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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第50話 間違い

海に出ると、前回乗った時が嘘のように魔物と遭遇した。

ダッチによれば、前回は比較的少なかったが、今回は多すぎとのこと。


船の上では、ウォールディンの指示で冒険者たちと手合わせだ。

フォームが悪いとか、隙だらけだとか、おっさんたちがあーだこーだと口を挟んでくるのが、とても勉強になる。

今までしていたゼルシェ婆さんの特訓は基礎だった。

走って、重いもの担いで、斧を振って……そのどれもがスピード、スタミナ、パワーをつけるためのもの。

きっついけど、頭空っぽにしてただただ反復していればよかった。

今は考えねーと、すぐに負ける。

単純作業が好きな俺にはちょっと難しいけど、今までになく「強くなるための訓練」って感じでテンションが上がる。

それにさ、難しかろうが簡単だろうが、新しいことを始めるのってそれだけでワクワクするじゃんね。


陸の冒険者が乗っている行きと帰りは、人が多いので流石に手合わせなんてやらない。

その代わりバルジスが筋肉トレーニングをしている横で、一緒に同じことをやってみる。

闇の力のおかげで、熊男バルジスのトレーニングにもついていけた。

おかげで、陸海の冒険者たちから化け物呼ばわれされ始めている。

あながち間違っていないかもしれない。


ギルドに登録して、冒険者になれば魔物を狩った際に金がもらえるというので、登録した。

今まで完全に好意で島にお世話になっていたから、お金を手に入れる手段を手に入れたのはよかった。

今の俺は冒険家レネじゃなくて、冒険者のレネだ。


海に出て、魔物を倒すようになって、俺はびっくりするくらいのスピードで強くなっていき、俺の名も売れていった。

大陸側の国から見たら、国の端の魔の海にいる冒険者の一人なんて、知りもしないものだと思うが、魔物の脅威におびえる陸地の人々にとってここは最前線。

つまりここで戦い続けることは、それだけで粒よりの冒険者とみられる。

そんな魔の海で、魔物を狩って狩って狩りまくり、名を挙げた俺。

闇の中から出てきた少年ということもあって、最近は過度に特別視されている。


時折会いに来るようになったギルドのお偉いさんが見せてくれる新聞というもんには、俺がいつか闇を倒すんじゃないかと書かれているほどだ。

「日に日にお前さんを求める声が大きくなってる」とお偉いさんも言っていた。城に呼ばれることもあるかもしれんぞと。


「まさか! まだ俺海に出たばっかだよ」


そんな風に答えていたけれど、魔物を狩り始めて半年ほどたったころついにその日がやってきた。

いつもの通りに海で魔物を狩り、陸の冒険者たちを迎えに行く。


「遅くなったな!」


ウォールディンの声かけに、いつもなら「おせぇーぞ」と声が上がるはずだが、今日はない。

どうしたんだと船の上もざわざわし始めた頃、一人の見慣れない男が声を張り上げた。


「冒険者レネ! いるか?」


え? 俺? 

面識もない人から呼びかけられて、レネという名前の人が俺しかいないのは分かっていても周りを見渡す。

周りの冒険者たちも目を丸くしながら、「お前だろ」という風にうなずくので、何が何やらわからないまま船を降りた。


「レネ、闇から出てきたレネで間違いないだろうか」

「あ、はい」


皆から少し離れたところで、王様からの書状だと言って男の人が手紙を渡す。

長ったらしく書いてあったが、つまりは城に一度来てほしいということだった。

前回海に出た時、ギジェが怪我をした。島で治療中だが、多分冒険者に復帰はできない。

最近の魔物狩りは遭遇する魔物の数も多い上に、強い魔物ばかりになっていった。

そろそろ冒険者たちからも離れた方がいいのかもしれない。


「返事はいかがでしょう?」


海沿いの町とは違って、内陸には魔物がいないという。

近くに魔物がいない場所に行った方が、俺の周りの人も安全なのかもしれない。


「わかった。一度島に戻ってすぐ行くよ」

「ではそれで」


陸の冒険者からも海の冒険者からも手紙の内容は見えていない。

皆船に乗り込み、静まり返って俺を見ている。

男が帰り、俺も船に戻る。

ウォールディンがちょっと来い! と俺を船長室へと連れていく。

手紙の内容が城への招待状だと知ったウォールディンが声を荒げた。


「おい、レネ本気か?」

「うん、行ってくる。城見てみたいし!」

「わかってんのか! 十中八九闇の討伐を任せたいための呼び出しだ。俺たちは冒険者だ。別に国に仕えているわけじゃない。断っていいんだ!」


ウォールディンが目を剝いて説教してくる。

多分ウォールディンは俺が、呼び出しの意味が分かっていないと思ったんだろう。

でも、俺だってそれくらいわかっている。

わかっていて、行くんだ。

俺は陸海の冒険者たちや島のおっさんたち、オルビーやゼルシェ婆さん、そしてルシアを大事に思っているから。

もう行かなきゃいけない時期なんだ。


「わかってる。でも俺の故郷のことだし」


そう答えたら、ウォールディンは何も言わなくなった。

夕食時、ウォールディンから俺の王都行きが発表され、大騒ぎになった。

ウォールディンと同じように、「意味わかってんのかてめぇ」と掴みかかってくるおっさんもいる。

ダン! とバルジスが、飲んでいた酒を机に打ち付けた。


「一人では行かせねぇぞ」


一瞬静まり返り、その後皆が雄たけびを上げた。


「お、俺だって行くぞ!」

「ま、まかせとけ! こちとらお前よりずいぶん長く魔物と戦ってんだ」

「そ、そうだ! やってやろうぜ!」


口々に一緒に行くと言い、「飲むぞ!」「飲むぞ!」と酒を注ぎあう。

魔物狩りを生業とし、一年のほとんどを島から出て魔物を狩っている冒険者たちも少し怖いらしい。

俺も海に出て初めて知ったが、ミュンダーに近づけば近づくほど強い魔物がうじゃうじゃいて近付くこともままならない。それに最近は魔物がぐんと強くなっている。

本当に俺らが闇を出たあの日はラッキーだったのだ。


夕食が終わり、各々部屋に戻っていく。

俺はゼルシェ婆さんに呼ばれて、一人居残りだ。


「レネ、あの子はどうすんだい」


あの子というのは、もちろんルシアだ。

普通だったら、ルシアの意思に任せたらいいと思う。

この冒険にだって、ルシアが連れて行ってと言ったから一緒に旅をし始めた。

だから、ルシア次第だというのがいつもの俺。

けれど、今回はそんなこと言えるはずがなかった。

闇との戦いは、きっと厳しい。

戦う術のないルシアには危険すぎる。

それに王様に会うのだって、何かのきっかけでルシアが聖女、または何か特別な存在だということがバレたら?

俺は何のために戦いに行っているのかわからない。

だから……。


「一緒には行かないよ」

「あの子には話したのかい?」


島に来てから俺は訓練ばかりに忙しくて、海に出られるようになってからは魔物狩りに忙しくて、最近ルシアと話していなかった。

俺は首を横に振る。


「はぁ」


婆さんがため息をつく。


「行く前にちゃんと話をしとくんだね」


わかったと言って、婆さんと別れる。

別れ際、婆さんが呼び止めた。


「風邪ひくんじゃないよ」


婆さんなりの励ましだとわかって胸が温かくなる。

そうか。俺、ここに戻ってくることもないのかもしれないんだよな。


「わかってるって。婆さんも……くたばんなよ」


今度こそ婆さんと別れて、ルシアに会いに行く。

なんて言われるだろうか。

ルシアは俺が強いことにまだ半信半疑だから、行かないでって言われるかな。

闇が無くなることを期待しているかな。

それよりなんて説明したものか。

ストレートに俺が闇ぶっ潰してくるはどうだ? ダメか?

いやなんで、ダメなんだよ。

いいじゃん。「ありがとう! レネ!」って喜んで終わりだろ。

闇が無くなったらルシアは本当に自由になるんだから、きっとその時を待ちわびているはずだ。

良かった。うん。だから良かったでいいんだよな?


なんだかよくわからなくなりながら、ルシアに会う前に島をぶらぶら散歩していたら、ちょうどルシアが俺の舟の前でたたずんでいた。


「なんか、懐かしいな」


なんて話そうかと悩んでいたくせに、自然と声をかけていた。

俺の声に振り向くルシア。


「そうだね。この舟に乗ったのがなんだかずいぶん昔のことみたい」


ぽつりとルシアがつぶやいて、再び沈黙が流れる。

なんか気まずい。

こんな時、何話したらいいんだ? わっかんねー。

そうだ、俺は闇をぶっ潰すって言いに来たんだ。

それ言えばいいじゃんか。


「あのさ! 俺、闇ぶっ潰してくる」「私も連れて行って!」


声が被った。

は? 連れて行ってって言った?

なんで? ルシア戦えないじゃん。魔物にやられて死んじまうだろ。

っていうか、闇に近づいたら今度こそルシアは闇にのみ込まれちまうんじゃないか? 

ダメじゃん! そんなことにならない為に俺は行くんだ。

だから、ダメに決まっている。


「連れて行ってって何!? 危険なんだぞ!」


無意識にルシアの肩を掴んで、問いただした。


「わかってる! でも、私だって何か……」

「ダメだ! ルシアはここで待っていればいい」


ルシアの言葉を遮って、決めつけた。

ルシアの肩を掴んでいる俺の手をルシアが肩から外す。


「待っているだけじゃつまんないって言ったのレネじゃない!」


その言葉にがーんと頭を殴られた。

まだミュンダーにいた時、バルケルの姫物語を聞いて確かにそんなことを話した。

だってあの時の俺は、死ぬ気で頑張れば誰だって強くなれるって思っていたんだ。

だから、通りかかった王子に助けてもらうまで自分から動き出さない女の子の意味が分かんなかった。

でも今は分かるんだよ。

女の子のルシアはとんでもなく弱かった。

バルジスの斧を持つだけでもつぶれそうな位に弱かった。

そんな子が勇者になんてなれるはずがない。


「あれは……ごめん。俺の間違いだった。だからルシアはここで待っていてほしい」


ルシアがこぶしを握り締めるのが見えた。

小さい手。いつの間にか背も随分離れ、今俺はルシアを見下ろしている。

ますます小さい、弱い、守らなきゃいけない存在に思えてくる。

もう俺はルシアに「いいじゃん勇者めざそうぜ!」とは言えなかった。


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