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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第58話 英雄の結婚

ルエリアの家に戻ると、ルエリアが午後は「文字の仕事!」と言って二つの道具を出した。

私にはただの蓋のついた木枠に紙をはめたものにしか見えない。けれどこれも魔導具なんだとか。


「リアちゃん、この魔導具はどんなことができるの?」

「これはねー、ここに文章が映っているでしょう? これね、ペイダルで発行された新聞なんだ。私たちの仕事はこれを紙に写してみんなが読めるようにすること」


ルエリアが魔導具を起動させると、木枠の中の紙に文字が浮かび上がった。すごい。

ルエリアに言われて、木枠を覗き込み、中に浮かび上がっている文字を紙に写す。

新聞には、英雄レネがペイダルの王都に出た魔物を瞬殺したと、ペイダルの守護神だとほめたたえていた。魔物がやってきたのは、昔星が落ちてきた星落ちの地の方向だったことから、最近また星落ちの地の瘴気が活性化しているのでは? と考察している。


――星落ちの地の瘴気が活性化したならば、ペイダルは暗く辛い時代になっただろう。そんな時に英雄がいたのは天の導きか。ペイダル国王は、近く英雄レネに褒章をとらせる意向だ。まだ輿入れしていない第二姫との結婚だとみられる。第二姫との結婚がなれば、ペイダルも安泰だ


「え?」


書き写しながら声が漏れた。

びっくりした。闇を倒す話は一つも載っていなかった。

それに結婚?


「どうしたの? ルシアちゃん」


ルエリアが私の手元をのぞき込んで「あぁね」と言う。


「闇の討伐の話なんか一つもない」

「そうなんだー。はい、これここ最近の新聞書き写したやつ。これもサイリャさんが言っていたんだけどー、ペイダルはレネ君を闇討伐に行かせたくないんだって」

「どういうこと?」

「お偉いさんは、魔導具が欲しいってことー」


そっか。闇がないと瘴気が出ない。瘴気がないと魔物も出ない。平和だけど、魔物がいないと魔石もなくて、魔導具も使えないのか。


「だから、レネ君がすぐに闇討伐に行かされることはない。ないんだけど……ごめんね。私たちはなるべく早く行ってほしいんだー」


そう言って、ルエリアがもう一束紙を渡してくる。

その中身は、霧の範囲が広がっていることや冒険者たちがどんな戦いをして、大陸の平和を守っているか、魔物がどれだけ怖いものなのかが書いてあった。


「これは?」

「これはね、私たちの裏新聞。これを仲間が書き写して、大陸中にばらまいてるの。だから、お偉いさんたちは闇を討伐してほしくないし、内陸の安全なところにいる人たちもそれほど闇の討伐に乗り気じゃないんだけど、少しずつこれを読んで『早く闇を討伐しよう』って声をあげる人が出てきてるんだー」


「だから、ごめんね」とルエリアが言う。


「ううん、これがなくてもレネは行くよ」


レネは、行くと言ったら行く、やると言ったらやる人だ。そのレネが「闇をぶっ潰してくる」と言っていた。

本当は影の戦略に思うところはある。自分たちだけ安全なところにいて、レネを向かわせるなんてひどいって言いたい。でも、それは何もできない私も同じこと。

レネの役に立ちたくてここに来た。もっと言うと、冒険家に戻してあげたくてここに来た。

けれど、ここについて知れば知るほど、私はレネを追い込んでいるだけじゃないかって思えてくる。

どうしたら、レネの助けになれるんだろう。


ルエリアとオルビー、そして私の三人でルードの家に帰る。

ルードの家まで来たら、「まったねー」と言ってルエリアはもと来た道を帰っていった。


「ルシアちゃん、影どうっすか?」


オルビーが二階に上がりながら、聞いてくる。


「わからない。私が思っていた活動とはちょっと違ったけれど、それが正しいのかどうなのか、私にはわからない」

「自分も……レネに最高の武器を持たせたくてここまで来たっす。けれど、武器はダメだと言われて、じゃあ何のためにって思ってしまったっす。武器がダメな理由を聞いて理解はしたっす。でも、それじゃあレネはどうなるんすか」


あぁ、よかった。オルビーも同じ気持ちだ。

私も。レネを助けたくてここまで来たのに、レネを闇との戦いに積極的に送り出さなければいけないことにもやもやしていた。


「ねぇオルビー、私はレネの味方だよ」

「自分もっす」

「でももう少し影にいようと思う。ここでしかわからないことがたくさんある気がするから」

「確かにそうっすね。ペイダルの情報も手に入るし、魔導具についても学べる。武器がダメなら防具っす。最強の防具を作ろうと思うっす」


オルビーと話して、ちょっとすっきりした。

ここに来ると決めた時だって、何をしたらいいかなんてわからなかったじゃない。

わからないなりに、役に立ちたくて、手あたり次第全部やってみようと思ったんじゃない。

なら、当初考えていたように、まずはもっと敵を知ろう。闇のこと、魔物のこと、瘴気や魔王のことも。


それから私は毎日、研究員たちの生活のサポートをしつつ、新聞を写す仕事をした。

それが終われば、過去の新聞やおいてある本を読む。

ルードの家に帰れば、オルビーと一緒に今日知ったことの情報交換をした。


「そういえば、自分の瘴気測定器正常に作用していたみたいっす。工房にあるサイリャさんの測定器も同様に瘴気の値が増えていたんす。それで、工房では早くレネを闇に向かわせる計画を立てているっす。ただ決め手はなさそうなので、今すぐと言うわけではなさそうっすけど」

「うん、でもきっとレネは行くと思う。行くと言ったら行くのがレネなんだ」


それに、確証がなくてオルビーにも話せていないけれど、王都に出た魔物をレネが討伐したと数日前の新聞に書かれていた。

今まで魔物が出なかった王都に魔物が出たのはきっと、レネから立ち上る闇のせいなんじゃないだろうか。

そして、それをレネが知ったらきっと、すぐに討伐に向かう。

ぐずぐずしている時間はない。


「ルシアちゃんの方はどうっすか?」

「私は今日もマキレスの本を読んだんだけど、収穫なし。でも……サイリャさんのことは何か聞いた?」

「サイリャさんっすか? いや、お城に行ったっきりっすから、まだ何も情報はないっす」

「サイリャさん……メレントにいるのかな?」

「どういう意味っすか?」


今日の新聞のことを思い出す。

一面記事の見出しはこうだった。『メレントとの二国間協議に合意』


――ペイダル国王は今朝、メレントとの二国間協議に合意したことを明かした。合意したのは、英雄マキレスが魔王を屠ってから人類がずっと頭を悩ませていたあの闇に対してだ。

「ペイダルには英雄が、メレントには知識がある。両国が手に手を取って協力すれば、長年の問題も解決できるはずだ」とペイダル王は語っている。また第二姫との結婚秒読みと言われている英雄は、先日も王都に近郊に出現した魔物をわずか一振りで瞬殺。英雄にメレントでため込まれていた知識を使い、魔導武器を渡すことができればきっと闇も一振りで屠ってくれることだろう。


「二国間協議!? ふざけるなっす。メレントの国境で武器を向けて脅して、何が合意っすか。合意しなきゃ攻め込むぞっていう脅しじゃないっすか」

「サイリャさんが、なかなか武器を作らないから強硬策に出たね」


あの日、サイリャが城に呼ばれたあの日。

ペイダルはメレントとの国境沿いの町を攻めてきた。

メレントとペイダルの国力、軍事力の差は歴然だ。誰もがそのままペイダルに蹂躙されると思っていた。それが、なぜか少し防戦しただけでペイダル軍は足を止め、それ以来ずっとそこを動かない。メレントの領土に少しだけ侵入したギリギリの場所で、ペイダルの最高戦力がジッと牙を磨いていた。

脅し……まさにそうだ。いつでも攻め込めるんだぞというペイダル側からのメッセージに違いなかった。


「これ他のみんなは知っているんすか?」

「リアちゃんが、レストルさんに報告に行ったから、近いうちに今後どうするか話があるはずだよ」


レストルは、元対魔研究所の所員であり、影のナンバーツーだ。サイリャが城に行ってから、影はレストルの指揮下で動いていた。だからもちろん二国間協議については報告済みだ。

これを聞いて、レストルはどうするだろうか……。


「でも、レネにとっては良い事なんすかね。これでレネにスーパーミラクルな武器を作ることができるかもしれないっす」

「うん。それか、それでレネを思い通りに動かせるようになるのかも」


いつからだろう。素直に考えられなくなったのは。新聞を読みながらペイダルの思惑を考えて、それに対抗するような裏新聞の見出しを考える。

最近リアとしているのは、そんな仕事だった。

だからつい考えてしまう。メレントの知識、技術で作った最高の武器で一体ペイダルは何をしようとしているの? と。


「そうっすね。相手はペイダルだったっす」

「サイリャさんが心配だね」




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