったその姿が見える。
黒と銀の輝くボディ、斬れ味の鋭そうな外見のヒレ。そう。俺達の前を泳いでいたのは…。
「おいおい…。ほんとにマグロかよ…。」
それはあまりにもでかいマグロだった。見た目的に魔物ですらないガチで速くてデカイマグロ。
多分10Mくらいある。ほぼシャチじゃねぇか。
なんで俺達マグロ相手に水中レースしてるんだよ……。ナディさんの説明で何となく分かっていたが…と、一瞬気が抜けそうになった瞬間、リバイアサン……いやマグロサンと目が合う。
圧倒的存在感、恐らく速さと言う点において、最強の称号を持つ者の気配に再び気圧され、再び差をつけられる。
気合いを入れ直して水魔法を使って自分達を押し出す、レースはまだまだこれからだ。




