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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第69話 聖女様の真実

レネが冒険者の島を通り越し、ルシアたちが海の上で魔物に対応していた頃。

メレント、ペイダルで革命の光が灯った。

旗印となったのは、民からの人気も高かったペイダル第二王女エルミラ。

彼女は王家から離れて、民と共に生きることを宣言したのだ。

彼女は訴える。闇がどれほどの魔物を生み、どれほどの兵士や冒険者が犠牲になっているのかを。

彼女は言う。

ここは霧から遠いから関係ないなんて思わないで、と。

霧は広がっているのだ、闇の力は強くなっているのだと。

魔物を押さえなければ私たちは生きていけない。いつの日か広がった霧の対応に貴女の旦那が、友達が、子供が行かざる得なくなるかもしれないと。

農家が討伐に行けば、いつも手に入る野菜が手に入りにくくなるのだと。

鍛冶屋が対応に行けば、誰が刃こぼれした剣を研ぐと言うの? と。

想像してください! と彼女は訴えた。

大切な誰かが魔物と戦わなければならない場面を、大切な何かが魔物によって壊される瞬間を。


また同じ時、闇の中では多くの者が声を荒げていた。


「おい! 聖女様はまだ闇を晴らせないのか!」

「本当に聖女様は祈ってくれてるんだろうな!」

「聖女なんて、嘘だったんじゃねーのか!」

「俺たちをだましたんだろ!」


神殿の柱は折れ、窓ガラスは割れている。

暴走した市民が暴れたためだ。聖騎士たちが抑え込んでいたが、時が経つにつれ一人、また一人と聖騎士をやめていった。


「長、長は逃げないのですか?」

「聖女様一人に世界を背負わしておいて、私一人逃げられるわけがない」


神殿の長ジェラルドはそう言って、日課の祈りの間に向かう。

聖女様がこの国を出られた時、私は光を見た。

私だけじゃない、多くの民が光を見た。

だからこそ、ここまで持つことができたのだろう。

民は思ったはずだ、儀式を始めたら光が現れた。光はほんのわずかな時間だけだったが、これなら本当に闇を晴らしてくれるはずだと。

その希望が、民を今まで耐えさせた。だが、そろそろ潮時か。

今日も聖女様がいた頃のように、最奥の間に向かい、一人で両の手を組む。

あぁ、神様。もしも本当にいらっしゃるのなら、どうかあの子が無事でありますように。

希望の光だと市民が思っている光、私はそうは思えなかった。

聖女様がお小さい頃、私と聖女様は祈りの丘で遊んでいた。

遊んでいるうちに、祭壇の所まで辿り着いた。

ふわり、突然聖女様の体が浮いた。無我夢中で聖女様を引っ張り下ろそうとした時、私は見た。

今まで何もなかったところに、黒くて暗い闇を煮詰めたものが私の腕ごと聖女様を飲み込もうとしていた。

あれからだ。

あれから私には、あの闇が見える。

力も強くなった。それはきっと……あの時自分の身に闇を取り込んだからだろう。

だから私は知っている。聖女様たちが海へ出てしばらく、ものすごい闇のうねりが海へと向かっていったのを。

あの光は、聖女様が戦った……もしくは闇に飲み込まれた時の光なのではないかという考えが、振り払っても、振り払っても頭の奥にこびりついている。

あの時、あの少年と海に出したのは失敗だったのだろうか。


ガチャリ。

後ろで扉の空いた音がして、何人もの人が中に踏み込んできたのが分かった。

やはり、もう時間切れのようだ。


「なんで、闇は晴れねぇんだよ」


怒りに満ちた声に、「そうだ!」と賛同する人々の声。


「本当に聖女様は祈ってくれてるんだろうな! 祈りの丘は立ち入り禁止だ。サボっていても、バレねぇ。いや、そもそも聖女様にそんな力なんてなかった。だから、あの丘にも誰もいない。そうだろう?」

「聖女様は紛れもなく、聖女様でした」


「なんで闇は晴れないんだ」と激高した誰かが、がしりと私の体を掴んだ。

どうやら腕の力があるらしい。力を使わなければ、うんともすんとも動かない。

あの闇に触れてから、私の力は増した。だからこんな腕の力、私も力を使えば簡単にはねのけられる。

それをしなかったのは、もう……どうでもよかったからだ。

あの光で聖女様が死んだのではないかと考え、そんなわけないと祈ることを繰り返すのは、もう疲れた。

それに、こういう奴らを見るとムカムカする。

何でも聖女様のせいにしやがって。


つれて来られたのは、暴徒によって壊されたボロボロの神殿前広場。

火がともされており、何人もの人が神殿前広場に集まっているのが見える。

まるで、あの日のようだ。

あの儀式の日。あの日の民たちは、希望に満ち溢れていた。誰もが聖女様に声援を送っていた。

今は、人類の敵でもあるかのように罵っている。


「神殿は俺たちに何をしてくれた? 闇を晴らす聖女が生まれたと言ってどれだけの時が経った? やった儀式の結果はどうだ?」


神殿前広場に、男の声が響き渡る。

広場に集まる民衆が、思い思いの言葉で文句を言う。


「今日こそ、神殿の欺瞞を暴くとき! 祈りの丘を調査する」


うぉぉぉーと、大地が揺れる。

馬鹿もの。闇の力が以前より強くなっているのを感じる。

今祈りの丘へ行けば、きっと闇に取り込まれる。


「いいよなぁ? 神殿の長様?」


民衆に鼓舞された男が、押さえつけられ、床にはいつくばっている私を覗き込みながら言う。

腹が立つ。聖女様のことを何一つ知らないくせに。

あの子がどれだけの物を背負っていたか知らないくせに。

力を込めて、私を押さえている男を跳ねのけた。

神殿前広場がシンと静まり返った。


「こんなに押さえつけなくとも、私は逃げも隠れもしない! 祈りの丘の調査に行きたくば、行くがいい。ただし、無事帰って来られなくとも文句は言うなよ」

「はぁ?」


男の声が間抜けに響く。

「昔、予言者エムリは言った。金の髪を持つ女の子が闇に入りし時、闇は晴れると。聖女様は生まれた時から闇に取り込まれることを運命づけられた」


ざわざわとざわめきが広がっていく。

目の前の男の顔にも、困惑が広がった。


「確かに! 聖女様は未だ闇を晴らすことはできていない。だが、まだ言葉も発する前から親と離され、来る日も来る日も闇が晴れるよう祈り、闇が晴れないことに悩み、文句を言われる日々。まだ大人でもない彼女に、私は言わなければならなかった。聖女とは、生贄なのだと」


再び神殿前広場が静まり返る。


「私は、まだ闇を晴らせないのかというあなたたちの声を聞いて、『早く死ね』と言っているようにしか聞こえなかった。当の本人、聖女様の気持ちはいかばかりだっただろう。聖女様のお母様は、単身王都まで来て、娘の無事を祈っておられる。自分が親だと名乗ることもできずに。闇という巨大な問題をなんでたった一人の女の子が背負わなければならない?」


ここまでぶちまけても、まだ言い足りなかった。

民は長年闇を晴らさない聖女様に鬱屈とした思いを抱えていたんだろう。

けれど、同じ時間だけ、私たちも悩んでいた。

今、しゃべっているのはなぜだ、この口が止まらぬのはなぜだ。

なぜ、なぜ……それは、怒っているからだ。

何もかも背負わせた社会に怒っている、自分は何もできないくせに文句ばかり言う市民に怒っている、そして、何もできない自分にも怒っているからだ!

何も知らないくせに、何もしなかったくせに、上から目線で何を言う!


「祈りの丘に行きたいなら、行け。お前も聖女様のように尊い犠牲になればいい。みんなの為に!」



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