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ユノの冒険 ― 魔獣を倒さず癒す、精霊と薬師の旅 ―  作者: あめとおと


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第7話:瘴気の源



 森の中は、また少しずつ暗くなっていた。


 村へ行く前よりも、空気が重い。


「……増えてる」


 ユノは足を止める。


 地面の色が、また変わっている。


 元気だった草が、力をなくしている。


 触れなくてもわかる。


 “あれ”が、広がっている。


「……このままじゃ、だめ」


 ぽつりとつぶやく。


 助けても、助けても。


 原因が残っていたら、また同じことが起きる。


「……行かないと」


 精霊たちを見る。


 いつもより、少し距離がある。


 怖いのだ。


 あの黒いものを。


「……こわい?」


 聞くと、光が弱く揺れた。


 否定はしない。


 それでも——


 完全には離れない。


「……ごめんね」


 小さく謝る。


「でも、行く」


 逃げる選択は、やっぱりなかった。


 ユノは一歩踏み出す。


 その横に、大きな影が並ぶ。


 狼だった。


「……いっしょに来るの?」


 ちらりと見る。


 狼は、何も言わない。


 ただ、歩き出す。


 ユノの半歩前に立つように。


「……そっか」


 少しだけ、胸の奥があたたかくなる。


 完全に一人じゃない。


 それだけで、少しだけ違う。


 森の奥へ。


 進めば進むほど、空気が重くなる。


 息が、少ししづらい。


「……やっぱり、ここ」


 見えてきた。


 木々の間に、不自然な空間。


 ぽっかりと開いた場所。


 その中心に——


「……これ」


 小さく息をのむ。


 泉だった。


 本来なら、澄んでいるはずの水。


 でも今は——


 黒く、濁っている。


 表面が、ゆらゆらと揺れていた。


 風もないのに。


 まるで、生きているみたいに。


「……ここから、出てる」


 確信する。


 瘴気の源。


 全部、ここから流れている。


 精霊たちが、近づけずにいる。


 少し手前で、止まっている。


「……だいじょうぶ」


 ユノは、小さく言う。


 でも、自分に言い聞かせているだけだとわかっていた。


 怖い。


 今までで、一番。


 それでも——


「……やる」


 袋から、薬を取り出す。


 今ある中で、一番強いもの。


 それでも、足りないかもしれない。


「……少しずつでいい」


 全部じゃなくていい。


 まずは、触れてみる。


 変えられるか、確かめる。


 ユノは、ゆっくりと近づく。


 そのとき。


 ぐるる、と。


 低い音が、横から聞こえた。


「……?」


 振り向く。


 狼が、低く唸っている。


 視線は——泉の奥。


「……なにか、いるの?」


 問いかける。


 答えの代わりに、狼は一歩前に出る。


 ユノの前に、立つ。


 守るように。


「……」


 その背中を見る。


 大きくて、頼もしい。


 でも。


「……いっしょにやる」


 ユノは、その横に並ぶ。


 守られるだけは、違う。


 同じ方向を見る。


 その瞬間——


 ぼこり、と。


 泉の表面が、大きく揺れた。


「……っ」


 黒い水が、盛り上がる。


 そこから——


 “何か”が、ゆっくりと姿を現した。


 大きい。


 そして、歪んでいる。


 本来の形がわからないほどに、黒に侵されている。


「……魔獣……?」


 でも、違う。


 あれは——


「……飲まれてる」


 瘴気に。


 完全に、覆われている。


 目も、輪郭も、曖昧だ。


 ただ、苦しそうに揺れている。


「……」


 ユノの手が、わずかに震える。


 あれは——


 敵じゃない。


 でも、このままじゃ。


 ぐるるる……!


 狼が、強く唸る。


 前に出る。


「……だめ」


 ユノは、思わずその腕に触れる。


「倒しちゃ、だめ」


 狼が、ちらりとユノを見る。


「……あれも、たぶん」


 言葉を選ぶ。


「助けられる」


 確信はない。


 でも。


 さっきの狼と、同じ。


 ただ、もっと深いだけ。


「……やる」


 もう一度、言う。


 怖い。


 でも、逃げない。


 精霊たちが、震えながらも近づいてくる。


 完全じゃない。


 それでも——


 離れない。


「……お願い」


 ユノは手を伸ばす。


「いっしょに」


 光が、ゆっくりと集まる。


 そのとき——


 黒い魔獣が、大きく揺れた。


 そして。


 こちらへと、動き出す。


 地面が、わずかに震える。


 重い一歩。


 そして、もう一歩。


「……来る」


 逃げ場はない。


 やるしかない。


 ユノは、ぎゅっと薬を握る。


 小さな手で。


 でも、その目は——


 まっすぐ前を見ていた。






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