第71話 初陣
船が進むほどに魔物に遭遇する数も増えてきた。
冒険者の島はまだまだ先。どうやって辿り着けばいいのか。
ドンと何かが壁にぶつかる音がする。ダダダダ、ダンと誰かが跳躍する音がする。
みんな必死に戦ってくれている。私を闇まで連れていくために。
「ルシちゃんの相手は闇だろう? ここは俺らに任せて隠れてな」
それがルードの言い分。
確かに、私は弱い。走っても走っても、体力はそれほどついたように思えないし、剣だとか槍だとかそういう武器を持っての訓練はしたことがない。魔物と戦ったことだってない。
けれど今はこれがある。
手元にあるオルビー特製バズーカを手に取る。
全ての魔力を使い果たすわけにはいかないが、多少なら私が補充することもできる。
私も外へ出て戦った方がいいんじゃないだろうか。
魔物の数も増えてきて、ルードたちも苦戦し始めた。
行くのか、行かないのか……ドッドッドッドッと心臓の音が聞こえる。
ルシア、勇気を出して。これは私の戦いなのよ。
ドアノブに手をかける。
そこまでしたのに、最後の一歩が出ない。
怖い、でも行かなきゃ。怖い、ドアを開けるだけよ。
行かなきゃ、助けなきゃ、でも、怖い、怖い、怖い!
ドアの前で逡巡していると、突然ドアに何かが体当たりしてきた。
「きゃぁ!」
ドアが開くと同時に、私も後ろに倒れる。
イタタタと身をおこすと、自分の足元に血だらけの男が倒れていた。
声も出ないほど驚いて、凝視することしかできない。
ズズッ、ズズッ。血だらけの男が外へ外へと引きずられていく。
よく見れば、男の足ににゅるりと魔物の足が絡みついていた。
「ゲホッゴボッ!」
死んでいると思った男が血を吐き出す。
生きてる! そう思った時にはバズーカと男が手に持っていた剣を持って走り出ていた。
男よりも先に外へ出て、男の足を掴む長いうにょうにょとした魔物の足に剣を差す。
男と魔物を切り離そうとしてのことだったけれど、私の力で切り離すのは無理だったようで、突き刺した剣は魔物の足に刺さったまま。
「あっ!」
魔物が暴れ、私の手から剣が離れる。脚を掴まれた男もぐんと引きずられ、怒った魔物が私の方にも足をのばす。
「ルシちゃん!? 早く、中へ、早く!」
ルードの声が聞こえる。中へ逃げなきゃ、逃げなきゃと思うのに体はちっともいうことを聞いてくれない。
怖い、怖い、怖い。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
半ばパニックになりながら、魔物に向かってバズーカを撃った。
「わ、わわわぁぁぁぁ」
この時私は本当にパニックだったんだと思う。
まっすぐ足を伸ばしてきた魔物のみならず、あっちこっちへとバズーカを撃ちまくった。
「ルシちゃん!」
ルードの声がどこか遠くで聞こえる。
早く、倒さなきゃ。早く。
そんなことばかりが頭を占めていたら、今度はがしっと頭を引き寄せられた。
硬い鎧の感触、何も見えない。
はっはという自分の荒い息が聞こえる。
「ルシちゃん、もう大丈夫だ。もう魔物は浄化したよ。これ以上はルシちゃんの力の無駄遣いだ」
遅れてルードの声が落ちてきた。
浄化した? じゃああの人は……。
ゆっくり頭をルードから引きはがして、周りを見る。
静まり返った船の上。
右舷に一匹、左舷に一匹、甲板にもいた魔物は皆大人しく海へと戻っている。
そして後ろを振り向けば、相変わらず血まみれで男が一人倒れている。
周囲の戦いは終わっていた。
それに気がつかないほど、取り乱していた。
「ルシちゃん、ごめんな。俺が間違ってた。ルシちゃんの戦いは闇だからそれまで温存してほしかったけど、違うな。これから今よりもっと強い魔物が出てくる。慣れよう。闇に近づくならいやおうなしに戦いになる。ちょっときつい、それに怖い思いもするだろう。けど、頑張れるか?」
「は、い……」
叫びすぎたのか、まだ心臓がバクバクと音を立てているからなのか、声が上手くでない。
これからもっと強い魔物がでる。そう聞いて正直怖かった。
足が震えた。
でも、それでもやる。やるしかない。
だって、魔物を越えて行かねばレネは助けられないのだから。




