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ユノの冒険 ― 魔獣を倒さず癒す、精霊と薬師の旅 ―  作者: あめとおと


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第9話:守るもの



 重い。


 引き抜こうとしている黒は、今までで一番重かった。


「……っ」


 ユノの足が、地面に沈む。


 引いているのは、“瘴気”だけじゃない。


 もっと奥。


 その奥にある“なにか”ごと、引きずり出そうとしている。


「……離さない」


 小さな声で、でも強く言う。


 黒い塊が、激しく暴れる。


 まるで——


 “出たくない”と抵抗しているみたいに。


 でも。


「……違うでしょ」


 ユノは、ぎゅっと力を込める。


「本当は、戻りたいでしょ」


 その言葉に応えるように——


 黒の奥で、また小さな光が揺れた。


「……ほら」


 見えている。


 まだ、消えていない。


「……だから」


 もう一度、力を込める。


「出てきて」


 その瞬間。


 ぐあああああっ!!


 魔獣が、大きく暴れた。


 押さえつけていた狼が、弾かれる。


「……っ!」


 体勢が崩れる。


 黒が、一気に引き戻されそうになる。


「……だめ!」


 ユノは叫ぶ。


 手を離したら、終わる。


 ここまでやって、戻したくない。


 でも——


 力が、足りない。


「……っ、あ……!」


 指が、滑りそうになる。


 黒が、逃げる。


 あと少しで——


 そのとき。


 どんっ、と。


 背後から、大きな衝撃。


「……!」


 狼だった。


 体当たりで、魔獣の動きを止める。


 そのまま、前に出る。


 ユノの前に。


 完全に、壁のように。


「……っ」


 息が止まりそうになる。


 黒い魔獣の爪が、振り下ろされる。


 それを——


 狼が、受けた。


 ぐしゃり、と。


 鈍い音。


「……っ、だめ!」


 ユノの声が、震える。


 でも狼は、退かない。


 傷ついても、動かない。


 ただ——


 ユノを、守る。


「……なんで」


 思わず、こぼれる。


 言葉にならない。


 でも。


 その背中を見て、わかってしまう。


 これは——


 理由なんていらない行動だ。


 だから。


「……ありがとう」


 ぽつりとつぶやく。


 その声は、小さい。


 でも、確かに届いた気がした。


 狼の耳が、わずかに動いた。


 ユノは、前を見る。


 まだ終わってない。


 ここで止まったら、全部無駄になる。


「……やる」


 もう一度、握り直す。


 黒い塊を。


 逃げようとするそれを、絶対に逃がさない。


 精霊たちの光が、さらに強くなる。


 ユノの周りで、震えながらも——


 支えている。


「……いっしょに」


 小さく言う。


「もう少しだけ」


 光が、応えるように瞬く。


 ユノは、息を吸う。


 そして——


「……出てきて!!」


 全力で、引いた。


 びり、と。


 何かが裂けるような感覚。


 次の瞬間——


 ずるり、と。


 大きな黒が、完全に引き抜かれた。


 同時に。


 ぱきん、と。


 音がした。


 黒い塊が、砕ける。


 光に触れて、崩れていく。


 そして——


 その奥から。


 ひとつの影が、落ちた。


「……っ」


 ユノは、思わず駆け寄る。


 そこにいたのは——


 小さな魔獣だった。


 さっきまでの巨大な姿じゃない。


 本来の、大きさ。


 黒に覆われていた部分は、ほとんど消えている。


 まだ少しだけ残っているけど——


「……戻った」


 ぽつりとつぶやく。


 ちゃんと、“戻ってきた”。


 その瞬間。


 後ろで、どさり、と音がした。


「……!」


 振り返る。


 狼が、膝をついていた。


 さっきの一撃。


 思っていたより、深い。


「……だめ!」


 ユノは駆け寄る。


「……なんで、無理するの」


 声が、少しだけ揺れる。


 でも手は止まらない。


 すぐに薬を取り出す。


 傷に当てる。


 精霊を呼ぶ。


「……これくらい、すぐ治すから」


 自分に言い聞かせるように。


 でも——


 さっきよりも、ずっと焦っている。


 大事なものが、はっきりしたから。


 狼は、静かにユノを見る。


 痛いはずなのに。


 それでも、落ち着いた目。


「……だいじょうぶじゃないでしょ」


 ユノは、少しだけ強く言う。


 すると——


 狼の尾が、ゆっくりと動いた。


 とん、と。


 地面を叩く。


 それはまるで——


 “だいじょうぶ”と、言っているみたいだった。


「……もう」


 ユノは、小さく息を吐く。


 少しだけ、目を伏せる。


 それから——


 顔を上げる。


「……ありがとう」


 ちゃんと、言う。


 今度は、はっきりと。


 精霊たちが、ふわりと舞う。


 黒かった空気が、少しずつ晴れていく。


 泉の水も、ゆっくりと色を取り戻していく。


 そして——


 ユノは、もう一度薬を握る。


 まだ、終わってない。


 でも。


 ちゃんと、終わりが見えていた。





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