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ユノの冒険 ― 魔獣を倒さず癒す、精霊と薬師の旅 ―  作者: あめとおと


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第5話:はじめての村



 森を抜けるのは、久しぶりだった。


「……こんなに、明るかったっけ」


 木々が途切れた先。

 開けた空と、遠くに見える屋根。


 ユノは、少しだけ立ち止まる。


 後ろでは、あの狼が静かに座っていた。


「……あそこ、人のいるとこ」


 指をさす。


「たぶん、ごはんとかある」


 自分に言い聞かせるみたいに言う。


 狼は、動かない。


 ただ、ユノを見ている。


「……でも」


 小さく息を吐く。


「たぶん、嫌がられる」


 理由はわかっている。


 森に住んでいる子ども。

 しかも——


「……いっしょに行くのは、むずかしいかも」


 ちらりと狼を見る。


 大きくて、強そうで。


 普通の人なら、怖がる。


「……ここで待ってる?」


 提案するように言う。


 狼は、しばらく動かなかった。


 それから、ゆっくりと視線を逸らす。


 森の方へ。


「……うん」


 ユノは、小さくうなずく。


「すぐ戻るから」


 そう言って、歩き出す。


 何歩か進んで——


 やっぱり一度だけ、振り返る。


 狼は、同じ場所にいた。


 動かず、ただ座っている。


「……いい子」


 ぽつりとつぶやいて、今度こそ村へ向かった。



 村は、思っていたよりも賑やかだった。


 人の声。

 足音。

 笑い声。


 それだけで、少しだけ緊張する。


「……」


 ユノは、そっと中へ入る。


 すると——


 ぴたり、と。


 いくつかの視線が止まった。


「……誰だ?」


「森の方から……?」


 ひそひそとした声。


 慣れている。


 でも、好きじゃない。


「……あの」


 小さく声を出す。


「薬、あります。ケガとか、治せます」


 伝えると、空気が少しだけ変わった。


「薬師……?」


「こんな子が?」


 疑いの目。


 当然だと思う。


 ユノは、何も言い返さない。


 ただ、立っている。


 そのとき——


「おい!」


 強い声が響いた。


 振り向くと、男の人が走ってくる。


 腕の中には、小さな子ども。


「誰か、薬師はいないか!?」


 顔色が悪い。


 子どもの方は——


「……っ」


 ユノは、息をのむ。


 苦しそうに、呼吸をしている。


 額には、びっしょりと汗。


「熱……高い」


 気づいたときには、もう動いていた。


「診せて」


「……は?」


 男の人が戸惑う。


 でもユノは、そのまま近づく。


「早く」


 いつもより、少しだけ強い声。


 周りの空気が、ぴんと張る。


「……頼む!」


 男の人は、子どもを差し出した。


 ユノは、すぐに状態を見る。


 手を当てる。


 熱い。


 でも——


「……これ、病気じゃない」


 ぽつりと言う。


「え?」


「たぶん、水」


 周りを見渡す。


「最近、変わったでしょ」


 ざわ、と空気が揺れる。


「……なんでわかる」


 誰かがつぶやく。


「森で、同じの見た」


 黒い瘴気。


 あれと、似ている。


「少しだけ、入ってる」


 完全じゃない。


 でも、このままなら——


「悪くなる」


 ユノは、すぐに袋を開く。


 薬草を取り出す。


 刻んで、混ぜて。


 手は迷わない。


 視線が集まる。


 疑いと、不安と——


 期待が、少しだけ。


「……飲ませて」


 できあがった薬を差し出す。


 男の人は、一瞬迷う。


 でも。


「……頼む」


 覚悟を決めて、子どもに飲ませた。


 数秒。


 何も起きない。


 静かな時間。


 そして——


「……あれ?」


 誰かが声を上げる。


 子どもの呼吸が、少しだけ落ち着いた。


 さっきよりも、ゆっくりと。


「……熱も」


 額に触れた誰かが言う。


「下がってきてる……!」


 ざわっ、と。


 空気が変わる。


 さっきまでの疑いが、驚きに変わる。


「……まだ、全部じゃない」


 ユノは、静かに言う。


「でも、大丈夫」


 精霊が、そっと子どもの周りに集まる。


 淡い光が、やさしく揺れる。


「……寝れば、よくなる」


 男の人は、何度も頭を下げた。


「ありがとう……本当に……!」


「……ううん」


 ユノは、少しだけ視線を逸らす。


 慣れていない。


 こういうのは。


 でも——


 さっきまでの空気とは、明らかに違っていた。


 怖がる目じゃない。


 ちゃんと、見ている目。


「……あの子」


 誰かが言う。


「本当に、薬師だ」


 ユノは、小さく息を吐く。


 少しだけ、肩の力が抜けた。


 そして——


 ふと、森の方を見る。


「……待ってるかな」


 ぽつりとつぶやく。


 大きな影が、頭に浮かぶ。


 ちゃんと、待ってる。


 たぶん。


 理由はないけど、そう思えた。


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