冒険の書 X15
「旅人4人か、港街オーシャへようこそ。身分証は…おっと、ギルド職員さんでしたか。お疲れ様です。」
しばらく歩いた先、目標通りのヘルヘイムとマリーシアを繋ぐ港街【オーシャ】へと到着することが出来た。
入口でギルド職員のカードを見せると驚くほどあっさり入場する事が出来た。
「やっぱりギルドって結構な力もってんだな。
他の冒険者や商人は多少時間かかってたが、俺達はほぼ素通りだったぞ。」
「信頼されてるのかも。悪いことできない。」
全くだ。そもそも元とはいえ勇者だし…。ゲームの勇者って結構悪いことしてるな?住居不法侵入とか器物破損とか。そんなことしたら一発で衛兵とか来て捕まりそうだ。
「ふむ、観光も良いがまずは情報収集かの。船が沖に出せん影響かどんよりしておるし。
問題を解決した後悠々と楽しんだ方がいいじゃろ。」
マリィの言う通り今居るメインの大通りは活気こそあるものの、どこか暗い雰囲気を感じる。
事情を聞く為にもとりあえずはギルドに向かってみるのがいいだろう。
「すいません、冒険者ギルドってどこにありますか?」
「ん?ああ、それならこの通りを真っ直ぐ行った先にあるよ。青い屋根のでかい建物だからすぐ分かるぜ。」
「ようこそ、冒険者ギルド オーシャ支部へ。本日はどう言ったご要件でしょうか?」
「えっと、ガデアでギルドの職員になった京介と申します。船が出てない現状について色々お伺いしたいとおもいまして。」
「あら、話は伺ってますがまさかもう来られるとは…。オーシャの船ちょ…ギルドマスターは奥の部屋に居ますので、そちらにご案内致しますね。」
道中行き方を聞いてギルドに無事到着。すぐに入口で対応してくれた職員さんに話を聞こうとすると、奥に通される事になった。
そういや船も出てない中俺達泳いできたんだった。なんて説明するべきか…悩みながらギルドマスターの部屋をノックする。
後なんか言いそうになってたな。せんちょ……船長?
「入りな。」
「失礼します。」
扉を開けると、そこに居たのは海賊の女船長といった雰囲気の女性。壮年だが、その威圧感は中々の物。確かにこれは船長だ。
「…ふうん、あんたらがガデアのが言ってた子らかね。
よく来たね、ようこそオーシャへ。歓迎するよ。
アタイはベル、ギルドマスターと呼ばれるのは好かないから船長とお呼び。」
「京介と言います、よろしくお願いします。」
『アイだよー!よろしくー!』
「モノ子。」
「アノマリスじゃ、マリィで良いぞ。」
俺達の挨拶に鋭い眼光と共にニヤリと笑う。
「へー、話に聞いてた通り変なのがそろってるじゃないかい。実力が話通りなら助かるんだがね。
さっそくだが、要件は沖の件だね。あんたらどうにか出来るかい?」
ガデアのギルドマスターといい、話が早くて助かる。どうにか出来るか?と問われると今の所なにも分からないので話を聞くまでYESとは言えないが。
「状況をこちらは把握していないので、まずは話を聞こうかと。沖に大量の魚や魔物が現れて航行を妨害されていると聞きました。」
船長は少し思案したあと、一度頷いて話してくれた。
「ああ、その通りさ。特定の場所で大量に留まってるんだよ、魚達が。それもかなりの広範囲。種類も千差万別。んで近づくと襲われちまう。海中ってのは冒険者でもなかなか対応出来る奴はいないからね。正直お手上げさ。」
魚が動かない?そんな事あるのだろうか。いや、マナティ達が教えてくれたルートを通らなければそれにかち合ってたのかもしれない。しかし不思議な事もあるものだな。
「…あたいはね、昔見たことがあんのよ。ありゃきっとリバイアサンだね。」
リバイアサンっ……!?リヴァイアサンやレヴィアタンなどと言われる巨大な海龍や強い力を持つ悪魔の名前!?マリィのダンジョン以外にも竜や龍がいたのか……!?
マリィの方を見るがよく知らないようで首を傾げている。
「その様子じゃ知らないようだね、無理もない。リバイアサンは海を統べる魔物の王さ。その凄まじい存在感は周囲の魚すら凍てつかせると言われてるね。漁師や海賊の間で語られる御伽噺といわれちゃいるが……。
だがあたいは若い頃にあの背鰭を見た時は恐怖で心臓を掴まれたね。実在するのさ、奴は。」
「そんな奴が近海に……?」
「確かにそれじゃ船出せない。」
「…あんたら、この短期間でガデアから海を渡ってきたんだろう?理由は聞かない。だが可能なら今回の件、調査してはくれないね。もちろん報酬は弾むよ。」
海を渡ってこられるなら他の冒険者よりは対応出来るだろうって事だろうな。
…ガデアの人達には恩があるし、一応ギルド職員だからな。
「…わかりました。可能な限り対応します。
…あー、ひとまず調査は明日から行いますので、先に良い感じの宿紹介してもらっても良いですか?」
『お腹空いたー!!』
次元の家があるにはあるが、せっかくの旅なので美味しい飯とシャワーのある部屋に泊まりたい。
海水は水魔法で洗い流したが、それでもやっぱり気になるしな。
それになにより宿に泊まるのって普段と違う感じでワクワクするしな。旅の醍醐味だ。
「よろしく頼むよ。
それとわかった!嬢ちゃん達が満足出来るような美味い飯を出す宿紹介してやるよ。代金もこの街にいる間はウチが持ってやる。ゆっくり休みな!!」
というわけで俺達は船長の紹介で宿屋【バッカスの大樽】に宿泊出来るようになった。
なんか店構えがガデアの宿と似てるな。
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「まあ!よくきたんだねぇ!!話は船長さんから聞いてるんだねぇ!」
『あ!女将さんだー!!』
紹介された宿に行くと、ガデアの宿でお世話になった女将さんがカウンターに立っていた。
女将さんに懐いていたモノ子が驚いた顔でトテトテと寄っていく。
「女将さん、ガデアからこっちにきたの?」
「ガデア…?ああ!!それは私の双子の姉なんだねぇ!!私は双子の妹なんだねぇ!!」
双子……うそだろ。そっくりすぎる。正直この世界にワープ系の魔法が存在するって言われた方が納得行くぞ。
「さっきも言ったけど、話は聞いてるんだねぇ!ゆっくり身体を休めていっぱいご飯食べるんだねぇ!!ついでにしっかり楽しむんだねぇ!!」
オーシャの女将さんに背中をおされ部屋に放り込まれる。双子だけあって顔だけでなく雰囲気もそっくりだ。
「ってうわ……すげぇ……。」
『わ!豪華な部屋!』
綺麗な調度品、綺麗な景色が一望できる窓、クソでかいキングサイズベッド。そして部屋もクソ広い。
シャワーもしっかり完備だ!
『おお!良い部屋じゃの!これだけ広いと我も竜の姿で寛げそうじゃ。』
マリィは竜の姿に変化して寝そべる。めっちゃじっくり見たいが、そうするとマリィがゆっくり出来ないから我慢だ……。大切な仲間に不快な思いをさせる訳には行かない。
『うむ。さすが主じゃ、紳士的で偉いぞ。
主のその態度に免じてちょっとくらいならナデナデさせてやるのじゃ。』
「まじか、じゃあお言葉に甘えて……。
マリィのお陰で海を渡ってここまでこれた。ありがとな。」
『…………。』
俺が撫でるとマリィはポンッと再び人間の姿に戻り、ベッドの中に潜っていく。ありゃりゃ、もう終わりか。
「……悪い男じゃ。」「悪い男。」『悪い男だー。』
満場一致で悪い男判定されてしまった。許可を得てナデナデしただけでその評価とは……。まあ撫でられたから良しとしよう。
3人がシャワーを浴びて俺も浴びた後、改めて明日の作戦会議をする。
「今回の目標、リバイアサンの撃破。」
「ああ、恐らくそうなるな。現地までは今まで通りマリィに運んで貰う形になると思う。負担が大きくて悪いな。現地に着けば俺とモノ子がメインで戦う事になるが、正直敵の強さが未知数だな。」
「適材適所じゃ。戦闘はお主ら頼みじゃし、それを支えるアイもおらねば成立せんからの。」
『今回も頑張るよー!』
全員気合い十分と言った所だ。
しかし周囲を凍てつかせるような存在感、そしてマナティ達が言っていた轢かれるや入場制限。
どうも普通では無い気がする。
「…主よ。恐らく同じことを気にしとるようじゃな。」
「ああ、船長の言葉やマナティの言ってたこと…、どうにも気になる。轢かれるって事はでかいヤツが泳ぎ回ってるって事、入場制限は見世物って事かなって。ただ回游してるだけのでかい魚にそんな表現するか?」
「魚達の見世物……?何を誰が見るの?」
誰がって言われると……魚達?なんでも大群が動かないらしいからな。
『わかったー!!追いかけっこしてるんだよー!!』
「追いかけっこ……?そんな海の王が……。……いや、アイ。それ有り得るぞ。」
マリィとモノ子が俺達の言葉に首を傾げる。
自分でも馬鹿なとは思うが、この世界はファンタジーで馬鹿げたことなんていくらでも起こる。
「…実際に見ないと確定は出来ないが、俺の元居た世界にはレースって競技があったんだ。
誰が1番速いかを競うゲームだな。」
だいぶ頭の悪い発想だが、絶対ない話では無い気がする。
「そういえば主は別の世界から来た元勇者だと言っておったの。しかしそんな面妖な物があるのかの…?」
確率はそこまで高くないだろう。だが動かない魚は観客でありコース。轢かれるは複数の魚や魔物が高速でコース内を泳ぎ回ってるとしたら辻褄が合う。
船を襲うのもコースの範囲に勝手に入ろうとする部外者を攻撃してるのかもしれない。
「……ほんと馬鹿みたいな推理だが、一応辻褄は合うんだよな。
もしレースなら明日は俺の強化魔法をマリィにかけてぶち抜くぞ。場合によっては戦闘以外で勝つ手段もあるかもしれん。」
「バカバカしい……とは一概にいえんの。そういえばマナティの中に明日見に行くだの挑戦者がどうだの言っておる奴らがおったわ。
むふふ、まあこの次元竜姫が今後海の王を名乗るのも面白いかもしれんの!!」
最初は呆れ顔だったが、すぐにやる気満タンといった表情にかわる。マリィは泳ぎにはかなり自信がある様子だったから頼りになるな。
「私はお留守番?」
「いや、レースはあくまで予想の1つだ。普通に戦闘の可能性の方が高い。戦いになったら頼むな。」
コクリと頷くモノ子。相手は海の魔物の王なんて呼ばれているらしいからな。四天王共レベルなら良いが……。魔王みたいなのが出ない事を祈るばかりだ。
『アイも頑張ってキョースケ達ささえるねー!!』
「頼む、正直アイが支えてくれないと俺もお荷物だ。」
そこからも俺達はやんややんやと話し合いを続けた。




