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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第43話 便利屋レネ

ぽたぽたぽた。

水が顔に落ちてくる感触で目が覚めた。


「ん? 雨?」


いつのまにか寝てしまっていたらしい。しまった、夕飯食いに行くところだったのに。

そこまで考えてようやく頭が覚醒して、目を開く。

顔の近くに、ゼルシェ婆さんの顔があった。


「うわぁぁ!」

「うるさい! 人の顔見て叫ぶんじゃないよ!」


どうやらゼルシェ婆さんが、俺の顔に水をかけていたらしい。

そんな心臓に悪い起こし方やめてくれ。


「ほら、レネ。あんたの分の朝ごはんだ。ちゃんと食べないと強くなんかなれないよ!」


婆さんが横にあるバスケットを顎で示す。

中には肉が挟まった平べったいパンがたくさん入っていた。


「婆さん、ありがとう!」


草むしりをした後、そのまま寝てしまった俺は夕飯を食べそこなっている。

ただでさえ労働した後はお腹が減るというのに、一食食べそこなって、今の俺はお腹がペコペコだ。

心の底からゼルシェ婆さんに感謝して、ガツガツ食べる。

食べた後は、また草むしり。

今日も草はシュルシュル抜ける。

けれど、やっぱりこの量が俺をどんどん疲れさせていく。


今日も草を抜いて、抜いて、抜きまくる。

根が浅い草も、深い草も。スポスポと抜いていく。

疲れるし、一刻も早く強くなりたい俺は、時折こんなことしている場合じゃねぇ! と焦る気持ちになるけれど、こういう単純作業自体は嫌いじゃない。


舟を作っていた時と同じだ。

無心に、ただひたすら木を削っていると最初はあれこれいろんなことを考えていたのに、途中から何も考えず掘ることだけに集中している自分に気づく。

そんでもって、心地よい疲労と共に最後はなんかすっきりしてんだ。

直前まで考えていた悩みや不安なんかも、作業前は大きい問題のように思えたのに、いつの間にかなんてことないような気がしてくる。

だから、単純作業は嫌いじゃない。

ただ、やっぱり俺は強くならなきゃなんねーのに何してんだ? とは思うけど。


昼時になったのか、また俺のお腹が空腹を訴え始めた。

疲れていたから、伸びをして、辺りを見渡す。

草をむしり始めた頃はゼルシェ婆さんも、俺がちゃんと草むしりをしているか監視していたようだけれど、いつの間にかいなくなっていた。

その代わり、今日もバスケットが一つ置いてあった。

今朝、朝ごはんを持ってきてくれたのはゼルシェ婆さんだ。

もしかしたら昨日の昼間届けてくれたのも婆さんだったのかもしれない。


バスケットを開けて、お馴染みの肉サンドにかぶりつく。

あーうま。昨日の昼、今朝、そして今と俺は三食同じ肉サンドを食べているわけだけど、全然気にならない位美味しかった。

そしてその日の夕方、俺は全ての草を抜き終えた。


夕飯の準備をしているゼルシェ婆さんのところに駆け寄り、「終わった!」と報告すれば、「じゃあ明日またあそこで」と言われる。

やった、よっしゃ、明日から訓練できるんだとワクワクしながら眠ったが、なんてことはない。

翌日俺は、婆さんの指示に従って鍬を持っていた。


草を抜き終わった土地を鍬で耕していく。

固かった土たちも、鍬を入れればほぐれていく。

ザクザクザク。

あれ? 俺は何をやっているんだ。

そんな気分になりながらも、とにかく耕していく。

しばらく俺が耕している様子を見ていたゼルシェ婆さんが言った。


「レネ! 鍬を変えるよ!」


婆さん曰く、ちまちま小さい鍬でやるより、大きい鍬で一気にやった方が早く終わるだろうということだった。

別に最初に使っていた鍬も小さいとは感じなかったけど、確かに大きい鍬の方が早く終わるだろうと婆さんと一緒に大きい鍬を取りに行く。

なんだか婆さんに言われた通り草をむしったり、土を耕したりすることが俺の中で当たり前になってきているが、忘れてはいけない。

俺は強くなりたいのだ。

決して畑のプロになりたいわけじゃない。


「でっか! これをみんな使ってんのかよ」


近くの倉庫にあったその鍬は、俺が使っている鍬の二倍はあろうかという代物だった。

婆さんの口ぶりだと、きっと隣の畑のおっさんたちは普通にこれを使っているんだろう。

俺が子供だから、最初小さい鍬を手渡したのかもしれない。

ウォールディンたちだけじゃない。この島にいる人みんな強いってことか。


大きい鍬を振り上げる。

ザックザックとさっきよりもハイペースで耕されていく。

時折あるでかい石を横によけながら、俺は自分でも初めてのわりにいいペースだなと思いながら、土を耕した。


「婆さーん! ありがとうー。これ最高だ、めっちゃ耕せる!」


大きい鍬を振り回しながら、俺が耕している土地の端っこにいるゼルシェ婆さんに礼を言った。

婆さんは「そうかい」と言っただけだった。


昼時になって、ルシアが俺とゼルシェ婆さんの昼食を持ってきてくれた。

中に入っているのは、いつもと同じ肉を挟んだ平べったいパンだ。

けれど、今日のそれはパンから肉がはちきれんばかりに入っていて、なんならパンは少し破れていた。

パン自体もなんかちょっと焦げ臭い。

一度焼き過ぎて焦げたパンの焦げたところをこすり取った……そんな感じだ。


「あんた料理も苦手なの」


ゼルシェ婆さんがルシアに言う。


「え? ルシアが作ったの?」


ルシアは聖女だった。料理なんかしたことない。

それはウォールディンたちの船で持っていた包丁の持ち方からも明らかだ。

そのルシアが作った?

大きく口を開けて一口かぶりつく。


「うまいよ。ありがとう」


いや、本当に。あの人殺しスタイルでこの肉も切ったのかと思うと、パンに対して分厚すぎるけど、ちゃんと形になっていてすげーと思う。

パンを食ったら、再び鍬を持つ。

ルシアは、ゼルシェ婆さんから裁縫を教えてもらっているのか耕している土地の端っこに婆さんと一緒に座って、チクチクと針を動かし始めた。

包丁と同じく、ルシアは針を持つ手もなんだか危なっかしい。

婆さんも心なしかハラハラした顔でじっとルシアの手元を見つめている。

ふとゼルシェ婆さんと目があった。


「レネ! あんたはそっちに集中しな!」


はいはい。

鍬を持ち上げて、振り下ろす。

持ち上げては、振り下ろす。

繰り返しているうちに、ルシアのことも忘れてずっとずっと鍬を振り下ろしていた。

どれくらいそれを繰り返したのか、突然バシャンと水がかけられた。


「そろそろ夕飯時だよ!」


集中していて声をかけても返事がなかったから水をかけられたらしい。

少し暗くなってきたとは思うけれど、辺りはまだ明るい。でも婆さんの言う通り、ここから一気に暗くなってくる。

朝があって、昼があって、夜があるというのが俺にはまだ慣れない。

もちろんミュンダーにも朝、昼、夜という時間の区切りがあったけれど、朝から晩まで暗かったから、こんな風に暗くなったら仕事終わりなんて習慣はなかった。

なんか不思議だな。


「ゼルシェさん! ご飯、出来ました!」


遠くからルシアがパタパタと走ってくる。

ルシアがいなくなっていたことにも気が付かなかった。

食事ができたと婆さんに報告して、婆さんの奥にいる俺を見てルシアがぎょっとした顔をする。


「レネ、なんでびちょぬれなの?」


そう言って俺が肩に担いでいる鍬を指差し、「貸して」というルシア。


「もう濡れてるから、先に水浴びしてきたら? これは私が片づけておくよ」

「ありがとう。じゃあ先に浴びてくる」


そう言って、ルシアに鍬を手渡す。

渡した瞬間、「ふぎゃあ」と情けない声を出してルシアが前につんのめった。


「大丈夫?」

「だ、だいじょぶ」


ルシアはプルプルさせながら鍬を引きずって、倉庫の方へ行く。

なんか、鍬につぶされそうだな……。

畑のおっさんたちが使っているとかいうこの鍬、女の子のルシアには重いのか。


「やっぱ、俺が持っていくわ」


そう言って、ルシアが引きずっている鍬を俺はひょいととりあげた。

これが重くて持ち上げられないって……女の子って弱いんだな。思っていたよりもずっと。


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