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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第57話 英雄の武器

「えーなんか、ルシアちゃんの意味深じゃん、ばあちゃん。私もそーいうのが良かった」

「人の要望に応えてたら、それは占いじゃないわい」


ルエリアによると、今お婆さんがやってくれたのは瞳占いというもので、瞳を見て、その人の状態を占う一番今が分かる占いだそうだ。それゆえに変わりやすくもあるらしい。

「生まれた月とか時間とか名前とかあれこれ聞かれてやる占いの方はさー、自分の運命とか話されてなんか重いよ」とはルエリアの感想だ。

ちなみにオルビーの占い結果は「花開くとき。でも、柔軟に考えよ」だった。

ルエリアがお婆さんの横を通り抜けて、こっちこっちと手招きをする。私たちもお礼を言って付いて行く。


「ルシアちゃんはー、この洗濯物おねがい。必要なものは外にあるからー。オルビーくんはー、魔導具作れるんだよね? じゃあこっちこっちー。こことは違う建物なんだ。一回また表に出るね」


ルエリアが指さした洗濯物の山を見る。本当に山だ。島でみんなの洗濯物をかき集めた時くらいある。

裏口があったのでそこから外を覗くと、中庭に盥があった。

これで洗ってと言うことだろう。

庭にあった盥に洗濯物を入れ、水を張り、足で踏んでじゃぶじゃぶと洗っていく。

この量をこなすのは大変だ。

必死に洗って、ギューッと絞って、もう一つの盥に入れる。

洋服一枚、二枚、三枚……七枚、八枚、九枚と搾り終えたところで、「わー! ごめーん」とルエリアの声が聞こえた。


「説明してなかったー。これ、洗濯の魔導具なの。ほら、ここに入れてポン!」


ルエリアがスイッチを押すとスイッチ付近にあった魔石がしゅるしゅる光り、中で洗濯物がぐるぐる回る。ルエリアが盥に水を入れ、石鹸を泡立たせる。

その石鹸水を中で洗濯物がぐるぐる回っている魔導具に入れた。ブクブクブクブクと泡が立つ。


「一回止めて、水を抜く。それから、もう一回きれいな水をばっしゃーんだよ」


何度かきれいな水を入れて、まわして、出す作業を繰り返し、最後はなにも入れずに回す。


「これで絞らなくっても大丈夫!」


「サイリャさんの作った魔導具なんだよ」と誇らしげにルエリアが教えてくれた。

それから私とルエリアは、影で働く研究員たちの大量の洗濯物を干し、事務所兼、影のメンバーの寄宿舎のようになっているルエリアの家を掃除する。

昼時になったら、島のぺったんこのパンとは違って、ふわふわのパンに腸詰をはさむ。

ホットドッグというこの料理をルエリアと二人でいくつもいくつも作った。

それを持って近くの工房へ。

「ルシアちゃーん」と呼ばれて後ろを振り向く。

ドンと目の前に出てきたのは、大きな時計。ちょうど振り向いたときに、ポッポーと鳥が飛び出してきた。


「ひぇっ!」

「あっはは。すごいでしょー。ルシアちゃんびっくりすると思ったんだー」


ルエリアの家の近くの工房は、時計の工房らしい。


「なんか昔々ミュンダーの王様にあげたこともあるんだってー。嘘っぽいよねー」


ルエリアがあははと笑いながら奥へ入っていく。

奥へ奥へと入っていき、一つの部屋の前で止まった。

こそこそっと何かを言って、扉が開く。

中には、オルビーが作っていた瘴気測定器の四倍はあろうかというものがあった。


測定器めがけて黒い靄のようなものが集まってくる。

気が付けば私からもわずかに光が出ていた。

魔石からエネルギーが出てきている時みたい。

あぁ、あの靄もきれいにできたらどんなに綺麗だろう。

ピカピカ光って綺麗だろうな。

そんなことを考えていたら、私の周りの靄が少しだけ光った。


「実はオルビーが考えていた魔石にエネルギーを再充填する魔導具っていうのは、私たちも考えたことがある。ほらこっち」


影所属の研究員が測定器の裏手に手招きしながら、オルビーに話していた。

そこに測定器から魔石へとつながる管があった。

集まった靄が管を通って魔石の方へ移動している。


「でもダメだ。魔石の中へ入ってもほんの少し。もともとの魔石エネルギーの五パーセントにも満たない」


あぁ、この黒いのが邪魔して入れないんだ。

綺麗にしてあげなきゃ。

そう思って研究員とオルビーの方に一歩踏み出した時、私たちが入ってきた扉がバンと乱暴に開いた。


「ペイダルがついにやりやがった」


丸い眼鏡の人は入り口付近にいる私たちには目もくれず、中にいる研究員たちに話しかける。


「レストル、それでサイリャさんは」

「サイリャさんは王様に呼ばれて城に行ったよ」

「今後のことは?」

「武力行使に出たら必死で逃げろってさ。研究資料も何を置いても逃げろだと。生きていさえすれば、何度でも影は蘇れる」


大変なことが起こったのだということは分かった。さっきまで気になっていた測定器への興味も忘れ、レストルと呼ばれた人を見ていた。


「ルシアちゃん、声かけれる雰囲気じゃないから、ご飯はここに置いておこう」


ルエリアの言葉にうなずき、テーブルにホットドッグの入った籠を置いて、部屋を出た。

帰り道、ルエリアが話してくれる。


「さすがサイリャさん。本当にペイダルが攻めてきた」

「リアちゃん、どういうこと?」

「んー、サイリャさんは英雄が呼ばれたって聞いたとき、メレントに侵攻してくるんじゃないかって言ってたんだ。ほらだって……あっちに英雄がいたらさ、メレントは逆らえないよ」


ルエリアから聞いた話は、私の知らないことばかりだった。

何年も前からペイダルからは武器を作ってほしいと言われていたこと。それをサイリャがのらりくらりとかわしていたこと。

武器が正しく使われないことを恐れてだったという。


「武器からは、戦いしか生まない。一度生まれてしまったものをなかったことにすることはできない。自分が作らなくても一度でも作ってしまえば、模倣して再現する人がいるかもしれない。それを民に言うこと聞かせるために、戦争するために使おうとする人がいるかもしれないってサイリャさん言ってた」


夕食会でオルビーが武器を作りたいと言った時、一瞬鋭い目でオルビーを見ていたのはそういうことだったんだ。


「でもリアちゃん、武器がなくてどうやって戦うというの?」

「わかんないけどー、英雄って呼ばれるくらい強いんだから、既存の武器でも大丈夫なんじゃない?」

「え? でも、影は本気で闇を倒そうとしているんでしょ? 英雄がもっとすごい武器を持っていたら、もっと闇を倒せる可能性が高くなるかもしれないじゃない」

「ふーん、ルシアちゃんは武器賛成派なんだ。でも闇を倒した後、ペイダルがその武器を持ってメレントに攻め込んでくるかもしれない。闇の中に閉じ込められていたミュンダーを制圧するかもしれない。それは、私たちが望む結果ではないじゃん?」


何言ってるの? それじゃレネに、レネに一人で戦えって言っているようなもんじゃない。

確かにメレントは守られる。ミュンダーにとってもその方が安全だ。

でも……レネは?


「そんな……英雄ばっかり。好きで英雄になったわけじゃないのに」

「ねぇ、ルシアちゃん。ルシアちゃんって、なんで影に入ったの?」


ずっと笑っていたルエリアが、真顔で問いかけてくる。


「なんでって、私も闇を倒す手伝いがしたくて」

「でもルシアちゃん戦えないよね? 魔導具だって作れない。英雄ばっかりっていうけどさ、じゃあルシアちゃんは英雄の為に何ができる? 掃除と洗濯とご飯づくりしかできない私たちに何ができるっていうの」


ルエリアの言葉が胸に刺さる。レネばっかり、レネを戦いに行かせたくない。それが叶わないなら、レネに最高の装備をあげたい。

そんな希望はあっても、私には「レネの為にスーパーミラクルすっごい武器を作ってください」と頭を下げることしかできない。

自分一人では何もできない。レネを一人戦いに向かわせるのは、影のせいじゃない。無力な私も一緒だ。


「ごめん、言い過ぎた。そっか、ルシアちゃん冒険者の島から来たんだった。考えてみたら、英雄の少年とも知り合いだよねー」

「ううん、私も考え足らずだった。ごめん」

「もしかして、好きだった?」

「好き?」


レネのことはもちろん好き。神殿から出て初めてできた友達で、私にいろんな見方を教えてくれた。でも、ルエリアの言う好きは、きっとそういう意味じゃないんだろうな。


「好きっていうか、憧れ、かな。レネは次代の英雄なんて言われ始める前から、物語に出てくる勇者みたいで、私もレネみたいな強い人になりたいってずっとずっと思ってた」

「そっか。何かを変える力があるってすごいよね」

「うん、すごいね」



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