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ユノの冒険 ― 魔獣を倒さず癒す、精霊と薬師の旅 ―  作者: あめとおと


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第4話:ついてくる影




 どれくらい時間が経ったのか、わからなかった。


 何度も、何度も。


 薬を作っては流し込み、

 精霊の力を借りて、黒いものを引き抜く。


 その繰り返し。


「……これで、ひとまず」


 最後の処置を終えて、ユノは大きく息を吐いた。


 肩が、重い。


 腕も、少し震えている。


 それでも——


「……さっきより、ずっといい」


 狼の体を見る。


 黒く染まっていた部分は、かなり減っていた。


 傷も、完全ではないけど落ち着いている。


 呼吸も、もう荒くない。


 静かに、ゆっくりと上下していた。


「……よかった」


 ぽつりとこぼす。


 その声に応えるように——


 ぱちり、と。


 狼の目が開いた。


「……あ」


 黄金の瞳。


 さっきよりも、ずっとはっきりした光。


 意識が戻っている。


「……もう、だいじょうぶ?」


 ユノは、そっと聞く。


 言葉は通じない。


 それでも、聞かずにはいられなかった。


 狼は、しばらくユノを見ていた。


 じっと、動かずに。


 その視線は、怖いはずなのに——


 不思議と、さっきほどの恐怖はなかった。


 そして。


 ゆっくりと、体を起こす。


「……無理しないで」


 思わず声が出る。


 でも狼は、そのまま立ち上がった。


 ぐらり、と一瞬揺れて。


 それでも、踏ん張る。


「……すごい」


 小さくつぶやく。


 あれだけ傷だらけだったのに。


 もう、立てる。


 狼は、軽く体を振った。


 残っていた黒い霧が、ぱらぱらと消える。


 そして——


 くるり、と。


 背を向けた。


「……あ」


 胸の奥が、少しだけきゅっとする。


 当然だ。


 治療は終わった。


 もう、ここにいる理由はない。


「……ばいばい」


 小さく手を振る。


 聞こえているかも、わからない。


 でも、それでいいと思った。


 ユノは、ゆっくり立ち上がる。


 足が、少しふらついた。


「……帰ろ」


 精霊たちが、ふわりと周りに集まる。


 いつもの帰り道。


 ——の、はずだった。


 ざっ。


 背後で、音がした。


「……?」


 振り返る。


 そこには——


 さっきの狼が、いた。


「……え?」


 目が合う。


 狼は、何も言わない。


 ただ、そこに立っている。


「……どうしたの?」


 首をかしげる。


 狼は、一歩、近づいた。


 ざっ。


 土を踏む音が、やけに大きく聞こえる。


「……えっと」


 ユノは、一歩下がる。


 怖い、というより——


 どうしていいかわからない。


「……もう、元気でしょ?」


 確認するように言う。


 狼は、止まらない。


 もう一歩、近づく。


「……帰らないの?」


 問いかける。


 森の奥の方を指さす。


「おうち、そっちじゃない?」


 狼は、そちらを一瞬だけ見る。


 でも——


 すぐに、ユノへと視線を戻した。


「……え?」


 なんとなく、わかってしまう。


「……まさか」


 さらに一歩、下がる。


 狼は、その分だけ距離を詰める。


 一定の距離を保つように。


「……ついてくるの?」


 ぴたり、と。


 狼の動きが止まった。


 それが、答えだった。


「……なんで?」


 思わず聞いてしまう。


 助けたから?


 それとも——


 ひとりじゃ、不安だから?


 理由はわからない。


 でも。


 その目は、さっきと違っていた。


 敵を見る目じゃない。


 どこか、静かで。


 落ち着いていて。


 そして——


 少しだけ、やわらかい。


「……困るなぁ」


 口ではそう言う。


 でも、声は弱い。


 本気で拒む気がないのが、自分でもわかる。


「……ごはん、ないよ?」


 狼は、何も言わない。


「……おっきいし」


 やっぱり、何も言わない。


 ただ、そこにいる。


 離れない。


「……」


 しばらく見つめ合う。


 精霊たちが、くすくす笑うみたいに揺れている。


 まるで、“いいじゃん”と言っているみたいに。


「……もう」


 ユノは、小さくため息をついた。


 そして——


 くるりと、背を向ける。


「……好きにして」


 ぽつりと、それだけ言う。


 歩き出す。


 ざっ。


 少し後ろで、同じ音がする。


 ざっ、ざっ。


 一定の距離を保ちながら、ついてくる足音。


 ユノは振り返らない。


 でも——


 ほんの少しだけ、口元がゆるんでいた。


 森の道。


 小さな薬師の隣に、

 大きな影が、ひとつ増える。


 精霊たちが、その周りを楽しそうに舞っていた。







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