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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第70話 守りたい

跳躍して、脳天に斧を叩きこむ。横から襲い掛かってきた奴をぶった切る。

海の中へ倒した魔物が沈む前に近場の魔物へ再び跳躍して、再び斧を振る。

飛び石のように魔物から魔物へ倒しながら先へ進み、疲れたら魔物の頭上で一息つく。

俺の存在に気がつかれたら、再び斧を振り、次の奴へ飛んでいく。

一緒についてきてくれていた冒険者たちはもう遥か後ろ。


「ルシアのことを頼んだ」


最後にそう言づけして別れたのはいつだったか。

霧が深いところでは、一面真っ白で今が朝か昼か夜かもわからない。

いや、俺がもうそういう時間を見ないことにしたから、わからなくなっているのかもしれない、

魔物を見つけて倒す、そして次。

今の俺はもはや機械のように次から次へと魔物を倒している。

たまには苦戦するやつもいる。

でもこの闇の力はすげーのな。俺は連戦続き、おまけに仲間もない、すっげー武器もない、ただのたった一人の俺だと言うのに、こんな巨大な魔物を倒してしちまうんだから。


最初から決めていた。

魔物がうじゃうじゃ出てき始めたら、自分一人で行こうと。

冒険者たちは、「待て! 一人で行くな!」と言ってくれていたが、無理だ。

これから俺自身が闇になるかもしれないというのに、ついて来てもらっちゃ困る。

俺は冒険者たちが好きだ。闇と一体化した俺が、奴らを襲うなんてことになってほしくない。

まぁそうならないように、もしも闇を取り込まなければならなくなったら、そのままずっとずっと北上して誰もいない場所へ飛んでいくつもりだが、正直どうなるかはその時にならないとわからない。


朝、昼、夜。絶え間なく、魔物は湧いてくる。

絶え間なく、俺も斧を振り下ろす。

今頃一緒にペイダルに来てくれた冒険者たちは冒険者の島へたどり着いただろうか。

ルシアはそこで俺が一人で行ったことを聞いてどう思うだろう。

「私を連れて行って」とヴォールディンたちに詰め寄ってるかもな。

約束を守る。今度こそ。

ルシアが罪悪感なく、生きられるように。

だからそれまであと少し。

どうか待っていてくれ。


なぁ、ジュード。

闇の外には本当に空飛ぶ魚がいたんだぜ。でっかい鳥に乗って空から大型の怪物に切りかかる奴がいたんだぜ。

すげー、すげーって馬鹿みたいに感動する毎日でさ。

そんな冒険がずっと続くと思ってたんだ。

でもさ、途中から離れないんだ。

闇を倒さないとルシアは救われないんじゃないかとか、ジュード、お前にも外の奴らみたいに長生きしてほしいとか、そんな考えがさ。

外ではお前に紹介したいくらい強くて良い奴らに出会ったんだ。

魔導具っていうすげーもん作れる奴もいるんだ。

そいつが作るスーパーミラクルすっげぇ道具をまだ見れてねぇのが残念で、ジュードに俺が見たすっげー奴らやすっげー物を話せなかったのも残念だ。

世界には、俺らが思っていたよりすっげーもんがたくさんあったんだ。


闇に近づくほどに力がみなぎるのを感じる。

俺の中の闇とミュンダーを覆う闇がまるで互いに影響しあっているようだ。

海に出て何日たったのかはわからない。

腹も空かないし、のども乾かない。

ついに闇との境にやってきた。

そっと掌で触れてみる。

弾かれはしない。逆に飲み込まれそうになって、触れた手を引き抜いた。

背後から近づく魔物は一撃で倒し、闇にその斧を振り下ろす。


ぶにゅりと闇がへこみ、また戻る。

何度も何度も振り下ろすが、結果は同じ。

俺の斧がダメージを与えることはない。

己の中の闇の力に意識を研ぎ澄ます。

奥から奥からあふれ出るように流れる闇の力を、肩から腕へ、腕から手、そして斧にまで纏わせる。


「いくぞ」


振り上げる。そして降ろす。

結局俺にできるのはこれだけだ。

だが、さっきまでとは違い闇に斧が触れたその瞬間、ものすごい風が吹き荒れた。

力と力のぶつかり合い。

風を巻き上げ、大波をおこし、倒した魔物を流していく。

今までと違う。

その感触に、いける気がした。


何回、何時間、いや何日の間、俺は斧を振り下ろしたんだろう。

振って降ろす、振って降ろす。

闇とのぶつかり合いで、この辺の海は大荒れで、嵐の真っただ中のよう。

だけど……。

ボロリと斧の先端が折れ、ズルリと掌の皮がむけ、とうとうポキリと斧の柄も折れた。

未だミュンダーを包む闇にほころびなし。

寝ることもなく戦い続けて、俺も変になってきたのかもしれない。

闇の中に男の影を見た。

男は何をするでもなく、俺を見る。


なぁ、マキレス。

俺さ、わかったよ。

お前はさ、ミュンダーを守りたかったんだろ。外のあらゆる危険から守りたかったんだろ。

だっておかしいだろ。

外はこんなにも危険なのに、あの国は平和そのものだ。


もう短い木の枝になり果てた斧から手を放す。

ずっと一緒に戦ってきた相棒はまっすぐ荒れた海へ飛び込み、沈んでいった。

手を伸ばして、男の手を掴む。


ありがとう、マキレス。

おかげで俺はのうのうと暮らしてきて、馬鹿みたいに能天気に育ったよ。

でも、悪いな。

この力は人の身には強すぎるらしい。

中に俺の親友が住んでんだ、長生きしてほしいんだ。

外にも死んでほしくねぇ奴たくさんいるんだよ。

だから、その闇俺に任せてくんないか。


手から腕、腕から肩と少しずつ体が闇へと沈んでいく。沈めば沈むほど、闇がこの身に入ってくる。


しっかりしろ、俺。

忘れるな。

自分が何者かを忘れても、忘れるな。

闇を持って、誰もいない北へ飛ぶこと。守りたい人がいたことを。


闇に包まれ、闇になり、忘れるな、忘れるなとなんでそんな風に言い聞かせているのかわからなくなったころ、突然視界が白くなった。


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