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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第6話 チリー

もうすぐ裏口だというその時、下の方からチリリとか弱い鳴き声がした。

何故か気になってしゃがみこむ。あちらこちらに目を凝らすが、ランプの灯りだけでは見つけることができない。

チリリ。また聞こえた。こっちだ。きょろきょろと辺りを見渡しながら鳴き声の聞こえる方へと進んでいくと、真っ白な塊を見つけた。これ、なに?

さらに一歩近づき、目を凝らす。


「チリリ」


やっぱりこれだ!

さらにもう一歩近づいてみるとそれは真っ白な小鳥だった。

なんだかぐったりしている。

もしかして、死にかけている? と思った瞬間、私の頭の中はパニックになった。

どうしよう? どうしたらいい?

こっそり逃げ出してきたことなど一瞬で忘れて小鳥を手に載せ走って帰った。


「この子! この子どうしたら助かる?」


焦って部屋まで戻ってくる途中でアスラに会った。アスラに手をぐっと近づけて捲し立てる。

「部屋で待っていてください」と言ったアスラの言葉に従って、部屋に帰った。

机の上にそっと置いて小鳥を観察する。


「大丈夫、大丈夫よ。聖女様の言葉を信じなさい! アスラに頼んで何とかならなかったことなんてないんだから」


不安から言葉が次々と飛び出す。


「もう安心よ。大丈夫。どうにもならないと思ったことだって、大抵のことは何とかなるんだから。あ! ちがうよ、どうにもならないわけじゃないからね! 死なないよ。大丈夫よ。そんな簡単に死んだらだめっ、なのっ、よぉ」


こみあげてくる涙を必死でせき止めていると、ポンと頭に大きな手が乗った。きっとジジ様だ。


「ジ、ジジ様……。この、この子助かるっ、か、なぁ」


言葉に出したらまた涙がせり上がってきた。


「落ち着いて。大丈夫。きっと自由に飛んでいけるようになります。絶対に……」


ジジ様がつぶやきながら、頭をなでる。うんと小さかった頃のように。 

扉が開いて、アスラが医者を連れて戻ってきた。

アスラと医者がジジ様を見てびっくりしている。


「私のことは良いから早く小鳥を見てあげなさい。私は聖女様付の君が急いで医務室へ飛び込むのを見かけたから、何事かと来てみただけで、聖女様がお元気なら仕事に戻りますから」


ジジ様は頭をなでるのを止め、出て行った。

ジジ様に緊張していた医者がふっと息を吐く。

気を取り直して小鳥と向き合う医者をアスラと二人、固唾をのんで見守る。

しばらくして、医者はさっきより深いため息をついた。

どうしたの? やっぱりもうダメなの?

ドッドッドッと心臓の音が聞こえる。


「聖女様……。私は人間が専門でねぇ。鳥のことは全く分からんのだが見たところ怪我しとるわけでもなさそうだし、腹が減っとるだけなんじゃないか?」


え? お腹が、空いているだけ?

空腹が原因だと聞いたアスラが、早速厨房に小鳥が食べられそうなものをとりにいってくれた。

ほどなく戻ってきたアスラが、豆や種を小鳥の前にパラパラと撒く。医者、アスラ、そして私の三人が見守る中、小鳥はチョンチョンと近づき口に含んだ。

一つ、二つ、三つ。そして四つ、五つ、六つ。


「よかったぁ~」


一生懸命食べている様子に自然と声が出た。

アスラも医者も「よかった、よかった」と言い、空気が緩み、なんだか暖かい気分になった。

医者が帰ってからの私とアスラは、小鳥をうっとりと眺め「可愛い!」と連発した。

帽子を作ったら寒くないかしら? なんて話もしている。


「ねぇアスラ、私も作ってみたい。赤い帽子なんて素敵じゃない?」

「いいですよ。聖女様はお裁縫初めてですね。一緒にやってみましょう」


二人で笑いあう。

外が闇であるとか、いつになったら能力が発現するかなんて関係ない。そんな他愛ない話。それがすごく楽しかった。


「さてと」


アスラの言葉にぎくりとする。アスラがこう言う時は、何か良くないことを言い始める時だと私は知っている。


「聖女様、この子をどこで拾ってきたんですか?」


しまったぁぁ! こっそり逃げ出してきていたんだった。


「う、裏口を出たところ!」


裏口はこの部屋の下。なんとなく窓辺に寄って、この子を見つけたところを見ながら話す。


「鳴き声が聞こえたの。助けてって言っているみたいで……」


怒られる、絶対怒られる。それともなんて悪い子だと呆れられちゃうかな……とドキドキしながら、しどろもどろに説明する。

アスラは何も言わない。私から目をそらし、ぐっと口を押えているだけだ。

勝手に出て行った理由を聞かれたりするのかと思っていた。

こら! と怒られると思っていた。

なのに、何も言わない。え? え? どういうこと? 怒られないけれどすごく怖い。

少ししてアスラは咳ばらいし、「今度は出ていく前に教えてくださいね」と言っただけだった。

怒られ……なかった?

その後夕食を食べ、いつものように祈りの間に向かう。

違うのは、部屋に小鳥がいること。

私はチリリと鳴いて私の周りを飛ぶこの小鳥をチリーと呼ぶことにした。

チリーのことを考えながら歩いていたら、あっという間に祈りの間。

祈りの間の前で一呼吸。チリーのことで忘れていたけれど、朝のお祈りの後は泣いて走って逃げ、チリーを拾ってきたときも泣いていた。

すっかり元気を取り戻した後になんだかジジ様に会うのはちょっと気まずい。


扉を開けると、思った通り祈りの間にはすでにジジ様が来ていて、熱心に祈っていた。

私はもうこの祈りが意味のないものだと知っているけれど、まだジジ様となんて話したらいいのかわからなくて、ジジ様の隣で両手を組んだ。

お祈りの後、ふぅっと一息ついてジジ様に話しかける。


「あの小鳥はお腹が空いていただけだったみたいです。もうすっかり元気になりました。大騒ぎしてごめんなさい」

「そうですか、よかったです」


ジジ様がほほ笑む。

良かった。ジジ様も怒ってない。

それなら! と口を開こうとした瞬間にジジ様も口を開いた。


「今日は窓を開けておくのですよ」

「え?」


――小鳥、飼っていい?

言おうとした言葉が口の中で消えた。


「窓を開けていれば、自由に飛んでいけます。もしかしたら愛情深い母鳥がいるかもしれない。家族の所へいつでも帰れるようにしてあげなさい」

「はい、ジジ様……。あの、おやすみなさい」


とぼとぼと祈りの間から部屋へ戻る。

祈りの間の前で待機してくれていたアスラにジジ様が言った言葉を告げたから、アスラもとぼとぼだ。

湯あみをして、ベッドに横になる。

ジジ様に言われた通り窓は少し開けている。考えてみれば私も出ていくのだ。どちらにせよここで飼うわけにはいかなかった。

でも……。


「ねぇ、一緒に行く?」


サイドボードの上でうずくまるチリーにそっと語り掛ける。もちろん返事はない。羽がピクリと動いた。ただそれだけだ。

チリーから目を離し、仰向けになって思い返す。

今日はいろんなことがあったな。

ジジ様に本当の事を聞いた。

泣きながら祈りの間から逃げて、泣き疲れて寝た。

窓から飛び降りようともしたし、神殿の外へ出てスープ屋にも行った。

男の人に幸せになれるスープを教えてあげた。

そしてチリーにも会った。

あぁ、外の世界は楽しかったな。また行きたいな。


「チリー、寂しいけれど好きなところに飛んで行っていいからね」


私も……好きなところに……と思いながら瞼が下がってきた。

そういえば今日はあまり闇のことを考えなかったな。


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