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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第74話 まだできる

「急げ! 急げ! ルシアは行った。あとは俺らが無事脱出することだ。荷物は置いていけ! 俺らはあの子に賭けたんだ。闇はなくなる。もう資料もいらん! だから、とにかくお前ら誰一人捕まるな! オルビー!! お前、まだ何やってんだ!」

「もうちょっとっす!」

「いいから急げ! もう俺らができることはない」


ルシアが工房から出発して、工房は急ピッチで片づけが進んでいる。

もう一つのアジトが爆発したことで、ここももう安全とは考えられないからだ。

レストルは影のメンバーの安全を優先して、研究を全て処分して、アジトを閉鎖するつもりだ。

それは、サイリャがペイダルに連れていかれたと知った時から決めてあった。

闇を晴らせるかもしれない唯一の女の子はもう出発した。

後方部隊の自分たちの役目はもうないとレストルは言う。

本当にそうか?

今まで、ルシアのために睡眠や食事の時間も削り、ルシアの闇討伐の準備を進めてきた。

手は一切抜いてない。やれるだけのことをした。

でも、もうできることは本当にないのか?


「ちがう! まだできるっす。霧は深い、魔物はでかい。ルシアちゃんが進めなくなった時、誰がその道を作るんすか! できる、まだできること……あるっす!」


もう手を止めろと肩に手をかけたレストルの手を振り払う。


「ルシアちゃんは、自分より走るの遅いっす。料理を作るのも下手っす。裁縫だってゼルシェ婆さんが青ざめるほどっす。文字も読めなかったっす。剣も振れないっす。魔導具だって作れないっす。そんな子が船に乗って闇退治。今まで魔物を倒した経験もないんすよ。闇の近くは桁違いに大きくて強い魔物がいるんすよ。ルシアちゃんの特別な力を見て、あれはルシアちゃんにしかできないとわかってはいるんす。でも! どうしても安心できない……っす。怖いんです。ルシアちゃんが帰ってこないかもしれないって。だから! もう少し、もう少しだけ力になりたいんす」


反射的にレストルに怒鳴り返すも、感情が先走って途中から何を言っているのかわからなくなってくる。

レストルに掴みかかりそうになって、途中でやめた拳をのろのろと降ろす。

自分でもわかっている。

今さら足掻いても何もできないかもしれないことは。

でも、手を動かしてさえいれば、諦めさえしなければ、助けられるような気がして、手を止めることができない。


「こんな安全な場所から何言ってんだって自分も思うんすけど、助けたいんですよ……」


力なく、うつむく。

レストルは何も言わない。周りも慌ただしく片づけをしていたはずだが、いつの間にかシーンと静まり返っている。


「レストルさん、俺もまだやれることあるならルシアちゃんの力になりたい」


そう言ったのは、実験班だった人だ。


「私も」


また一人実験班のメンバーが手をあげる。

目の前のレストルがはぁーとため息をついた。

やめろって言われるだろう、無駄だって言われるだろうことは分かっていた。

けれど「俺も」「私も」と手を挙げてくれた二人に勇気づけられて、挑むようにレストルをにらみつける。


「案はあんのか?」

「アレを使うっす」


反射的に工房中央にある大きな瘴気測定器を指さす。

あれは、瘴気を測定する物ではあるが、測定するために周囲の瘴気を取り込む性質を持つ。

ルシアちゃんが魔石を浄化してからは、取り込んだ瘴気を魔石に移動させることもできる。

魔石に充填させるのは、浄化済みのエネルギーではなく、瘴気そのものだから、ルシアちゃんが浄化した白銀の魔石はきっと黒く色を変えるだろう。

けれど、ここには白銀の魔石が大量にある。

ルエリアの所の爆発で急ぎの出発になったために充填する暇なく空のまま放置された魔石だ。

これらすべてに瘴気を充填することができたなら、きっと闇まで届く特大バズーカができるはずだ。

浄化の力はルシアちゃんしか持っていない。だから、ルシアちゃんに挙げたような浄化のバズーカは作ることができない。

でも、ルシアちゃんの浄化の力は光に似ている。

光なら、作れる。

ルシアちゃんの力を知る以前にも魔物が光に怯むことは知られていた。

だからこれから自分が作りたいのは特大の光バズーカだ。

今の今まで書きなぐっていた設計図をレストルに手渡しながら、頭の中にある構想を思いつくままに話した。


「なら今は魔石一つとしか繋がっていないから、いくつもの魔石とコネクトできるように変更が必要だな。あと、浄化の光が見えるゴーグルと同じく、瘴気を可視化できるゴーグルが必要じゃないか? どこが目的地なのかルシアに教えてやろう」


レストルの言葉に一瞬頭が真っ白になった。


「え、レストルさん。それって……」

「実験班! ルシアを助けたい気持ちはわかるが、今は実験する暇も必要もない。お前らの役どころは後だから、今はルエリアとペイダル兵の様子を見て来い。設計班! ゴーグルは作れるはずだ。すぐ設計図を書くから、オルビーとそこの馬鹿二人分のゴーグルを作ってくれ。オルビー、お前は特大バズーカだ。設計班で手開いている奴は、アジト撤収と移動手段の確保。ある程度目途がついたら、必要な素材、道具全部持ってペイダルに乗り込むぞ!」


レストルの号令に工房が俄かに活気づく。

一泊遅れて、ルシアちゃんの為の魔導具をまだ作っていいのだと気づき、じわじわと嬉しさと希望が胸を占めていく。


「レストルさん……ありがとうございます」

「ぼやぼやするな。時間はないぞ」


レストルが肩を叩いて机に向かう。

想像もできないほどすごい力を持って、人類の敵と向き合う友人を助けてくれるのが嬉しくて、「はいっ!」と返事をして机に駆け寄った。


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