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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第77話 祈る者、応援する者、探す者

ルシアとレネが闇の中にいる頃、闇の中の国ミュンダーは大混乱だった。

突如空から闇が降りてきて、多くの人がその闇に触れた。

触れた途端から感じるその闇を煮詰めたような恐ろしさに神殿広場前に集まっていた人々はパニックになった。

神殿の長ジェラルドは誰よりも先に動き出した。


「建物の中に入れ! アレは建物内までは入ってこられない!」


神殿内に逃げ込んだ民衆の一人がつぶやく。


「聖女様と同じように俺らにも尊い犠牲になってほしいんじゃなかったのかよ」

「聖女様の苦悩を知ろうともしないで文句を言うお前たちが憎かっただけのこと」


言葉少なに返事をして、祈りの間に向かい、祈りの間から祈りの丘へと出た。

一面に咲くルシフェイラが今日もきれいで、こんな時だと言うのに聖女様と共に祈った日々を思い出す。

毎日毎日この景色を見ながら、朝晩と祈りをささげた。

聖女様、生きているのだろうか。生きていてほしい。そして、もし生きているのなら闇からも聖女からも解き放たれて自由に生きてほしい。

そう思えるようになるのが、いささか遅すぎたが、とにかく……生きていてくれ。

ジェラルドにはそう願うしかできなかった。

ガチャリと扉が開く音がした。

後ろを振り向けば、神殿前広場で商いをしているスープ屋のミトが入ってきたところだった。


「申し訳……ありません」


生んだ赤子が聖女だと国に娘を取り上げられたミト。どんなにお金を積まれても頑として受け取らず、半ば無理やり娘と引き離された。

娘を追ってここ神殿前広場まで来ても、会うことも、名乗ることもできず……ミトのことを思うとそれ以外の言葉が出てこなかった。

ミトは何も言わず、おもむろに膝をついて両の手を組む。


「ルシアが死んだのを見たわけではないのでしょう?」

「はい」


そう答えた時、祈りの丘のずっと上空、分厚い闇に穴が開いた。

穴は一瞬でふさがってしまったが、しばらくは穴があった個所がキラキラと煌めいていた。

黒い闇の中にあるキラキラとした輝きは、ルシアに渡したミトからのネックレスが思い出された。


「生きていますよ。きっとあれがルシアさ」


根拠もなくそう言うミトと闇の中の光につられて、ジェラルドも祈りの丘のふもとに膝をつく。


「ルシア様」


両の手を組んで祈り始めた時、隣に誰かが跪いた。


「聖女様の名前、ルシア様って言うんか」


闇を晴らす儀式なんて嘘だろ! と乗り込んできた男だった。

その男の隣にまた一人、また一人と膝をつき始め、扉の方を振り返れば次から次に人が出てきて膝をつき始めた。


「そういや聖女……いやルシア様って俺の息子と同じ年なんだよ」

「まだ子供じゃねーか」

「そうなんだよな。なんか別物に考えてたわ」


あちらこちらで話し声が聞こえる。

「ルシア様ごめん」「ルシア様、今までありがとう」「俺名前も今初めて知ったよ」「今度は俺らが祈ろうぜ」そんな声が聞こえてくる。


ボォンと再び空に風穴が開く。次は少し長く開いた。

まっすぐ光が差してきた。

大きな鳥と二人の人影が光の道に照らされる。

あぁ、あの時の少年だろうか。ルシア様、少年。生きていたのか。

自然と涙が頬を伝った。



闇の外の陸地カルンでは、オルビーのバズーカの燃料が切れぬよう陸の冒険者たちが、朝から晩まで休む間もなく魔物を狩りまくり、更に内地のペイダル王都では逃れたサイリャとペイダル第二王女エルミラによって、革命が起き始めていた。

闇から遠い海上では、ゼルシェとルードによって補給・救護船の準備がなされ、闇のほど近い海では、未だウォールディンたち一行がルシアとチリーを探し続けていた。

闇から遠いペイダルやメレントからは見えなかったが、カルンや海上にいたものは皆がその瞬間を見た。

突然吹き荒れる風に連れていかれるように霧は晴れ、半球状に覆っていた闇のドームは上へ上へと吸い上げられるように無くなっていく。

それを見たゼルシェとルードは補給・救護船を出発させ、カルンにいる陸の冒険者たちは喜びに大声を上げた。

オルビーと実験班だけが、何も言わず空を見上げている。

浮かれた陸の冒険者が静かなオルビーに声をかけた。


「オルビーどうした? レネが、ルシアちゃんが……勝ったってことだろ?」

「まだっす」

「え?」


言葉少なに返事するオルビーの声色が真剣で、オルビーの周りに集まって皆で空を見上げた。


「なんて濃度。全ての闇が集まったみたい」

「でも、ルシアちゃんもあそこにいるっす」


瘴気と浄化のエネルギーが見える眼鏡をした三人は、上空で闇と光がぶつかり合っているのを静かに見るしかなかった。


「お、オルビー。何かできることねぇのかよ。もっと魔物、狩ってきたらいいか?」


事態が分かってきた冒険者たちがおろおろとし始める。


「もうないっす。自分たちにできることもうない……す」


そう絞り出したオルビーの肩にバルジスが手を置く。


「なら、応援しよう。二人が無事帰ってくるように」


バルジスの言葉が静まり返った岬によく響いた。


「が、がんばれ!」冒険者が叫ぶ。「ルシアちゃん! 帰って来いよ!」「レネ、一人で行きやがってバカヤロー」口々に叫び始める冒険者にオルビーの喉まで涙がせり上がってくる。


「絶対勝つっす!」


岬で「頑張れ」「勝て」とあらん限りの応援が叫ばれた頃、一番闇に近いところにいたウォールディンたちはまた別の意味で叫びあっていた。

「おい! 野郎ども見ろ。霧が晴れていく」


船に先行して飛び回ってルシアたちを探していたウォールディンが船に戻ってきた。

未だルシアは見つかっていないが、霧が晴れだしたことを見るとルシアが上手くやったのかもしれない。


「全員目を皿のようにして探せ! 空の上、海の中絶対見落とすな!」

「ウォールディンさん! チリーです! チリーがいました!」

「チリー! 良かったお前は無事だな。ルシアはどうした」


チリーから状況を聞き、再びウォールディンが声を上げる。

チリーには、海に落ちていないか海の生き物たちに問いかけ続けること。冒険者たちは海上をくまなく探すこと。

そう言い残して、ウォールディン自身も黒い聖獣ゴンドゥに乗って探し始めた。

ウォールディンはいくつかの小さな島を見つけた。生きている人がいた。

ミュンダーから光を求めて出ていった人々だった。あとで船を回すことだけ言い置いて再び二人を探しに空へ戻る。

丘の上で喜びに沸いているミュンダーの国も見た。


「おっさん! 助けてくれ! あっちだ、あっち!」


近づけば、声が聞こえてくる。喜んでいるわけではないらしい。

あっちだと指さす空を見上げる。

ゴンドゥが飛んでいるところよりもはるか上に人影が二つ見えた。

いた!


「魚たち、チリーに伝えろ。上だ!」


そう叫びながら二人の下まで飛んで行った。

見張り台にいたダッチは、ウォールディンがすごいスピードで海上を飛んでいるともう一人の見張りが声を上げるのを聞いた。

ウォールディンが二人を見つけたのではないかと思い、振り返ってウォールディンを注視する。そして、見つけた。ウォールディンが飛んでいるずっとずっと上に二人の影を。


「上だ! レネとルシアだ! 急げ!」


ダッチが声を張り上げると、甲板が方向転換するために俄かに騒がしくなった。

「急げ! 落っこちるぞ」「よく見つけたな! ダッチ」「二人は無事か」とさっきまで葬式のように静かだった船内に活気が戻る。

一緒に見張りをしていた奴がダッチに声をかける。


「よかったな、ダッチ。おい! 泣いてんじゃねぇ。そういうのはちゃんと二人を船まで連れてからにしろよ」

「うるせぇ。あいつらやったんだなと思ったら……霧の中を越えるだけでも大変だって言うのにさぁあぁ」

「うるせぇのはどっちだよ。全く……」


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