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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第三章 花の都

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第55話 新生活

デルヘンに到着してルードの家に行く。


「悪いな。サイリャはあれで対魔研究所の所長やってるから、忙しくてあんまり自分の家にも帰ってないようだから、ここに泊まってくれ」


ゼルシェが紹介状を書いてくれたサイリャという人は、ゼルシェとルードの娘で対魔研究所の所長をやっているという。

私は対魔研究所? と首をかしげる。対魔研究所はコネがあっても入れない。だから対闇組織の「影」に入るのだったのではないだろうか。

首をかしげる私たちにルードが付け加える。


「サイリャは、対魔研究所の所長で、影のリーダーなんだ」


その言葉に私はへぇと思っただけだったが、オルビーは違ったようで「対魔研究所の所長? サイリャ? え? 魔導具界の天才じゃないっすか! なんでゼルシェ婆さん教えてくれなかったんすか――――!」と叫んでいた。


部屋で荷解きをしている間に、ルードはサイリャに会いに行った。

私の荷解きは簡単だ。

島にいる間にゼルシェが仕立ててくれた新しいワンピースや下着、ミュンダーを出る時に着ていたミュンダーではとても豪華なローブ類、そしてオルビーがくれた筆記具と文字表、ゼルシェがくれた裁縫道具だけだ。

一方オルビーは大量だ。

一体何が入っているのかと思うほどに。

だから自分の部屋の荷ほどきが終わった私は、オルビーの荷ほどきを手伝うことになった。


「この箱は……」

「あー! ダメっす! その箱ダメっす!」


オルビーが手をかけた箱のふたを押さえる。

見られたくない物でも入っているのかなと思い、別の箱に手をかけるも「それもダメっす~!」というので、結局オルビーが箱から出してその辺に散らかした本を、空になった箱を横向きにした棚もどきに収めるだけにした。


「ルシアちゃん、女神っす。めっちゃ綺麗になってるっす!」


オルビーは箱から魔石をゴロゴロ出しながら言った。

その箱……魔石しか入ってないみたいだけど、出す必要あるのかな?

部屋の隅に箱を置き、オルビーが出した魔石を再び箱に詰める。

魔石を箱に入れただけで結構疲れた。

これより大きな箱いっぱいの魔石をレネは軽々持っていたなと思って、箱を持ち上げてみる。

少しだけ浮いたが、それだけでもう無理だった。

魔石……重いなぁ。

やっぱりレネ、腕の力があるんじゃないかな?

私が非力なのは認めるけれど、レネが運んだあの箱はこれの何倍もあった。

レネから立ち上るあの闇が力と関係しているなら、行きつく先は……。


「ルシアちゃーん、助けてっす」


後ろから声がして、振り返ったら、何かの道具のようなものが部屋中に並べられ足の踏み場がない。

その真ん中で身動き取れなくなっているオルビーが、困った顔で助けを求めていた。

オルビー片付け苦手過ぎる。


「これは何?」

「これは、学生時代に作ったどこでもコンロっす」

「どこでもコンロ……」

「砂漠や荒野で火元になる枝を見つけられなくても、これがあればすぐ火を付けられるんす」


砂漠や荒野に行く予定はない。

箱の奥にしまい込んだ。


「オルビー、これは?」

「それはあったかマントっす」

「あったかマント……」

「雪山を旅する時に使うんす。これを羽織ればほら温かい!」


オルビーが私に羽織らせ前の部分にブローチのようについた魔石のスイッチを押す。

魔石からマント全体へ光が染み渡る。

その瞬間、ポカポカ暖かくなった。

わぁすごい! これ、ミュンダーでも使えるなぁ~なんて思っていたら、すぐにオルビーがスイッチを押して消した。


「ただ、この魔石一つで五分しか持たないっす」


ふわっと光っていた光は消え、ただのマントになった。

私はそれを丁寧にたたんでどこでもコンロ同様に箱の奥にしまい込む。

その後も部屋中の床に置かれたオルビーの自作の魔導具やそれを作るための道具などを何に使う物なのかを聞いて、オルビーが冒険する時用の魔導具は箱の奥にしまい、その箱の上に魔導具を作るための道具を並べた。

全部片付いたと思ったら、オルビーがまだ一つ道具を手に持っていた。


「それは? 冒険に使う用? 魔導具作りのためのもの?」

「……どっちもっす。もしサイリャさんに会えたら、見てもらいたい。どこが間違っているのかわかるかもしれないっす」


ぐっと力を込めて握っている様子から、大事なものだと思い、一番手に取りやすく、目に入りやすい出窓に置くことにした。

出窓に置いたのはこれだけ。

これならオルビーも探し出せるだろう。


「それはどんな魔導具なの?」

「これは瘴気を測る魔導具っす。なんとサイリャさん考案の最新式っす」


オルビーは霧の海の瘴気の濃度を測り、おそらく濃いであろうその瘴気を空になった魔石に移すことができないかと考えたらしい。

その第一段階として、最近発表されたばかりの測定器を作ったそうだ。

すごい、オルビー。


「どうやって使うの?」

「失敗作なんすけどね」


そう言ってオルビーが測定器を起動させる。

さっき羽織らせてくれたあったかマントと同様に、魔導具に使われている魔石から光がしゅるしゅると出てくる。きれいだ。

そこから、光は測定器の上部に集まる。

上部は、すり鉢のように外側に向かって開いており、その内側全体がキラキラ光っていた。

すり鉢の内部が光り初めて間もなく、すり鉢の周囲がうっすらと灰色の煙に包まれていることに気が付いた。

煙はすり鉢の底に当たる部分に吸い込まれていく。

それの伴い、下部のメモリが少し上がる。

この煙が瘴気なんだ。


「こんな感じっす。今ここの瘴気はこれくらいっす。思ってたよりちょっと多いっすね……。やっぱどこか間違ってるんす。あー! どこを間違えたんだろ」


オルビーは頭をかいて、熟考モードに入った。

邪魔しては悪いとオルビーの部屋を出る。

物を移動させたり、魔導具の話をしていて気が付かなかったけれど、いつの間にかルードが帰ってきていた。


「私も何か手伝います」


調理場にいるルードに声をかけると、じゃがいもの皮むきを頼まれた。

手近にあった包丁を手に取る。

ミュンダーにいた頃は包丁を握ったこともなかった。

初めて握った日、カッシーさんに人殺しの持ち方だって笑われたっけ。

島ではゼルシェに「まずはみんなの役に立て」と言われて、裁縫や料理、掃除に洗濯、一通り教えてもらった。

じゃがいもの皮むきは難しくてまだ一度しかやったことがない。

一度やった時は「あんたにはまだ早かったようだね。これじゃ食べるところが無くなっちまうよ」と言われた。

それから、皮むきはやったことがないが大丈夫だろうか。

気合を入れて、じゃがいもに手を伸ばす。


「ちょっと待った!」


ルードが待ったをかける。


「一応確認だけど、皮をむくんだよね」

「はい」

「むいたことある?」

「一度だけ」


それを聞いたルードが、私から包丁をそっと取り上げた。

だいぶいろんなことができるようになってきたと思ったけれど、どこかダメなところがあっただろうかとそっと息を吐く。


「初心者か。ちょっと待っていて、いい道具があんだ」


そう言って引き出しの中をガサゴソ漁っていたルードが「あった、あった」と私に道具を見せる。


「よく見てろよ。ここの刃がある部分を芋にあてる。それからシュッだ」


説明しながら、じゃがいもに道具を当て滑らせるとじゃがいもの皮がひらりとむけた。

なにそれ! すごい!


ルードから道具を手渡され、じゃがいもにあてる。ルードのようにシュッと滑らせてみたが、力が強すぎたのかシュッというよりガッガガガとガタガタしながら皮がむけた。

ガタガタだ。

でも、できた。

顔をあげると、ルードもよくやったと親指を立てている。


それからルードに頼まれたじゃがいもを四つ、必死でむく。

たった四つなのに、かなり大変だ。

よく見て、集中して、手を動かす。

最後の四つ目に手を伸ばした時、不意に視界の端にぼんやりとした光が見えた気がした。

きょろきょろと見渡すと消えてしまったから、見間違いかもしれない。

結局集中が切れた後にむいたじゃがいもは最初の一つ目と同じくらいガタガタだった。


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