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敗北した元勇者の放蕩の旅  作者: 頂 有栖
第1章 ヘルヘイム編

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冒険の書 X9

ガデアに滞在して早3日目。

そういえば剣についてなにか分かったら教えてくれとダイモンさんに言われていたのを思い出す。モノ子が買った鍋を作った職人さんだと言うと会いたいと言うので顔を見せる事に。


「ん?おお、あんときのにいちゃんか。

今日はべっぴんさん二人も連れて両手に花じゃねぇか。」


『ダイモンおじさんこんにちはー!!』


相変わらず新聞みたいなのを読んでいたが、俺達が訪れるとすぐに顔を上げて人のいい笑顔を見せてくれた。


「おう、こんにちは。1人は見ねぇ顔だな、ん?にいちゃん、あんた剣はどうした?ありゃ肌身離さず持っといた方がええぞ。」


「その通り。京介、私から離れちゃ駄目。」


はて?という顔をして俺とモノ子を見るダイモンさん。そりゃそうなる。というか話ていいのか未だに悩んでる。モノ子が構わないというので任せるが。


「えーっと、実はこの子がこの間の剣でして。先日女の子になっちゃいました。」


いくらファンタジーな世界だからってちょっとぶっとびすぎだろ。


「おー!なるほど、幼精憑きの武器だったのか。それなら納得だ。しかし人と遜色ねぇとは随分高位幼精の様だな。」


納得したという表情を浮かべるダイモンさん。

この世界では別に不思議なことじゃないのか…?それに妖精?幼精?どっちかわからん感じだが、そもそもモノ子は精霊じゃなかったか?


「ダイモンさん、精霊じゃないんですか?」


「バカいっちゃいけねぇ、精霊なんてのは莫大な魔力が意志を持った最高位の存在だぞ。おいそれと人前にツラ出すわけねぇだろ。」


モノ子にアイコンタクトをすると、コクリと頷く。勘違いさせとけってことか。というかモノ子もやっぱりとんでもねぇじゃねぇか。

持ち主が元勇者の現在放浪者なんてそれでいいのかよ。


「私はモノ子。ダイモン、この鍋はあなたが作ったと聞いた。気に入っている、ありがとう。」


バッグから昨日買った鍋を取り出し大事そうに抱えるモノ子。昨日も寝る前に大事そうに磨いていた。


「おお、そいつはこの間ビーの所に下ろしたやつか。普段は武器ばっか打ってるがたまに頼まれるんだ。武器の幼精様に気に入って貰えるたぁわしも箔が付くってもんだ!!」


ガッハッハッ!!と大笑いするダイモンさん。

その後少し話をして店を後にする。




「なあモノ子。モノ子って精霊なんだよな?」


「うん。京介が私を見つけたダンジョンでずっと居たから。正直あそこならある程度の武器なら数年で幼精くらいつく。」


やはりそうらしい、まあ幼精や精霊がなにかもいまいち分かってないんだけどな。

しかしモノ子を見つけたダンジョンとなると神聖神殿 エヴァーラストか…。本当にたまたま見つけたダンジョンで、最初入った時は一瞬で死んじまったな。

下層に至ってはこの辺の魔物よりずっと強かったし…。


「………。もしかしてあそこクリア後ダンジョン的なやつか?」


「くりあご?はわからない。でも神殿の守護者 極めし力天使 デューオには多分昨日の人達じゃ勝てない。」


あー、いたいた。なんか腕いっぱいあるゴリラみたいな天使。あの時もうLv120くらいになってたのに初挑戦は瞬殺されたっけ。

たしかにアラン達ではちょっと荷が重いかも。俺も何回かぶっ殺されてるし。


『もー!!2人とも2人しか知らない話ずるいー!!アイも混ぜてー!!』


ぷくーっと拗ねた様な表情をしながらアイが俺とモノ子の間に割って入る。


「悪い悪い。じゃあ昼飯でも食べるか」


その後は出店で昼食を取ったり、ギルドの資料室を再び借りて勉強会に勤しんだりする。

今回1番気になったのはダンジョンだ。

膨大な魔力がある土地で何かしらのきっかけが起きるとダンジョンが出来るらしい。しかもダンジョンは生きており、どんどん成長し階層が増えていくとか。かの魔法都市には街の中にダンジョンがあるんだと。

発見されたダンジョン一覧を見るが、エヴァーラストは載っていなかった。やはり隠しダンジョンか。

あとこの大陸【ヘルヘイム】でもダンジョンは発見されていないらしい。全体的に見ても数はそう多くはないな。

広義的に言えばアイの住処もダンジョンなのかもしれない。


「やっぱあそこは隠しダンジョン的なやつだったのか。まあモノ子が鎮座されてたくらいだしな。


3人で色々読み漁っていると、ギルド内が騒がしくなってきた。


『ん?なんか凄い足音だねー。』

「様子みにいく?」


頷き、資料室の外に出る。

するとギルドのフロントには人だかりが出来ており、重症の冒険者が治療を受けていた。


「ダンジョンだってよ…。」「え!?ヘルヘイムにはダンジョンはないんじゃ」


冒険者の集まりの中から話し声がきこえてくる。

しかしその中に聞き捨てならない情報があった。


「…それが出来てたらしいんだよ。攻略の為に踏み込んだら見たことない魔物がいたって。尾が長くて牙や魚の鱗みたいな皮膚を持つ魔物だってよ。」


「それは本当か!!!」


思わず話していた冒険者の肩を掴んでしまう。あまりにも聞き捨てならない話だ。


「あ…ああ。今そこで治療受けてる奴らの仲間が言ってたよ。尻尾で吹き飛ばされて前衛がやられちまったから急いで連れて逃げてきたって。」


情報をくれた冒険者に礼をいい顎に手を当てる。

もし今の話が本当なら、この世界で会えてない『アレ』にようやく会える可能性がでてきた。


「キョウスケ殿、少しよろしいでしょうか?」


思案していると少し離れた場所にいるギルドマスターに呼ばれる。




「キョウスケ殿、お力をお貸しいただきたい。」


会議室に通された俺達はギルドマスターにあたまを下げられる。


「状況は先程の冒険者が言っていた通りです。

まさかこのヘルヘイムでダンジョンが発見されるとは…。しかも街とそれなりに近い場所です。

今回撤退してきたパーティーはアラン殿と同じSランクの冒険者達。

その上アラン殿達は今日の早朝から既に修行に出るとガデアをでてしまっているのです。」


そういえば昨日の飯の後明日にはここをでて再戦の為に修行するって言ってたな……。間が悪かったか。

たしかに状況としては危険だ。

アラン達は不在、その上同Lvクラスのパーティーが撤退を余儀なくされたとなると今回発見されたダンジョンの魔物による被害が出る可能性は十分ある。


「…俺達で調査してきます。アイ、モノ子。それでいいか?」


『アイはおっけーだよー!!』

「ん、ガデアの街にはお世話になった。」


「そう言っていただけると助かります。」


持っていた地図にダンジョンの場所を書いてもらう。歩いてきた距離で考えると急げば数時間って距離だ。俺が想像する存在なら充分危険範囲に入るだろう。


「時間は…もう夕方か。明日の早朝から向かいます。俺達も体調が万全じゃないと危ないかもしれない。」


急いだ方がいいだろうが、準備不足で死ぬのは行けない。もう生き返れないし二人を危険には晒せないからな。


「よろしくお願いいたします。物資の用意等はこちらでさせていただきます。

周囲の警戒はしておきますので、もし危険な魔物が現れた際はお力お借りします。」


こうして俺達は宿にもどり夕食をいただいて早めに就寝した。


─────────────────────


結局、朝まで特に問題は起きなかった。ダンジョンの魔物には外に出るタイプと出ないタイプがいるらしいが、幸い後者の可能性が高いようだ。


早朝、ギルド前でギルドマスターから食料などの物資を受け取っていると宿屋から女将さんが走ってきた。


「あんた達、これから街のためにダンジョンに行ってくれるんだってねぇ。

これ、詰めといたからしっかり食べるんだねぇ。

それと、無事に帰ってくるんだねぇ。まだ宿泊が1日残ってるんだねぇ。」


手渡されたのはお弁当。非常に助かる。

こうして俺達はギルドマスターと女将さんに見送られながらダンジョンへと急いだ。



「ここがヘルヘイムのダンジョンか。」


地図を見ながら歩いて数時間。目的のダンジョンに到着した。

見た目は平地に不自然に地下への階段が出来たという感じ。他のダンジョンは建造物に囲まれていたり、洞窟のような入口だったりしたが、今回はやけにシンプルというか1周まわって不気味だ。


「…突入前に飯食っとくか。」


『さんせー!!』「うん、腹ごしらえ。」


女将さんが用意してくれたお弁当を3人で一斉に開く。中身は葉野菜とハムのサンドイッチと骨付きの唐揚げのような物、プチトマトのような野菜、デザートはみかんの様な果物だ。どれも手で食べれるようになっていて食べやすいな。


「「『いただきます!』」」


早速まずはサンドイッチを手にとりかぶりつく。からしマスタードの様な少し辛い刺激とシャキシャキのレタスの様な野菜、そしてハムの組み合わせが抜群だ。この世界にマスタードがあるとは知らなかった。これならホットドッグも食べれるな。有難い。

次に唐揚げにかぶりつく。時間がたっているにも関わらずまだバリッとした衣。鳥系の魔物の手羽なのだろうか?美味い。何にせよ元の世界の大好物を食べれるとほっとする。

間に食べるプチトマトの様な野菜も口の中を爽やかにしてくれて食べるものを切り替える時に新鮮な気持ちを取り戻させてくれる。

さいごに果物の皮を手で剥いて食べれば少し酸っぱい正しくオレンジのような酸味と甘みがひろがり気が引き締まった。


「「『ご馳走様でした!』」」


『お弁当美味しかったー!!』「うん、腹八分目。」


2人も満足したようだ。弁当を片付けると、モノ子が剣の姿になる。以前は少し短めのギリギリ片手で使えるロングソードだったが、今は片手で扱い易いショートソードに変わっている。

俺が右腕だけになったのにあわせて形状を変化させてくれたそうだ。


《京介、この状態だと京介としか会話出来ない。あと京介が考えてる事も幾らかこっちに聞こえちゃう。》


頭の中で響くようにモノ子の声が聞こえる。考えてる事がバレちゃうのは照れちゃうな。でも頼りにしてるぞ、相棒。


《……気をつけて京介、あとアイも。》


「アイ、モノ子がアイも気をつけてってさ。」


『わかったー!!ふふっ、モノ子やさしーねー!!』


《…………。》


おお、照れてる照れてる。可愛いな。

最初はツンケンしてたが仲良く遊んでるしモノ子もアイの事は気に入ってる様だ。良かった良かった。



早速階段を降りていく。それなりに長い階段だ。蝋燭が壁にかかっており、視界が保たれているのが幸いか。

数分降りれば階段の終わりが見えてくる。

階段の先は少し開けた場所になっておりカオスヘイローを構え警戒するが、そこに居たのは予想外の存在だった。


「よく参ったの、我が竜神殿 エクスティンにようこそなのじゃ。」


巫女服のような衣装を着た、荘厳な雰囲気を纏う少女。この世界、ファンタジー系な事もあって大半が西洋風な感じだ。

そんな中急に和風な巫女さんが現れるというと言うことはこのダンジョンがやはり普通では無いのだろう。


「むふふっ、警戒せずとも良いぞ。

我はこのダンジョンの【なびげぇたぁ】、 名をアノマリスじゃ。親しみを込めてマリィと呼んで良いぞ。」


《……ダンジョンに案内人が居るなんて聞いた事無い。冒険者の情報にも無かった。京介、警戒して。…京介?》


モノ子の言う通りだ。怪しさMAXなのは見ただけで分かる。ただ、やはり予想こそしていたものの本当だと知ると胸の鼓動が高まる。


『キョースケ?この子魔物かなー?ちょっと味見してもいいかなー?』


「お…お主!こんな可憐ななびげぇたーを取って食おうとしておるのか!!?

はっ…いやまさかそういう意味かの…!?」


「マリィさん。油断してるとほんとに味見されるから気を付けろよ。

…しかし今『竜』神殿って言ったか?言ったよな?」


竜、つまり『ドラゴン』。

実はこの世界にきてから1度としてドラゴンの魔物に会った事が無かった。やっぱ珍しいのかなと思っていたが、ガデアの資料室にあった魔物図鑑にも載っていなかった。

俺は悲しみを抑えられなくなりそうだったが、アイとモノ子が居るからなんとか耐えられた。

しかし、マリィの言うことが本当なら会える可能性が出てきた。


「うむ、間違いないぞ。ここは竜の住まうだんじょんじゃ。」


「そうか!!いやー良かった!まさか異世界に来てドラゴンに会えずじまいになるかとずっとモヤモヤしてたんだ!!良かったー!!」


《京介、過去一嬉しそう、ドラゴン…嫉妬。》


『キョースケ!!ドラゴンってなに!?美味しいの!?』


「きっと美味いはずだぞ!!見てよし、戦ってよし、多分食ってよしがドラゴンだからな!!いやー楽しみだ!!」


優馬が見せてくれた異世界アニメでも美味そうに食ってたからな!しっかり見て戦った後は美味しくいただこう!!


「ええぇ…何こいつら、死ぬほどこえぇんじゃけど…。」

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