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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第73話 光の道

ルードたちと別れてしばらくは安定していた。

まだウォールディンたちは軽々と魔物を倒していたし、その間に私もバズーカに浄化の力を貯めることができた。

変化が出始めたのはそれから二日ごろ。

まず海が荒れ始めた。命綱なしに甲板で戦うのが危険なほどに船は大波に乗り上げては、降り、乗り上げて降りることを繰り返した。

当然船は揺れに揺れて、戦いどころではない。

それでも魔物は現れるから、冒険者たちはどうにか揺れの少ないタイミングを狙って一気にたたいた。

異変は異常に高い波だけじゃなかった。

少しずつ魔物が減り始め、代わりに、魔物の死体が流れてくるようになった。

大抵は頭に一撃、その他の外傷なし。

口には出さなくても、わかる。これは、レネが戦った跡だ。

魔物が少なくなったので、交代で休むことにした。

特に私は闇との戦いが主戦場だから、よく休めと部屋に押し込まれた。


懐かしい。闇から出てきたときに借りた部屋。

確かギジェが案内してくれて、壁をドンと叩いたら、壁の外に張り付いていた冒険者たちが逃げて行ったんだっけ。

それから、レネ。ふふっ、レネはこの部屋を一緒に使うつもりだったから、ギジェに首根っこ掴まれて引き摺り出されていた。

ふっ、ふふっ。思い出したら、笑えてきた。

トンと窓の横の壁を叩いてみる。

もちろんこんな異常時に、船の側面にへばりついている人はいない。

すげぇーすげぇーと目を輝かせているレネもいない。

部屋には外から聞こえる波の音が響くだけ。

騒がしかったあの時が懐かしいな。

もう少し。

もしレネを闇から救い出せたら、またきっとそんな日が来るよね。

頭を振って、懐かしい気持ちを振り払う。

とにかく今は仮眠しよう。いつでもレネを助けに行けるように。

しばらくして、自然と目が覚めた。

変わらず、部屋の中は波の打ち付ける音しかしない。

外を見れば、眠る前と同様に船は大きな波の上に乗っては落ち、乗っては落ちを繰り返していた。


「ウォールディンさん! 波が高すぎて進めません!」

「ばかやろう! 波ごときで弱音吐くんじゃねぇ」

「そうは言うけどよー。押し戻されんだよー」

「チッ」


船内から出ると、ウォールディンたちが叫んでいるのが聞こえる。

どうやら船は進んでいないらしい。

よろよろと手すりにつかまりながら、一歩、一歩進む。

あったかマントは着ている。

軽食も食べた。少し仮眠もとらせてもらった。

バズーカにも浄化の力は溜まっている。

よし。準備はできている。

あとは……。


「チリー」


甲板にいるチリーに声をかけた。


「ルシア。俺様、準備できてる。俺様ならいけるよ」


ちょうど、頼もうとしていたことだった。

海は大荒れで船が進めないのなら、空から行けばいい。

そう分かっていても、私とチリーの二人で行くのならチリーだって危ない目に合う。

それなのに、嫌がりもせず、チリーから声をかけてくれた。

チリーは昔から、まだまだ小鳥の時から本当の勇者だ。


「あいつ、俺様たちの仲間。助けに行こう」

「うん……お願い、私をレネの所まで連れて行って」


小舟に乗って、チュロス片手に乾杯したことを急に思い出しながら、かがんだチリーによじ登る。

いつもより高い視点、チリーが体を起こすと前傾姿勢でしがみつかなければ後ろに落ちそうになる。

ウォールディンに声をかけようと振り返れば、バチリとウォールディンと目があった。


「おい、何考えている?」

「ウォールディンさん! ここから先は私とチリーで行きます!」

「ちょっ、待てっ! おいっ! 戻れー! くそっ……。ミュンダーの奴らは死にたがりばっかりか」


チリーがぐんぐん高度を上げる。

霧の深いこの海で、ウォールディンはあっという間に見えなくなった。

どうか、ウォールディンたちも無事に島に戻ってほしい。

ルードと別れた時と同様に、心の中で祈る。

神でも、誰でも何でもいい。どうか皆が無事でありますように。


チリーは海の魔物に出会わぬよう、なるべく高いところを飛んでくれている。

顔に当たる風が冷たい。

オルビーの作ってくれたあったかマントがなければ寒すぎて体が動かなかったかもしれない。

霧の中からぬっと魔物が顔を出した。

すごい、大きい。とても。

さっとチリーは左によけ、再び霧は魔物の姿を隠した。

良かったと一息つく前に、チリーが「ルシア!」と叫ぶ。

見れば、前方の霧からも魔物が顔をのぞかせていた。

バズーカを抱えなおして、狙いをつける。

3,2,1と心の中で素早く数えて引き金を引いた。

少しそれたが、右頬に命中。

体の大きさのせいなのか、巨大な魔物にはそれほど効いてはいない。

旋回してもう一度狙いをつける。

3,2,1と再び数えて、もう一度。

次はしっかりと顔に当たり、魔物はおとなしくなった。

大人しくなった魔物の奥にぬらっと影が濃くなった。


「また来たー!」


チリーが叫ぶ。焦って、ろくに狙いもつけずに引き金を引き、私の光の攻撃は真っ白い霧の中へと吸い込まれた。

もう一回だ、もう一回。

バズーカを構え、引き金を引く。

光が魔物の首を捉えた。

だが、まだ足りない。

もう一度、旋回しなければとチリーを呼んだ時だった。

別の方角から大量の光が飛んできた。

それらは、今しがた戦っていた魔物を貫いてずっと奥の空へ空へと続いている。

まるで、光の道のよう。光の来た方に目を向ける。

相変わらず辺りは霧ばかりで何も見えない。


「オルビー?」


かすかに私の浄化の力を感じる。

私の力を知る仲間なんて、影の人しかない。

今度は光の行く先を見つめる。光はまっすぐ闇へと続いている。

闇の上の上の方へ。

まるで、この先にレネがいるよというように。


「チリー、この道を行こう。オルビーが見つけてくれた」


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