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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第66話 番狂わせ

「報告がございます」


ペイダル国王に声が聞こえた。ペイダル王国の諜報部からの報告だった。


「メレントでは何か見つからんか。あれは全然魔導武器を作ろうとせん。研究所内に何か資料や設計図は残されていたか」

「研究所内は隅々まで探しましたが、魔導武器に関連するようなものは見つかりませんでした」

「一見それとわからないように、隠ぺいしてある可能性も考えたか」

「はい、その可能性も考え、資料類を改めましたがありません」


諜報部からの報告に、国王はチッと舌打ちをする。

サイリャは魔導武器を作らない。研究所にも資料はない。どこかに隠していることも考えられるが、この男のことだ。その点はもう調べてあるのだろう。


「隠し場所になりそうな場所は?」

「メレントにあるサイリャの父の家が有力ですが、こちらについて面白い情報が」

「なんだ」


諜報部の男が語ったのは、サイリャの父ルードの家に最近居候がいるという話。

少年一人、金髪の少女一人。

ペイダル国王は思った。だからなんだ、と。

諜報部の男の報告は続く。

少年は毎日時計工房へ、少女は毎日一軒の家に通っているそうだ。

国王は、そこまで聞いてもだから何だとしか思わなかった。


「それで、その少年少女とサイリャとの関係性は? ただ父親が家に泊めているだけか?」

「今のところはっきりとはわかりませんが、彼らは冒険者の島から来ています。英雄レネとは顔見知りでしょうし、サイリャの父ルードの家に住んでいるということは、サイリャとも顔を合わせたかもしれません。特に気になるのは少女。冒険者の島に女性はたった二人です。サイリャの母と英雄レネと共に闇から出てきたという少女ルシアです」


そこまで言われて、国王はあぁと納得した。

確かに冒険者ギルドからの報告にあったミュンダーの民は二人だった。

英雄小僧は多くの魔物を倒して有名だったが、もう一人は全く話題に上がらず注視していなかった。その娘が突然メレントへ渡る。何か関係があるのか、ないのか……。


「とりあえずその金髪娘は確保しておけ。番狂わせはなければない方がいい」

「承知しました」


諜報部の男が「国王様」と再び声をかける。


「エルミラ殿下がサイリャと接触しております。こちらはいかがしましょうか」


第二王女エルミラは、もうすぐ英雄の妻になる予定だ。

エルミラは、わきまえた娘。

王女というのがどんなものか、わかっている。

政治に口出しせず、自分で動かず、ただ求められた役割を果たす。

そのエルミラが、勝手にサイリャに会いに行ったという。

確かエルミラは、王都で英雄小僧に助けられていたな。

絆されたか。


「エルミラは誰にも接触出来ぬよう、厳重に保護しておいてくれ」

「保護、ですね。承知しました」



新聞の魔導具を起動させ、今日も一人でペイダルで配られている新聞を紙に書き写す。

ルシアが来る前は一人でやっていた仕事だが、ルシアが来ていつの間にか二人で話しながら仕事をするのに慣れていたようで、一人で書き写す作業はなかなか寂しい。


「でも、そっかぁ。ルシアちゃん、闇晴らすんだもんねー。ってことは、ルシアちゃんが英雄ってことかー」


独り言をつぶやく。

思い出すのは、昔の占い。

瞳占いじゃない、名前や自分の生年月日、生まれた時間を用いて占う本格的なものだ。


――この子はいずれ、英雄の為に命をかけるじゃろう。


占ったばあちゃんがそう言って、うちのお父さんとお母さんは名前を変えるぞと大慌てしたらしい。結局、そんな両親にばあちゃんが「今更変えても、運命は変わらんて。もうその子はルエリアとして存在しているんだ」と言ったことで、ルエリアのままになっている。


――いいかい、リア。名前は大事じゃ。名前がなければ、世界に存在しないと同じ。世界がリアを見つけられない。リアはこんな運命嫌だと泣くけどね、きっとその時になったらわかるはずだよ。


大きくなって、占い結果を教えてくれたばあちゃんはそう言った。

その時になったらわかる。

そう言われて、ずっと思い描いてきた。

英雄の為に命をかけるってどういうことだろうって。

だから影にも入った。闇を無くそうと活動している影なら、英雄と会うこともあるだろうと思ったからだ。

けれど、英雄の少年はペイダルに行き、ますますどんな風に命をかけるか意味が分からなかった。

影の仕事を一生懸命やることが、命をかけることなんだろうかと納得し始めた時、ルシアがチリーを救った。

そっかぁー。ルシアちゃんが英雄だったか。

盲点。

でも、ルシアちゃんに命をかけるってどうすんだろう。

やっぱり、ルシアちゃんと一緒に闇討伐に行くべきってことかな。うーむ。


考え事をしながら、新聞記事を写していく。

外で、猫の唸り声がした。

そっと席をはずして、通りが見える窓際に行く。いつも通りのようで、何かが違和感だ。

念のため別の方向の窓からも外をのぞく。

中庭が見えるその窓から、中庭を何食わぬ顔で歩いてきている男がいた。

ドッ、ドッ、ドッ、ドッと心臓が鳴る。ペイダルの兵士?

影のアジトだとバレたのだろうか?

急いで元いた部屋に引き返して魔導具を切り、木箱がたくさん並んでいる棚に紛れ込ませる。

今書き写したペイダルの新聞は、丸めて火にくべ、こっそり外に出ようと玄関に向かう。


「ルシアちゃーん、どこかなー?」


玄関の方から男の声が聞こえた。

そっと玄関の方を盗み見る。

知らない男がずかずかと家の中へ入ってきている。

ここが影の拠点ってバレたわけじゃない、ルシアちゃんを探してるんだ。

もしかしてルシアちゃんが闇を晴らせるってバレた? でも、どうして?

ルシアちゃんがペイダルに捕まったらどうなる?

そんなことを考えて、考えて、考えるのをやめた。そんなの考えている暇なんかない。


わかったよ、ばあちゃん。ここがルエリアの役どころってことだよね?

なんで、ペイダルがルシアちゃんを探しているのかなんてわからない。でも、ルシアちゃんを渡しちゃいけないってことは分かるから。

そっかー、命をかけるってこういうことかぁ。

全く、損な役回りじゃん。

一応足掻いてみるけど、ばぁちゃんの占いあたるからなぁ。

いざという時の為、油をまく。いざという時に全部燃やして証拠隠滅できるようにここにはあっちこっちの部屋に油を常備している。

まだ彼らが一階を探している間に、なるべく多くの部屋の油をぶちまける。


「二階かなー?」


兵士の声と階段がぎしぎしときしむ音がした。男が上がってくる前に家の奥へと逃げないと。

最後の部屋で紐に火を付け、紐の先をぶちまけた油に垂らした。

そして帽子をかぶって髪の毛を見えないようにして、いざという時の防犯袋を手に持って、部屋を出て、扉を閉める。


「ルシアちゃん? ルシアちゃんでしょ。ちょっと俺と来てくれない?」


思っていたより早く男が上がってきて捕まりそうになる。

手に持っていた防犯袋を男に投げつけた。袋が破けて、中から粉が舞い上がる。


「ゲホッ、ゲホッ。クソガキが」


一瞬男の視界から逃れたすきに、男のいない家の奥へと走って逃げた。

一番奥の部屋に飛び込む前に下を捜索していた男も登ってきたのが見えた。

部屋に閉じこもって鍵をかける。

「あの部屋だ」という声と共に、ドスドスと大きな足音が響く。


「おい、逃げんなよ」


男の声が扉のすぐそばでした。怖い。返事をしなかったら、ダンダンと音がして、何の変哲もない扉はあっという間に蹴り破られた。


「もう、逃げ場はないぞ」

「私はあなたたちと一緒になんか行かないよ」


この部屋にあった甕を倒してマッチに火を付ける。


「危ないだろう」


男がマッチを取り上げようと一歩近づいたから、迷わずそのままマッチを投げた。

男と私の間に炎があがる。


「くそっ! ガキ一人捕まえるだけだっていうのによ!」


前にいた男が舌打ちをした。後ろの男は背後を確認した。すぐに逃げられるよう算段をつけ始めたらしい。

けど……。


「入り口の部屋が、階段が、燃えてるぞ!」

「あんたたちには悪いけど、こうなる運命なんだよねー」


ニヤッと笑いかける。


「クソガキが!」


怒った男たちが乱暴に部屋から出て行った。

さて、私も最善を尽くそうかな。

ばぁちゃんは命をかけるって言ってたけど、死ぬとは言われてないもんね。


「お祝いパーティ行けなかったらごめんねぇ」と心の中でルシアに謝って、窓に向かって走り込んだ。背後で爆発したようなすごい音がした。


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