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敗北した元勇者の放蕩の旅  作者: 頂 有栖
第2章 マリーシア編

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冒険の書 X14

「あんたらがガデアのギルドマスターの言ってた人らか。悪いな、マリーシア大陸行きの往復船はきてないんだ。」


ガデアの街を出発し、ヘルヘイム大陸を旅して数日。俺達はようやく船着場まできたが、肝心の船が来ていないようだ。


『なにかあったのー?』


「ああ……なんでもマリーシアの沖に出ると大量の魚や魚型の魔物に襲われるらしくてな。何年かに一度漁師達が見かける現象なんだが、この海域では初めてだから困ってんだよ。ガデアへの輸送品も滞っちまうし、俺らも色々届かなくて大変だぜ。」


気落ちした様に言う男性。ここは船着場と数軒の家があるだけで村と言える規模もない。いるのはここの管理をしてる人と護衛の騎士のような人達くらいだろうか。この辺なら魚も魔物もいくらでも捕れるが、それだけじゃ辛いよな。

それに、輸送品が滞るのはガデアの人達が困るだろう。ガデアはそれなりに自給自足もしているようだったが、魔法道具や調味料、色々な素材は外部から取り寄せているだろうからな。

それに冒険者も海を渡れなくては困っているかも知れない。


「船を襲う魚の群れ。ボス魚でも居る?」


かもしれない。超でっかいサメ型の魔物とかいたら流石に怖いな。それか…もしかして魔王か?いや、俺みたいな死に損ないにわざわざ何かしてくる事も無いだろう。


「ありがとう、他の方法を考えるよ。」


しかし困った、船がないならしばらく滞在するしかない。魔物肉以外の食材は有限だし、場合によってはガデアに引き返す事も考えないとか……?


「むふふ、全く仕方ないの。主よ、あちらにゆくのじゃ。」


マリィに手を引かれて船着場を後にする。

周囲に人の気配がなくなった所でマリィは竜の姿に変身した。やっぱり可愛いな。眼福だ。


『我が乗せて泳いでやろう。何が出るかわからんからモノ子は剣、アイは主らが落ちんように支えてやって欲しいのじゃ。』

「え!?まじ!?乗っていいの!?」

『緊急事態じゃ、変な所を触るでないぞ。場合によっては主は次元の家で留守番じゃからの。』


それは困る、せっかくのチャンスだ。ここは紳士的に行こう。使い魔も剣状態のモノ子みたいに考えてる事がすこしバレちゃうみたいだからな。

ちなみに次元の家とは俺達が居住空間にしているマリィの異空間にある家の名前だ。

剣になったモノ子をしっかり腰に固定し、マリィにのった俺をアイがしっかり支えてくれる。


『む、そういえば主らを乗せると長時間潜れんの。潜った方が安全じゃしはやいんじゃがの。』


本来人間なら長くて数分が息を止める限界だからな。だがその辺は抜かりない。


「それなら大丈夫だぞ。」


風と水の魔力で、空気の入った泡を複数作り出す。複合魔法ってほとんど載ってなかったからこれもオリジナル魔法だ。さしずめ【エアーバブル】ってところか。以前水中の探索をする際に思いつきでやってみた魔法だが少なくとも1時間は問題なく呼吸ができた。

アイと自分の口元にくっつける。


『おー!すごいねー!!』


『便利なものじゃのー。じゃがこれで準備万端じゃ。では出発するのじゃ。』


のっしのっしと海の中に入っていくマリィ。しかしこの少しぶにょんとした触り心地。たまらんな……。


《京介。》

『…やはり主だけ家で留守番なのじゃ。』

申し訳ありませんでした。紳士的紳士的。


─────────────────────


海の中はとても綺麗だった。

俺自身の視力も上がってるのもあるが、透き通るように綺麗だ。魚や魚っぽい魔物が多くいるが、大半はマリィにビビってか逃げていく。


『わー!すごい!!おっきい魚いるよー!!』


アイが指さす方向を見るとウツボのような魚……いやあれ魔物だな。しかもおもいっきりこっちに向かってきてる。元の世界で海であんなの見たら怖すぎてトラウマになるし気絶するわ。


『主よ!水中で雷魔法は感電してしまう!頼むのじゃ!』


「了解。モノ子、行くぞ!」


マリィから手を離し、腰からカオスヘイローを抜剣する。俺が離れないようにアイもしっかりお腹をもって支えてくれているから安心だ。


光と闇の魔力をカオスヘイローに流すと白と黒の魔力が視認出来るほど溢れ出す。


《魔力充填完了 いつでもいける。》


水中なので多少動きは悪いが、この技の威力ならなんの問題もない。俺はモノ子と息を合わせてウツボの魔物に対して剣を振るう。


《「【光魔一閃】!!」》


特大の光と闇の斬撃がウツボを真っ二つに斬り裂いた。

【光魔一閃】、ここに来るまでにモノ子と練習して使えるようになった遠距離技。俺の魔力とモノ子の魔力を均一に混ぜ合わせ、斬撃として放つ技だ。連発は出来ないが威力も範囲もピカイチだ。

ちなみに技名を付けたのはアイだ。なんかアイって独特なセンスしてるよな。ちなみに読みは『ホーリー&ダークスラッシュ』らしい。

その読みはモノ子が断固拒否していたが。


《…出力30%くらい。》


手厳しい。俺とモノ子のシンクロ率?が高い程威力が上がるらしい。俺とモノ子の絆で斬れ味が上がっていくとは言ってたが、それが足りないのか。俺はモノ子の事大切な存在だとおもってるんだがな。もちろん2人の事も。


《うん、私も京介の事大切な人だとおもってる。》

『我の上でイチャつくでないぞ。』

『え!?なになに!?何話してるの!?アイもお話したいよー!!』


仲間はずれは良くないよな。


「3人とも俺にとって大切な存在だって話してたんだ。」

『そっかー!えへへ〜。』


ご機嫌になったアイにギューっと抱きしめられる、絶命したウツボはマリィが近寄って異空間の中に回収する。

こっちに一直線に泳いできてたから綺麗に真っ二つになったな。


『結構でかいの。半身は他の魔物にくれてやるのじゃ。』


マリィの言う通り、既に半身には色んな魚や魔物が寄ってきて啄んでいる。

カニの魔物とかいるけど、美味いんだろうか。まあ俺はカニよりカニカマの方が好きなんだがな。

でも良い出汁が取れそうだ。


『さて、出鼻をくじかれたがここからは一気に行くのじゃ!』


一度息継ぎをした後、海中に潜り一気に加速するマリィ。

途中巨大なクジラのような大人しい魔物も見かけた。まだこの世界にはあんな魔物もいるのか。


─────────────────────


「キューキュー。」


『ふむふむ、なるほどじゃ。』


『ポニョポニョ〜!かわいいー!』

「……ポヨポヨ。」


数時間泳いだだろうか。時折マリィを休ませる為に海上に上がって次元の家で休憩していたが、かなり進んだようにおもう。

そうして何度目かの休憩の後しばらく泳いでいると、マナティみたいなプニョプニョした生き物が複数匹近寄ってきた。めちゃくちゃ可愛い。

撫でると嬉しそうにしているから人懐っこいようだ。モノ子も思わず精霊の姿になってプニプニして遊んでいる。


『主よ、このまま真っ直ぐ進むのは危険のようじゃ。イマイチ要領を得んのじゃが、どうも轢かれる可能性があるとか入場制限とか……。』


マナティの群れのリーダーっぽいのと話していたマリィが戻ってくる。


「マリィこの子達と話せるのか。羨ましいな。」

『断片的じゃがの。この者たちは方言がちとキツイ。』


魔物の言葉かな?というか方言とかあるんだ……。そういえばアランの仲間のミルダさんも方言強めだったな。この世界の田舎ってどの辺なんだろ。

しかし轢かれるとは穏やかじゃないな。少なくともあまり海の中で聞く言葉ではない。

それこそジェット機みたいに泳ぐサメでもいるのだろうか。それはそれで見たいが。

あと入場制限はほんとにわからん。なに?ライブでもやってんのか?


『陸地に行く安全なルートを教えてくれるそうじゃ。』


お言葉に甘えて案内してもらうことに。

泳ぎながらちょくちょくマリィが周囲のマナティと喋っていた。本当に羨ましい。俺もマナティとおしゃべりしたいな。

そういえばこのマナティ達と一緒に行動を初めてから魔物に襲われてない。むしろ近寄ってきても一緒に回遊してる魚の魔物もいるくらいだ。


『友達じゃといっておる。たまに襲ってくる奴もおるが、こやつらが守ってくれるんじゃと。』


「へー、それは凄いな。なんか仲良しオーラみたいなの出てんのかな。」


そういえばマナティはほとんど外敵がいないって聞いたような気がするな。ワニがマナティに近寄って一緒に昼寝してる所が撮影されたとかなんとか。

まあマナティその物では無いだろうからなんとも言えんが魔物とも友達とは凄いな。


それからしばらく泳ぐと、どんどん浅くなっていく。陸地が近づいてきたようだ。


「キュッキュー!!」


『案内感謝なのじゃー!』

「ありがとな!みんな元気でなー!」

『じゃーねー!』

《ポヨポヨ…。》


別れ際にそういえば水族館でマナティが野菜を食っていた事を思い出し、ガデアで買っていた野菜をいくつか手渡す。

嬉しそうに抱えて手を振りながらマナティ達は去っていった。

あの子達のお陰で安全に海を渡る事が出来た。また会えるといいな。


浜辺から陸地へと上がる。周囲を見渡すと少し離れた場所に街のような場所が見えた。あそこが目的地かな。


「マリィお疲れ様。いっぱい泳いでくれてありがとうな。」


「むふふ、どういたしましてじゃ。」

『アイもいっぱいキョースケささえたよー!!』

「私も頑張った。京介パワー充填希望。」


人間の姿に戻った3人を労う。京介パワーってなんだよ。

しかし疲れたし腹も減っているだろう。せっかくなので、手に入れた魔物でなんか飯でも作るか。


と言うわけでさっそく最初に手に入れたウツボみたいな魔物を捌いていく。

普通のウツボなら骨も細かいし、表面はヌメヌメだが、こいつは全てが桁違いにでかいので、骨切りなんかの工程は飛ばせるな。

食べる部分を綺麗に水魔法で洗い流して、1口大に切っていく。モノ子に頼んで女将さんに教えて貰っていた唐揚げの下味の調味料を用意してもらいそこにウツボの肉を漬け込んでおく。

しばらくしたら薄力粉みたいな粉をまぶして、油で揚げていく。カラッと揚れば完成だ。

隣ではモノ子がちょくちょく集めていた魚や甲殻類、海藻を使った浜汁を用意してくれていた。



「というわけで山盛りウツボ唐揚げと」

「浜汁?っていうの?完成。」


せっかくなので揚げたて作りたてを海を見ながら食べる事に。


「「「『いただきます(じゃ)!』」」」


さっそく一口。揚げたてなのでサクサクで美味い。味は淡白だが、下味がいい仕事している。

続いてもう1個食べると、今度はプルプル食感。皮目の近くだからコラーゲンによるゼリーのような食感も相まって美味い。これは酒のあてに良さそうだな。酒飲んだことないけど。もう多分20歳だし今度酒場で飲んでみるか。

続いてモノ子作の浜汁。一口すすると様々な魚介の味が流れ込んでくる。調味料は味を整える程度でほとんど入れてないと言っていたが魚介の味だけでここまで複雑な味わいが出来るとは脱帽だ。何より海のなかに居たから冷えた身体に染み入って本当に美味しい。


『どっちもおいしー!!』

「うん、いくらでも食べれる。」

『我はプルプルの部分が好きじゃのー!お、カニの脚じゃ。ラッキーじゃの。』

「浜汁温まってうめぇなぁ……。」


こうしてマリーシア大陸に無事到着した俺達は、さっそく美味しい海の料理で大満足した。

港町に着いたら他にも色んな物がくえるかな。


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