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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第56話 瞳占い

翌日の夜、ルードの家にサイリャが夕飯を食べに来た。

ルードは特別張り切って、昼過ぎからずっと料理を作っている。

昨日はキッチン横の部屋でご飯を食べたが、今日は違う。


「今日は特別。オルビー、テーブルを裏庭に。ルシちゃんはそこの引き出しからクロスを選んで」


オルビーがいつもはキッチンの近くに置いている丸テーブルを裏庭へ出す。

私はルードに指示された引き出しから緑色のテーブルクロスを選んだ。


「いい色だ。デリランにも家にもよく似合う」


ルードが褒めてくれる。レンガが敷き詰められた裏庭には小さな植木鉢がいくつも並べられ、いろんな花が咲いている。

花の都デルヘンは、道だけでなく、家の中も花でいっぱいだ。

その中でも圧倒的に存在感を放っているのが、裏庭に一本植えられたデリランだ。

紫色の花の下に設置した丸テーブルの上に緑色のクロスをかける。

花瓶を持ってきて、庭の花を活ける。

テーブルに置かれた小ぶりのキャンドルに火を灯して回り、揃いの皿とカトラリーを並び終えた。

ルードがキッチンから料理を次々と運んでくる。


「父さん、ただいま」


全員裏庭で夕食の準備をしていたら、サイリャが来た。

オルビーと共に挨拶をして、夕食が始まる。

ルードの料理は美味しい。

けれど、特別に庭にセットした場所で、キャンドルを灯しながら食べる御馳走はいつも以上に美味しくて、すごく楽しかった。

早めの時間から食べ始めたのに、空が暗くなって、料理をすっかり食べ終えても、私たちはまだ外で話していた。


「さて、じゃあそろそろ本題を聞こうかな」


サイリャが飲んでいたワインを置いて、問いかけた。


「どうして影に入ろうと思ったわけ?」

「自分は、レネに最強の武器を作りたいと思っているっす」

「武器だって?」


サイリャがオルビーをにらむ。


「島で歌われている歌があるっす。マキレスが一人で魔王に立ち向かったのを嘆く歌っす。あの時、マキレスと共に戦う仲間がいたのなら、マキレスは生きて戻って来られたかもしれないっす」


オルビーが一呼吸置く。


「自分は、弱いっす。レネと一緒には戦えないっす。ただ足手まといになるだけっす。でも……最強の武器は作れるかもしれないっす。もしもスーパーミラクルすっごい武器があったらマキレスも戻って来れたかもしれないっす」


サイリャが私の方に向き直り、あなたは? と問いかける。


「私は……ただレネの役に立ちたいだけ。ここに闇や魔石、魔王など闇にまつわる情報があると聞いたから。闇討伐のヒントがあると……」

「ふっ、ふっ、ふふ」


私の言葉を遮って、突然サイリャが笑い出した。


「最強の武器? 闇討伐のヒント? 一生懸命考えたんだろうけど、そんなのもう考えたことがあるんだよ。自分たちにしかできないと思ってた? それとも、大人は何もしていないと思ってた?」


黙るしかなかった。

そうだ。ここにいるのは対魔研究所の所長。魔導具作りの権威で、誰よりも闇について知っている人。

私には力はない。戦うこともできない。それでも、体を使って戦うことはできなくても、一緒に闇討伐のヒントを見つけることで、レネと共に戦えると思っていた。


「どうする? 帰ってもいいよ」


まっすぐ私たちを見つめてサイリャが言った。

少し目元がゼルシェに似ている。あぁ、瞳の色が同じなんだ。

ゼルシェに似た瞳を見つめ返していると、ゼルシェの言葉を思い出す。


――まずあんたは仲間の役に立ちなさい。

――あんたは、あんたのできることをするしかないよ。

――それに、あんたたち一人では何も出来なくても、影の一員になれば、闇討伐の役に立てる。


「ここに、居させてください。私は、オルビーみたいに魔導具を作ることもできませんし、戦う力もない。掃除でも洗濯でも、雑用仕事何でもやります。闇を倒したいんです。私に……いえ、レネに力を貸してください」

「自分も! 何でもやるっす。マキレスみたいに一人で行かせたくないんす。お願いします」


二人で頭を下げた。

しばらくして、サイリャがはぁ~と大きなため息をついた。


「あー嫌! 本当に最低。子供がこんな覚悟してさ。もしかしてレネってあなたたちと同じくらいの年だったりする? 本当に少年じゃん。最低ー」

「なぁに、いつの時代も時代を変えたがっているのは若者さ。お前だって、影を作った時若かっただろ」

「でも二十は超えてた」


にこにこと笑いながら、ルードはサイリャをからかう。

その会話で重苦しかった空気がふっと緩んだ。


「さーて、まだまだお腹に空きはあるかい? これから、最後の品を持ってこよう」


ルードが手を叩いて、立ち上がる。

そしてルードが持ってきた大きな焼きリンゴケーキを、みんなでそんなに食べられないーと言いながら、切り分けた。

フォークを刺して口に入れる。

口の中が甘い。

ふふ。

あぁ、美味しいは幸せだ。


翌朝、ルードの家に、女の子がやってくる。


「やっほー! 私、ルエリア。リアって呼んでね! サイリャさんからあなたたちの案内を頼まれてきたよー」


赤い髪を高い位置で二つにくくったルエリアは、私と同じくらいの年だろうか。


「あなたがルシアちゃんね! 何歳? 私はね、十四歳」

「十二、じゃない、もう十三かな?」

「じゃ、私の方がお姉ちゃんだね。わーい、同じくらいの年の女の子が来てくれて嬉しい~」


さぁ行くよ! と玄関に向かったルエリアを追っていく。

ルエリアは通りを歩きながら、「ここは美味しいパン屋」「ここのおじさん怒らせると怖い」と教えてくれる。


「来て来てー。この猫は神出鬼没。会えるとラッキーになれるって噂なんだ」


ルエリアがタタッと猫の方に近づく。猫はくるりと向きを変えて家の隙間にするりと入って逃げてしまった。


「仲良くなるの失敗、失敗」


ルエリアと一緒に歩くこの道沿いはずっと紫のデリランの花が咲き誇り、時折風がその花びらを運んでくる。

クリーム色の壁にオレンジ色の屋根瓦の家が道沿いに並ぶ。どの家も玄関先に大きな植木鉢を置いて木を育てている。二階の出窓には小さな植木鉢が並んでいて、赤や黄色、色とりどりの花が咲く。

子供たちが玄関先でボールを蹴る。

お母さんたちは玄関先に椅子を出して、青や緑、黄色の毛糸をかごに積み、編み物をしながらおしゃべりだ。

きっとあの子たちの服を作っているのだろう。

新聞を読むおじいさんがいる。

窓辺に座って絵本を読む女の子がいる。

笛の音が聞こえてくる。

あぁ、これが光の中の暮らしなんだ。


ミュンダーには外で遊ぶ子供なんていない、外にテーブルを出して編み物なんかしない。

外は暗く、寒いからだ。

新聞も本もない。木は薪に使う貴重なもので、紙などないから。

そして、花がこんなにも綺麗なものだとも知らなかった。

見れば自然と気持ちが盛り上がる。

この景色、ジジ様やアスラに見せてあげたい。もちろんミト……いやお母さんにも。

クリーム色の家々の奥に黄色い壁の家が見えてきた。


「ばぁちゃん、ただいまー!」


先に走って入ってしまったルエリアを追う。

中には、ゼルシェよりも年を取っていそうなお婆さんがいた。


「私のばあちゃん、ばあちゃんは占い師なんだー。ルシアちゃん占い好き? 好きだったら、ばあちゃんに見てもらうといいよ。よっく当たるんだー」


ルエリアの紹介を聞いて、挨拶しようとルエリアの祖母に近づく。「はじめまして」と口を開こうと思ったのに、お婆さんの鋭い視線を受けて動けなくなる。


「あんたは自分を見失っとる。正しく自分を見つめれば、縛りも解けよう」


お婆さんがじっと私の瞳を見つめ、そう言った。


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