第72話 海の仲間
それからは、魔物が出ても私は甲板にいた。
ルードが近くで私を守りながら戦い、折を見てバズーカを放つ。
でもそれもあまり長い間は続かなかった。
まず、仮眠が取れなくなってきた。ご飯も食べられなくなってきた。
ひっきりなしで襲ってくる魔物に全員が対応しているからだ。交代して休むこともできない猛攻に、私が海に出るなんて無謀だったんじゃないかと思えてくる。
冒険者の島にもまだ辿り着かない。
お願い、もう少し。
お願い、行かせて。
お願い、どいてよ!
お願い!
バズーカを撃つたびに心の中で叫ぶ。
それでも魔物たちは私の願いを踏みにじりながら襲ってくる。
ぴったり私の横で守っていたルードも、徐々に離れてきた。
私を気にする、そんな余裕がなくなってきたからだ。
私ももう余裕がない。
とにかく撃つ。闇にたどり着く前にバズーカの中に溜まっていた浄化のパワーが無くなるかもしれない。それでもここを越えなければ、辿り着きもしない。
だから、撃つ。撃って撃って撃ちまくる。
どれくらいの時間が経ったのかわからない。
船の横につけていた大型の魔物が突然咆哮した。
ビリビリと鼓膜を震わす音に怯んでいた間に、ゆっくりと魔物が後ろへ倒れていく。
え? どうして
「呼んでくれないなんて水臭いじゃないか!」
「ウォールディンさん!」
空を駆ける聖獣ゴンドゥとウォールディンのペアが魔物を倒して甲板に降り立ってきた。
私たちが手こずっていた魔物もウォールディンたちにかかれば瞬殺だった。
でも、すぐに次がやってくる。
魔物の影が見えて、さっとバズーカを構える私の手を、そっとウォールディンが掴んだ。
「大丈夫、ちょっと休憩してな。さぁ、野郎ども出番だ!」
ウォールディンの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、霧の中から船のシルエットが見え始めた。
「みんな!」
心強さに涙が出そうになった。
それは他の船員たちも同じだったようで、甲板上は一気に活気づいた。
「待たせたな!」
「ヒーローってもんは遅れてくるもんだからよ」
「ルシアちゃ~ん」
霧から出てきた船から、海の冒険者たちが魔物へ飛び移る。
彼らから出る軽口すらも心強くて、くじけそうになっていた心がじんわり温かくなる
ウォールディンたちのおかげで、私たちは少し休むことができ、心に余裕が出てきた。
彼らの戦いぶりを見るのは、闇からでてウォールディンたちと出会ったあの日だけだったからわかっていなかった。
「本当に……強い」
海の冒険者たちは私たちが苦戦していた魔物を二、三人で倒してしまう。
あっという間に魔物が出てくるスピードよりも冒険者たちが倒す方が速くなって、足止めをくらっていた船がようやく少し動けるようになった。
それからまたしばらく魔物を狩りつくして、本格的に船は進む。
海の冒険者たちが乗る船に先導されて、少しずつ、少しずつ。
「ルード、ルシアちゃん、ちょっと来てくれる?」
ウォールディンに呼ばれて、甲板の隅に行く。
「よくわかったな。ここが」
「この前裏新聞送ってくれてたろ」
突然新聞の配信がなくなり、何かあったと思い、メレント方面の海を巡回してくれていたらしい。
新聞が配信されなくなったのは、きっと隠れ家が爆発したからだ。
ルエリア……。お願い生きていて。
何があったと聞くウォールディンにルードがメレント側の情報を共有する。
そして、そっちは? と聞くルードに、ウォールディンはなぜか私をちらりと見た。
「こっちも伝えとかなきゃいけないことがある。もう何日も何日も前のことだ。レネが……行った。島に寄りもせず、一緒に連れてた冒険者たちもおいて一人で行きやがった」
ウォールディンの言葉に悔しさがにじむ。
あぁ、やっぱり。レネは行くと言ったら行くんだ。誰も傷つけまいと一人で行くと思っていた。
「行かせない。お願い、私がレネを止めて見せる。だからお願い。あそこまで連れて行って」
「当たり前だ! あれだけ一人では行くなと言っていたのに。でも、俺も言う。ルシア、お前も一人でやるな。みんながいる。みんなであのバカを連れ帰ろう」
ウォールディンの言葉を聞いて、胸がまたほわほわと温かくなった。
良かった、ここにもレネを心配する人がいる。
そしてウォールディン、ルード、私の話し合いの結果、これから先はルードの船を降りて、ウォールディンたちと共に進むことになった。
ルードたちの力ではこれ以上先に進めないからだ。
「ルシちゃん、最後まで一緒に行けなくて悪い」
「ううん……ありがとう」
今までの感謝と別れる寂しさとルードたちのこの先を想う不安で、どんな言葉にしていいのかわからない気持ちをぶつけるかのようにルードに抱きついた。
私の力は魔物を浄化できる力でルードを守る力ではないと知っている。
祈ったって神様はちっとも助けてくれないってことも知っている。
だけど、思わずにはいられない。
どうか無事で。
ぎゅうっと抱きしめた腕からルードたちを守る力が出たらいいのに。
「ルシアー!」
突然空から聞き慣れた声が降ってくる。
ルードの胸にうずめていた顔を上げたら、真っ白な鳥が急降下していた。
「チリー!」
「俺様も来たよー!」
甲板についてすぐにチリーが私に体を寄せる。
小鳥だった時と違って、すでに私以上に大きくなったチリーが寄ってきたら、すっぽりと包まれるようになってしまった。
チリーの羽毛ごしに海の冒険者たちが見える。反対側を見れば、ルードとウォールディンたちが見える。
あぁ、頼もしいなぁ。
さっきまでは一歩も進めぬピンチの中に居たはずなのに、体の奥から元気が湧いてくる。
まるで、ジェーダの歌を聞いたときのようだ。
完結まで残り3日。
最後3日間だけ朝、晩複数投稿に戻します!




