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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第45話 オルビーという男

ついに昨日土地を全て耕し終えた。

一ミリも強くなってはいないが、なかなか達成感がある。

そして、今日は一日休みだ。

今日は商船が来るらしく、婆さんが忙しいからだ。

元気だったら荷運びを手伝えと言われている。


皆で朝食を食べ、部屋に戻った。

部屋はオルビーとダッチの部屋に居候だ。

といっても、ダッチはウォールディンたちと船に乗って魔物狩りに行ったから、今はオルビーと二人。

それに俺は島に到着した日は酔いつぶれ、翌日は草むしりしながら寝てしまったから、この部屋をちゃんと使って寝たのはまだ三日ほどしかない。

改めて部屋を見る。俺の物は服が一式あるだけ。舟は外に置いてあるし、舟以外に積んでいたものは転覆したときに海の底へ沈んでしまった。

まぁ入っていたのは食料だし、そのあとすぐにウォールディンたちに助けてもらったから大丈夫だったが。


次に物が少ないのはダッチだ。

服やら武器やら、他には何が入っているか知らないが、箱二つに全ての持ち物が収まっている。

そして、一番多いのがオルビーだ。

まず、棚がある。そこに、本とオルビーがいろいろと書き殴っている紙がぎゅうぎゅうに押し込められている。

紙の隙間には、とりあえず突っ込んだのか何かの道具もはさまっている。

床には箱も三箱置かれ、その一番上の箱からは、服がだらしなくはみ出ている。

ちなみにそのはみ出ている服は、最初床に置いてあった。

俺が一緒に暮らすことになったので、俺の寝床を作るため床にあるすべての物をつっこんだ箱がその三箱だ。

島に来てから、ようやく何もすることのないゆっくりした時間だ。


「レネは強かったんすね」


部屋で何かを書いているオルビーが言った。


「俺? 俺はまだ強くないよ」

「いや強いっすよ。あの畑耕したのレネって聞いたっす。自分はあんな量耕すのは無理っすから。いいなぁ~。レネも、強くなれる人か~」


いいな~と言うから、「一緒に訓練しようぜ」と誘う。

俺もまだゼルシェ婆さんの訓練を受けていないが、強くなりたいなら一緒にやればいいと思う。

そんなことを言ったが、オルビーは首を横に振った。


「誘ってくれてありがとうっす。だけど、自分には無理ってわかってるっす」

「そうか?」


勇者も冒険家も絶対にあきらめない。諦めないから、彼らの道が開けるんだ。

だからさ、やりもせずそんなこと言うなよ。

やる前から諦めていたら何にもできないんだよ。諦めんなよ。

そう言いたかったけれど、どうしても口に出してはダメなような気がして曖昧に返事をした。


「それ、何書いてんの?」

「ルシアちゃんにあげる文字表っす」

「文字表?」


気まずい雰囲気を何とかしたくて、オルビーが書いているものに話題をそらしたら、意外な言葉が返ってきた。

オルビーがいつも何か書いているのを見て、ルシアが文字を教えてほしいと頼んだそうだ。


「あぁ、ミュンダーじゃ文字読める人なんて一握りしかいないしなー。俺もこんな量の紙見たことない」

「紙……ないんすか。え? じゃあ本も?」


本やその他の紙は闇に包まれてすぐに燃やされてしまった。

その原料である木だって、紙をたくさん作れば薪が足りなくなっちまう。

闇に包まれたミュンダーで一番大切なことは、明かりを灯すことだから。


「自分の本読んでいいっすよ」


本が好きらしいオルビーには、本がない生活が考えられないのだろう。

オルビーが気に入っているという本を渡してくる。

ペラペラとめくると小さな文字がびっちりだ。


「読めん」

「自分は、本を読んで勇者みたいな人になりたいと思ったっす」


オルビーと俺の声が被った。

あ、わかる。俺も最終的に目指したのは冒険家だったけど、長老が語る勇者の話を聞いて、憧れたもんな。

ジェーダだってそうだ。

ミュンダーには勇者たちが戦ったような怪物はいなくて、それでもあの気持ちの高鳴りを忘れたくなくて、それであいつはずっと勇者や冒険家の歌を歌っている。


「読めるようになったら、きっとレネも好きになるっす。だから、レネの分も文字表作っておくっす!」

「ありがとう」


商船が来たぞー! という声が外からすると、オルビーが目を輝かせて外に飛び出した。

俺も荷運び手伝えと言われているから、オルビーと一緒に外に出る。

商船の周りには、島中の人が集まってきていた。


「ゼルシェ! 元気か!」


商船から恰幅の良い爺さんが出てくる。

どうやらゼルシェ婆さんの知り合いのようだ。

その後ろから若い男たちが何箱も何箱も荷物を運び出した。


ゼルシェ婆さんの知り合いの次に偉そうな細身の男が、箱の中身を読み上げる。

なんか、仕事が出来る男って感じだ。

武器や防具、農具に香辛料、小麦や酒、石鹸に布や糸……ありとあらゆる生活に必要なものが読み上げられ、それが本当に入っているかどうか商船の男と島の男が二人で確認していく。

途中から個人的に注文したものになったようで、これは誰々用のと仕訳をしながらの確認作業になった。


「オルビー! お前の分は、自分で確認しろ!」


品物の確認をしていたおっさんからオルビーに声がかかる。

まだ箱は三箱残っている。

え? あの残り全部オルビーの?

皆、個人用は片手で持てるほどの量だったんだが。

部屋が汚いのってこれのせいじゃねぇ?


オルビーは「待ってたっす!」と喜び勇んで箱に近づく。


オルビーの頼んだ商品は、品物の名前を読み上げるだけではなく、わざわざ出来る男が解説までしている。


「これは、この部分が取り換え可能になっている。今つけているパーツで固い物を削り、最後はこっちの部品に付け替えて、ここに研磨剤を含ませて、起動させるとさらに滑らかになる」

「あ~最新の道具最高っす! ちょっとこれで試してみていいっすか? わー最高」


オルビーが何やらボタンを押すと、オルビーの持っている道具の先が高速回転し始めた。

なんだ、あれ!?

しかも、オルビーがポケットから出した鉄の板みたいなのにあてるとピッカピカになっていく。

なにあれ、すげぇ! かっこいい!


「こっちのミキサーは、本当に小型版じゃなくてよかったのか?」

「いいっす。料理に使いたいわけじゃなくて石も砕けるパワーが欲しかったんす」

「それならこれで大正解だ。これくらいの大きさの石なら簡単に砕ける。刃こぼれしたら言ってくれ、刃の部分だけ交換できるようになっている」

「それ、最高っす!」


それからも、出来る男とオルビーは何やら楽しそうに、よくわからない商品について話し、大量の紙と本も確認して、がっちりと握手を交わした。

なんかオルビーの注文したものだけ変なもんばっかりだな。


「レネ!」


ゼルシェ婆さんから声がかかる。

こっちはこっちで、ゼルシェ婆さんと知り合いのおじいさんが黒い石について確認していたようだ。この石はなんだろう?


「こっちは確認が済んだ箱だからね。あの船の前まで持っていっておくれ」

「わかった」


ゼルシェ婆さんに言われた通り箱を持ち上げ、船の前まで持っていく。

商船に乗ってきた奴らは驚いた顔をしていたけれど、オルビーとの確認を終えた出来る男が船の中まで頼むと言ってきたから、船の中まで運んだ。

船から婆さんの所に戻りもう一箱、いやもう一ついけるか?

残りの二箱を一気に持って、走って船へと運ぶ。

船から戻るとみんなが俺のことを見ていた。


「レネ、重くないんすか?」


さっきまで楽しそうに商品を試していたオルビーが、恐る恐ると言う感じで聞いてきた。

重くは……なかった。

ゼルシェ婆さんと一緒に黒い石の確認をしていた爺さんが俺の肩を叩いた。


「大したもんだ。うちの若いのはいつもあの箱を運ぶのは二人がかりさ! 君、見かけによらず、力持ちなんだねぇー。うちに欲しいくらいだよ!」


オルビーも島のおっさんたちもすごい、すごいと言いながら寄ってくる。

ルシアだけが、ちょっと眉をひそめていた。


商船が出港し、俺はゼルシェ婆さんに言われて、商品が入った木箱を三つほど積み上げて倉庫へ運んでいく。

それを何往復かして、部屋に戻る。

部屋はオルビーが買ったへんてこりんなものでいっぱいだった。

ダッチが帰ってくる前に、また箱に入れる作業しないと三人寝るスペースがないな、なんて思う。


「レネは英雄マキレスを知ってるっすか?」

「魔王と戦った最後の勇者だろ?」


マキレスの話は天地創造にもあるから、当然知っている。


「マキレスは、靄があったところに捨てられた子供だったんす」


そんな言葉から始まったオルビーの話は俺の知らない話だった。

捨て子だったマキレスは、生きて行く為に必死だった。

なにせ靄が発生したところは、星が降ってきたときにすべてが吹き飛ばされている。

誰も住んでいない地だった。

そんなところに置き去りにされても食べるものなどない。

木の実を食べた。蛇やウサギを食べた。

時には虫さえも食べた。

そうやって生きているうちに、マキレスは必然的に強くなった。

ある時、マキレスは瘴気で荒れ狂った家畜の群れを一人ですべて倒した。

それからだ。

マキレスが勇者と呼ばれるようになったのは。

有名になったマキレスはある日皇帝に呼ばれる。

魔王討伐の依頼だった。


「マキレスは、強かった。今までの勇者よりも格段に。でも自分は思うんす。あの時マキレスと共に魔王に立ち向かう仲間がいたなら、マキレスは生きて英雄になれたんじゃないかって」


オルビーが「自分だけじゃないっす」と付け加える。

この島で冒険者をやっているウォールディンたち、かつてここで冒険者として魔物を狩っていた島のおっさんたち。

みんながそう思っている、らしい。


「レネは酔っぱらって寝てたっすから知らないだろうけど、宴の最後はみんなでマキレスの歌を歌うのが恒例っす」


オルビーが笑う。


「自分は、レネみたいに力持ちじゃないっす。昔は勇者にあこがれて剣の道場にも通ったけれど、まったく才能がなかったっす。もっとやれば、まだ続けていたら、もしかしたら強くなれたかもしれないっす。けれど、自分が強くなれるようには到底思えなかったっす」


オルビーがまっすぐ俺を見る。


「だから、自分はマキレスのような勇者にはなれないっす。勇者と共に戦う仲間にもなれないっす。けれど、マキレスをサポートする技術者にならなれるかもしれないって思ったす。あの時、マキレスがスーパーミラクル、すっごい武器を持っていたら、生きて戻れたかもしれないっす。自分は……今の自分はそんな道具を作りたいと思ってるっす」


すげぇなオルビーと思うと同時に、オルビーにやる前から諦めんなよと言わなくてよかったと思った。

俺はずっと諦めないことは良い事だと思っていた。

だって、勇者も冒険家も絶対あきらめないから。

それに、諦めずにやれば何事もできるようになると思っていた。

結果的に戦いに敗れることはあるだろう。そりゃあ勝つ人がいれば負ける人がいるから当然だ。

けれど、諦めずに訓練すれば強くはなると思っていたんだ。

強くなることすらできない事があるなんて考えたこともなかった。


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