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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第40話 チリー隊長

甲板にまだボーラペスが残っているから運べと言われて、甲板に出る。

ちょうどダッチが甲板でビチビチ跳ねている最後のボーラペスにとどめを刺したところだった。

ダッチと二人右手に一匹、左手に一匹持って運ぶ。


「レネは見かけによらず、力持ちだよな」


ダッチが俺の腕を見ながら言う。

確かに、俺の腰くらいまである魚だ。結構重いはず。

でもあんまり重く感じないな。

なんだかんだといろいろあったから、俺も少しは強くなっているんだろうか。

それにしても……みんな俺の腕を見て、残念なものを見るような顔をするのはやめてほしい。

ミュンダーは平和な国なんだ。鍛える必要性がなかった。

怪物と日常的に戦っている自分たちと比べるのが間違いだ。

さっき厨房に来たおっさんは十匹くらい入った袋担いでたし、ウォールディンの剣にも十匹くらいは刺さってた。

それを片手で振り回すんだから、本当に俺とは次元が違う。

もしかして腕の力なんだろうか。


ダッチと二往復してボーラペスを運び終わる。

そのあとは、また甲板掃除だ。

掃除道具を持って、甲板に出るとゴンドゥの近くに人だかりができていた。


「なぁ、ミュンダーではチリーみたいにしゃべる鳥いっぱいいるのか?」


あぁ、人だかりはチリーか。

ダッチの話だと、チリーはあのままボーラペスの討伐に加わっていたらしい。

海の生き物を動員して、海面ぎりぎりを飛んでいるボーラペスを倒したという。

え? チリー、魚とも意思疎通とれるの? すげぇじゃん。


「心は誰よりも勇ましい! チリー! チリー! チリチリチリー!」


男たちがチリーを囲んで騒ぐ。

チリーもまんざらじゃないようで、「海の奴らになんて言ったんです?」と男が聞くと、「俺様はその時タイミングを計ってたんだ。だってせっかく攻撃しても、当たらないと意味がない。早く、早くという魚たちを待たせて、ようやく今だ! と号令を出したんだ! そしたら」

男たちが口をそろえて「一発命中!」と言った。

それで、また男たちとチリーは「チリチリチリー!」と盛り上がる。

あれ、なんか……チリーしゃべりが上手くなってない?


「ゴンドゥの言っていることもチリーがいればわかるし、ウォールディンさんも気に入ってた。チリー隊長なんて呼ばれてたぜ」


いいのか? とダッチは心配してくれるが、元々チリーはチリーの意思で俺らについてきている。

多分ルシアもチリーが別れたいと言ったら、送り出すと思うんだよな。


夕方、陸地が見えてきた。

「あれが島?」とダッチに聞くと、そうではないらしい。

段々陸地が近づいてくると、海辺で火を焚いているのが見える。

さらに近づくと、その火の周りに男たちが集まっているのも見えてきた。


「あいつらは陸の冒険者たちだ。あいつらを拾って島に帰るんだが、遅くなっちまったからな。今日は多分ここで一泊だ」


ダッチによれば、陸地側にも魔物が出るらしく、それらを陸の冒険者たちが間引いているらしい。

船が陸地に着くと、ウォールディンが船から声をかけた。


「すまん、遅くなった!」

「大丈夫か?」


陸地にいる熊みたいな男がウォールディンに答える。


「被害はない。遅くなったのはこいつのせいだ」


ウォールディンがボーラペスを一匹陸地に投げた。

陸地の男たちが、「ボーラじゃん!」と騒ぎだす。


「ボーラペスは集団でやってくる厄介な奴だけど、めっちゃ美味いんだ」


ウォールディンたちのやり取りを見ていた俺にダッチが教えてくれる。

今日の夕飯はボーラペス祭りのはずだとも。

陸地の奴らが大きな枝を拾ってきて、鱗を剝いだボーラペスに突き刺した。

そのまま火の傍の地面に突き刺す。

船の厨房からは鍋が運び出され、運び出された瞬間に長蛇の列ができた。

何が配られているかわからないが、無くなる前に俺もと列に並ぶ。


「坊主にゃまだ早い」


前に並んでたおっさんが言う。


「いいじゃねぇか。これも勉強、勉強!」


俺の後ろに並んだおっさんも言う。

飯……の話だよな?

どんどんどんどん列が進む。

列が進むにつれ、なんだか「女の子だ」「女の子がいる」というざわめきも聞こえてきた。

その言葉で、ルシアが鍋の前にいたなと思い出す。


「レネも?」


鍋からコップに移しながら、ルシアが怪訝な顔をする。

手渡されたコップは、湯気と共にふわりといい香りがした。

具はないが、温かいスープのようだ。


「ほら坊主、ぐっと飲んじまいな。暖まるぜ」


後ろのおっさんがスープをもらって、すぐに口をつけた。

周りを見たら、まだボーラペスも焼き上がっていないってのに、みんなスープだけ先に飲み始めている。

借りている服は薄っぺらで、昼間は良いんだが、夜は少し冷える。

俺も暖をとろうと、勢いよくグビッとスープを飲んだ。

そして。


「ぐぇほっ、げほ、げほ」


盛大にむせた。

なんだこれ。

体、熱い。喉、焼ける。


「坊主にゃまだ早いって言ったろ。お前はこっち」


おっさんから水を受け取り、急いで飲み干す。

あれ、酒か! 少しすっきりした頭でようやく気が付いた。

ボーラペスが焼けたら、争奪戦になった。

酒をもらうのにはお利巧に並んでいた男たちが、我先にとボーラペスに手を伸ばす。

なんなら人がかぶりつこうとしている傍から、横取りしてかぶりつく。


おっさん衆は、若者のボーラペスを巡った戦いを横目に酒ばっかり飲んでいる。

やべぇ、出遅れた!

急いで争奪戦の中に入っていく。

だがやっぱり、行ったのが遅かった。

骨の近くの血合いの部分しか食えなかった。まぁ、そこも美味しかったけども。


ひとしきり食べた後は、歌ったり踊ったり、酔っ払いたちが大騒ぎだ。

俺はもうすっかり普通に戻っていたけれど、馬鹿なことしてるのを見てるだけですっげー楽しかった。

そのまま俺は酔っ払いでもないというのに、酔っ払いたちと一緒に船の横で眠りこけ、翌朝ガンガンという騒音で目が覚めた。

急いで音の方を見上げると、ルシアが鍋とお玉を持って叩いている。

だが、その音でも起きない奴らはたくさんいて、それを見たウォールディンが、ルシアから鍋とお玉を奪い取り、目いっぱい叩く。


「お前ら! さっさと起きないと置いてくぞ!」


さっきの何倍もの騒音とそれに負けないくらいでかいウォールディンの声に寝ていた奴もみんな跳ね起きた。


「たらたらすんな!」


ウォールディンの追加の号令で、皆が走って船に戻る。

押し合いへし合いしながら、戻ればすぐに船が動き始めた。

船の上は、陸の冒険者も乗っているため凄い人数だ。


「お前ら、ボーラペス以外はやっぱり一匹かよ」

「なんだとお前らもちっせい魔物ばっかりちんたら狩ってんじゃねーよ」


猿野郎、犬っころと暴言を吐きながら、海の冒険者と陸の冒険者が喧嘩をしている。

あれ? 昨日この二人は肩組んで歌ってなかったっけ? なんでこんな険悪なんだよ。

俺の隣にいたダッチによれば、これはいつものことらしい。

二人の間にビュルマという動物がするりと割って入る。


ビュルマは、あの熊のような冒険者の言うことしか聞かないという聖獣だ。

だから聖獣ゴンドゥ使いのウォールディンが海の冒険者のリーダー的な存在で、聖獣ビュルマ使いの熊男バルジスが陸の冒険者のリーダー的存在なのだという。


「毎度毎度うるさいわね! あんまりうるさいとお前らの喉掻っ切るわよ! だって!」


突然チリーの声が聞こえる。

チリーがしゃべる鳥だとわかっている海の冒険者は、それがビュルマの言葉だとわかり戦慄した。


「お。おぉ。勘弁してくだせぇ。ビュルマさん」

「だったら大人しくしてるのね! だって」

「ははぁー」


ビュルマに頭を下げる海の冒険者を見て、バルジスがチリーに近づいた。


「分かるのか?」

「わかる!」


驚きながら、チリーに近づくバルジス。

「あの鳥しゃべってるぜ」とざわめく陸の冒険者たち。


「バルジース! チリー隊長を先に見つけたのは俺だよ」


ウォールディンがバルジスに割って入ってくる。

海と陸でチリーの取り合いだ。

チリー、お前もか。

なんだ、ここにはすごい奴しかいないのかよ。


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