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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第52話 【閑話】分かれ道

「オルビー、大丈夫か? 目の下が真っ黒でやべぇぞ」

「ダッチ? いつ帰って来たんすか?」

「今朝だ。ウォールディンさんもバルジスさんもオルビーの出迎えがなかったから、心配してた」


窓の外を見たら明るくなっていた。

しまった。また夜通し研究してしまった。

最近はレネも討伐に行って、久しぶりの一人部屋でどれだけ夜遅くまで研究していても文句を言う人は誰もいない。

早く最強の武器を作らなければと焦る気持ちと並行するように研究時間も増えていた。


「ウォールディンさんに挨拶してくるっす。今回も島は問題なしっす」

「いい、いい。とにかく寝ろ。島が大丈夫なのは見てわかるから! オルビー、どうしたんだ、最近。なんか変だぞ」

「ダッチ……。自分は、マキレスと一緒に戦う仲間にはなれないってわかったんす。だから代わりに、マキレスの最強の武器を作るんす」


ずっと自分の夢しか見てこなかった。勇者になることだけしか考えてなかった。なれないとわかっていながら、それしか考えていなかった。

自分にできることなんて、何の価値もないものだと思っていた。


でも、自分が作った道具を勇者が使う。そしてそれで敵をなぎ倒したり、身を守ったりして、生きて戻ってこられたとしたらそれはすごい役に立ったってことっす。


レネは、島に出現したマルグレホを一発で仕留めた。

その後、ウォールディンから課されたテストにも合格して、今は冒険者として魔物を狩っている。

どんどんどんどん強くなって、大陸中の人々がレネに注目していると言っても過言ではない。

時間がない。

このままでは、最強の武器も最強の防具も何一つレネに持たせることができない。


正直言えば、武器となるアイデアはある。

ゼルシェ婆さんが使っている木の実銃を改良して、着弾した先で爆発をおこしたり、凍らせたりできるような武器でもいいし、レネがそのまま使っているバルジスの斧をダイアモンドさえも砕けるくらい固くしてもいい。

けれど、どれも問題はそれをまかなうエネルギーだ。


魔物には魔石と呼ばれるエネルギー源が蓄えられている臓器がある。

死後、石のように固くなったものが取れるので魔石と呼ばれているのだが、これに内包されているエネルギーを使って道具を動かすのが魔導具だ。

魔石に含まれているエネルギーは大きく、島で使っている海水を真水に変える装置もそのエネルギーを利用している。

だから、そんな魔石エネルギーを利用して武器を作れば、それはとても強力な武器になる。


「問題は、魔石が空になった後なんすよね~」


「マキレスの最強武器ってどんなの?」と聞いてきたダッチに武器の全容を話し、問題点を愚痴る。

すごいなと感心しながら、武器の構想を聞いていたダッチが納得の顔をした。

今大注目の冒険者レネの武器はマキレスの大きく重い斧、ウォールディンやバルジスも大剣で、冒険者の誰も魔導具を使っていない。

それは、ひとえに魔導具は燃費が悪いのと魔石が高価だからだ。

ゼルシェ婆さんの木の実銃は、木の実が速く飛ぶだけで爆発なんかはしない。

中にゴムも内蔵されており、かなり省エネルギーを実現している。

それでもレネの訓練で惜しみなく使ったことで、ゼルシェ婆さんは数日に一回魔石を交換していた。

魔石は空になったら、もう終わりだ。

ただの石になり果てる。

最強の武器というのは、往々にしてとてつもないエネルギーを必要とする。

だからきっと使用したら最後、魔石内のエネルギーは空っぽになってしまうだろう。

そうなれば、その武器を武器として使うには大量の魔石を持ち歩かなきゃいけないってことだ。

魔石は重い。そんな物を担ぎながら戦闘? 最強どころか邪魔でしかない。


それにしてもあの木の実銃はすごいっす。

魔石をあんなおもちゃのような銃に使うことも、あれだけ使用エネルギーを節約できていることも。誰が作ったんだろう。

いずれにせよとんでもなく高価で自分には全く手の出ない代物だっていうのは間違いないっす。


そんなことを話しながら、ダッチが枕を渡してくる。

ずっと同じ体勢でいたから、確かに体がバキバキだ。

座っていた体勢から、横になり、尚も魔石のエネルギーについてダッチに話す。

凝り固まった体が伸ばされ、気持ちがいい。

あぁ気持ちいいなと思ったが最後、瞼がゆっくり下がっていった。


「オルビー! オルビー!」


ぐっすり眠ってしまったようで、ダッチに揺さぶられながら起きた。


「ダッチ、おはようっす~」

「もう夜だよ! それより大変だ。シャキッとしろ」

「うあぁ、もう起きてるっす、起きったっす。揺さぶるの止めてほしいっす~」


ダッチが肩を掴んで揺さぶるのを止めた。


「レネが、王都に行く」


もう起きたと言ったのに、自分の頭はまだ活動していなかったようで、「観光っすか?」と寝ぼけた返事をしてしまう。

「そんなわけないだろ、馬鹿オルビー」と言われて、ようやく頭が起きてきた。


「え! もうっすか!?」

「そうだ、だからもう時間がない。早くその最強の武器作れよ!」

「自分だってそうしたいっす!」


でも、どうすればいい? ダッチに語った最強の武器の問題点は、昨日今日に気が付いた問題じゃない。

レネにマキレスをサポートする技術者になりたいと宣言してから、わりとすぐに気が付いた。

何か方法はないかとあれこれ思案してみたけれど、今のところ使えそうな案はない。

それがまさにオルビーが度々研究のために夜を越し寝不足になっている原因だった。


翌日、もう少しゆっくりしてから旅立てばいいのにレネは早速王都に向けて旅立った。

レネが王都へ行っている間も魔物は出る。

だからレネが王都に行くときにウォールディンやバルジスは一緒にはいかない。

案内役として何人かの陸の冒険者が同行するだけだ。

だからレネが王都から帰ってきて、ようやく本格的に闇討伐が動き始める。

それまでに、なんとか最強の武器を形にしなければならない。


部屋にこもっていても良いアイデアなんか浮かばない。

島をぐるぐる歩いていると、ルシアがずっと遠くの姿が見えなくなっている船のむこうを見続けていた。

理由があるとはいえ、恋人が去ったのだ。

悲しく、寂しいに違いない。

レネは仲間だと言っていたらしいが、ただの仲間が二人で闇の国から出てくるなんてことあるわけがない。

特別な間柄であることはわかりきったことだった。


「すぐ帰ってくるっす」


ずっと海を見続けているルシアが居た堪れなくなって、声をかけた。

そうねと何の感情ものっていない声が帰ってくる。


「あのね」「あのさ」


しばらくの沈黙の後、どちらからともなく声をかけた。

ルシアは闇や魔物、魔石についてもっと知るにはどうしたら良いかと聞いた。

自分は、マキレスが使うようなすっごい武器を作る予定だから心配するなと言いかけた。


「それならデルヘンに行きな」

「ゼルシェさん?」


後ろからゼルシェ婆さんに声をかけられた。

きっといつまでも海を見ているルシアを心配して見ていたのだろう。気づかなかった。


「デルヘンは学問の都。対魔研究所なんてものもあるくらいさ。闇や魔物など魔に関することならここが大陸一さね」

「もしかして研究所に入る伝手があるんすか!?」

「そんなわけないだろう。あそこは、大陸中の名だたる学校から人が集まっている研究所だ。伝手があってもそれだけじゃ入れないよ」


デルヘンの対魔研究所というのは有名だ。あそこに入れるなんて夢みたいだと目を輝かせた途端、夢が消える。なんだ。やっぱり研究所には入れないんすか。

じゃあなんで、デルヘンなんかに……。


「目的は対魔研究所じゃない。あそこは影の本拠地がある。どうしてもレネの役に立ちたいってんなら、そっちに入んな」

「影?」

「本気で闇を討伐するために活動している集団さ。そこになら入れてあげられるだろうよ。もちろん魔物や魔導具なんかの知識も多い。研究所と遜色ないレベルさ。それに、あんたたち一人では何も出来なくても、影の一員になれば、闇討伐の役に立てる」


ゼルシェ婆さんの話を聞いて、すぐにデルヘン行きを決めた。影については知らなかったが、デルヘンの対魔研究所は魔導具作りをする人にとっては聖地。

影が研究所と同等の情報があるなら願ったりかなったりだ。

でも……ルシアは魔導具作りの経験も戦う力もない。

だから正直言ったらデルヘンに行ったって、意味はないと思う。

けれど、恋人の為に何かしたい気持ちっていうのはわかるし、ここを離れた方が寂しさもまぎれると思う。

どうするのかなとちらりとルシアを見る。


「ゼルシェさん、お願いします。私、デルヘンに行きたいです」


ルシアがためらいなく言った。

あれ? なんかすごく力が入っているような気がする。


待って、ルシアちゃんは女の子なんだから!

そんなに頑張らなくていい、レネの無事を祈っているだけでいいんすよ。


そんなことを考えていたら、返事をし忘れた。


「オルビーはどうするんだい?」

「え? 行くっす。自分もデルヘン行きたいっす! おねがいしますっす!」

「わかった。手紙を持たすから、明後日の定期商船に乗ってデルヘンに行きな。準備をしっかりすんだよ」


ありがとうございます! と駆けだしそうなルシアをゼルシェ婆さんが引き止める。


「待ちな! あんたはまず、その隈どうにかしな。オルビーもだよ!」


ゼルシェ婆さんの言葉を聞いて、二人で目を合わせる。自分と同じように目の下を黒く染めたルシアを見てふっと笑みが漏れた。


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