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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第44話 【閑話】闇から来た子供たち

どうなってんだろうねぇ。


今、目の前に特大サイズの鍬を振り下ろして畑を耕すレネがいる。

あの鍬は、バルジス特製の訓練道具だ。

バルジスは熊みたいにでかい男。筋肉もある。

そんな男が訓練と開墾ができて一石二鳥だと言って作ったのが、今レネが使っている特製の鍬だ。

普通の鍬の二倍はある大きさ、もちろん重さも倍はある。

バルジスとレネの体格は、まるで違う。

身長もバルジスの方が頭一つ分は大きいのではないかと思うし、レネは細腕だ。

特別ひょろひょろというわけではないが、普通だ。

冒険者ではない普通の男の子というところだろうか。

そんな普通の体格のレネと冒険者の中でもひときわ大きいバルジスを比べれば、レネはひ弱に見える。

そんなレネがバルジス特製の鍬を、なんてことないように使っている。

かなりの力が必要なはずだが、あの細腕のどこにそんな力を秘めているのか。


草むしりにも驚いた。

強くなりたいと言ってきたレネに対して、手っ取り早くあきらめさせようと草むしりをさせた。

大抵あのくらいの年の子は、地味できつい草むしりなんてやりたがらないし、あの細腕では強くなるなんて無理だと思ったからだ。

なのに時間のかかる草むしりをレネは二日でやってしまった。

草むしりしている様子を観察してみれば、根が深く引き抜くのが大変な草も地表近くに蔓延っている草も同じようにひょいひょい素手で抜いていく。

その根が深い草は、みんなシャベルで土を掘り起こしながら引き抜いていくんだ。

それを片手ですぽっと抜くなんて。

あんたのその細腕、一体どうなってんだい。


かと思えば、しばらくして疲れたーと地面に寝転ぶ。

腕力がずばぬけているのに対して持久力は普通といったところか。

寝転がっているレネを見て、思わずため息が出る。

この子をどうしたもんかね。


昼時になって、ルシアが昼食を持ってきた。

中は石ころかとおもうほどでかい肉が挟まっている。

パンを温めて、肉を切って、焼いて、中に挟むだけ。

それだけの事なのに、この子は本当に不器用だね。

自然とまたため息が出る。

思い出すのは、この子たちがこの島に来た夜のことだ。

この島に女性は私とルシアだけ。

だから私たちは同じ家で寝起きすることになった。

ルシアが寝る前に思いつめたような顔で「私、強くなりたいんです」と言い出した時は驚いた。


「ルシア、よく聞きな。私たちは女だ。ただがむしゃらに力を付けようとしても、どうしても男には敵わない。何も訓練もしない普通の男には勝てるようになるかもしれない。けれど、そのレベルになるだけでもすごい時間がかかるもんなんだ」

「はい」


強くなりたいと言ったルシアに私はそう言った。

ルシアが少し悔しそうに手を握りしめた。それでもあきらめる様子はない。

そう、私たちは女だ。

かつての勇者たちみたいな力は、手に入らないと思った方がいい。

稀に素質があって男に負けないほど力のある女性だっているが、それだって稀有な才能と男の何倍もの訓練のたまものだ。


「だから私たちが使うのは、この手先とここだ」


自分の頭を指さす。

ルシアがはっとしたように私を見た。


「バルジスは、一発で岩も砕くことができる。私たちはどんなに訓練したってバルジスのようにはなれないだろう。けれど、岩の一か所に正確に鋭い一発をたたき込み続けることができれば、力が劣る私たちでも割ることができるかもしれない」


そう、大切なのは結果だ。

強くなりたいのは、何のためで、その目的を果たせればいい。

まだ私はこの子の信頼を得ていない。

だからなんで強くなりたいかは知らない。

けれど昼に私はウォールディンたちと共に、闇の話をした。

理由は、闇なのかもしれない。

もし闇を意識して強くなりたいと言っているのなら、必要なのは単純なパワーだけではないはずだ。


「ルシア、覚えておきな。力で劣る私たちが何かに勝てるとしたら、勝ちたい相手のことをどれだけ知っているか、その弱点に正確に打ち込めるか、いざという時に逃げられるか。そして、相手がうっとうしいと思う位粘り強く戦いに挑めるか。それにかかっていると私は思う」


真剣な顔で見つめられると困るねぇ。

本当に強くなれると思われちゃ困るし、仕方ないねぇ。


「そしてそれらが全部できるようになっても、私たちは弱い」

「え?」


ルシアの顔から色が抜けていく。そりゃあそうだ。強くなりたいと言っているこの子に、私は強くなんかなれないと言っているんだから。


「例えばバルジスとあんたが戦うとする」


ルシアが再び真剣なまなざしで見つめてくる。

今のままのルシアなら、バルジスは一瞬でルシアを倒せるだろう。ルシアは何をされたのかわからないまま倒れるはずだ。

ルシアが訓練して強くなった場合についても話す。バルジスのことを調べ、弱点を見つけ、その弱点を正確に攻撃する。危なくなったら逃げる。

それで何度も何度もバルジスの弱点を攻撃したとする。


「それでも勝つのはバルジスだよ。どれだけ訓練したって、スタミナもバルジスには叶わない。先にあんたの方がへばってしまう。へばって逃げられなくなったら弱いあんたなんか一瞬だよ。それにバルジスはその弱点を捨てるかもしれない。捨て身で来られたらどんなにまだスタミナが残っていたってあんたに勝ち目はない。だから血のにじむような努力をして強くなっても、バルジスみたいな普段から鍛えている男や強い魔物なんかには太刀打ちできない」

「女の子って嫌ですね。いつも守られてばっかりで、何にもできない。私だって守りたいものがあるのに、助けたい人がいるのに」


ルシアがつぶやく。


「あんたね。嘆く暇なんかないよ」

「え?」


ルシアの気持ちはわかる。私だって女だからね。

冒険者として私がやってこれたのは、弓の腕がずば抜けていたから。

接近戦では全く役に立たなかったが、遠くの魔物に見つかる前に屠ることができ、それを私の仲間は評価してくれていた。

そして魔物に見つかった時は、仲間たちが守ってくれた。


「何と戦いたくて、強くなりたいかは知らないよ。けれど戦いってのは、必ず一人でやらなきゃいけないもんでもないだろう。強くなれないなら、サポートするんだ。共に戦う仲間が最大限力を発揮できるように。もちろんあんたが強くなるための訓練するのは、良い事だ。少しでも自分の身を守れたら、仲間の負担が減るからね。でも、まずあんたは仲間の役に立ちなさい」


それが弱い私たちにもできることだと言ったら、ルシアは素直に頷いた。

翌日、ルシアはまだあたりが暗いうちから起き出した。

家を出ていくルシアを寝ているふりしながら見送る。

完全にルシアが家を出てから、後を付いてみる。

そこで私が見たものは、走り込みをしているルシアだった。

お世辞にも速いとは言えなかった。スタミナもない。

それでも必死に走っていた。

何があの子をこんなに思いつめさせるのかねぇ。


何気ない顔で、帰ってきたルシアに指示を出す。


「これを縫ってみな。一針、一針正確に同じ間隔にだよ。距離を測る訓練だと思えばいい。訓練にもなるし、仲間の役にも立つ。一石二鳥さ」

「わかりました。やってみます」


そう言って、裁縫をやらせてみた。

そして肝が冷えた。


「やめ! 針をそんな風に上向きに持つんじゃない。目に向けない。ついうっかり、グサッと目を刺しちゃいましたなんて報告聞きたくないよ、私は!」


針を持ったのが初めてだったのか、ルシアは危なっかしい持ち方で、どれくらい手先が器用か確認できるレベルですらなかった。


「ゼルシェさんどうでしょうか」


ルシアの言葉で意識が今に引き戻される。

ルシアは横で私が課題として渡した布にまっすぐ縫う練習をしている。

少しはましになったが、相変わらず針を持つ手は危なっかしい。

ハラハラしながら見守っていると、レネも「大丈夫か」という風にこちらを見ているのに気がついた。


「レネ! あんたはそっちに集中しな!」


その言葉でルシアの視線がレネに行く。

軽々と鍬を振り下ろすレネを見て何を思ったのか。

「いいなぁ」とぽつりとつぶやいた。

ルシアの目にはレネが鍛えたら強くなれる人と映っているに違いない。鍛えても強くはなれない自分とは違って。


「あんたは、あんたのできることをするしかないよ」

「はい、ゼルシェさん」


ルシアが再びこちらを向いた。

私の裁縫のアドバイスを聞いてぎこちなく針を刺していく。

その目はとても真剣だ。


軽々と鍬をふるうレネと恐ろしい手つきで針を刺すルシアを見て私は内心ため息をつく。

この二人、一体どうしたもんかねぇ。

闇の話をして、ルシアが強くなりたいと言ってきた。

その翌日、レネも同じようなことを言ってきた。

レネは前日酔っぱらって眠っていたから、二人で相談したわけじゃないだろう。

それなのに揃いも揃って強くなりたいときた。


ウォールディンの船の上では「すげーすげー」というばかりで、こんな真剣に強くなりたいなんて言わなかったそうだから、やっぱりあの闇の話を聞いてこの子たちは何かを決めたんだろう。

頼まれたからには、二人とも面倒見るよ。

けれど、もしこの子たちが強くなりたい理由が私の想像通り闇だったなら……。

嫌だねぇ。

こんなちっさいまだまだ子供みたいな子たちが、何かを背負ってるってのは。

あぁ、久しぶりに困った。

あんたたち、その重荷いつか私たちにも分けてくれるんだろうね。


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