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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第38話 海の男たち

「お前らどっから来た? ここは遊びに来るところじゃない。俺らが来なかったら死んでたかもしれねーんだぞ」


ウォールディンが低い声で言う。

どうやらこの海は相当危ない海らしい。

心の中で俺は悪いことしてないから大丈夫、話せばわかるはず、助けてくれた奴だからいい奴だろと自分に言い聞かして、平気な顔で答えた。

内心は結構ドキドキしている。

だって、あの怪物に単身乗り込む強さだぞ!


「俺はレネ。ミュンダーから来た。闇のむこうがこんな海だとは知らなかったんだ。邪魔をしていたら悪かった。そして助けてくれてありがとう」

「闇のむこうって……お前」


ウォールディンの顔が引きつる。

後ろの男たちも「闇だって」「ミュンダーって言ったよな?」とざわめき始めた。


「本当だろうな? この俺に嘘は言うなよ」

「誓って嘘じゃない」


釘を刺したウォールディンの声に、自然と背中が伸びる。

本当に!

俺はそこまで命知らずじゃない。


「いいだろう。おい! 舟拾ってやれ。あと部屋とタオルも。島に連れていく。終わったら俺の部屋に連れて来い」

「はいっ!」


後ろの男たちが威勢良く返事をして、きびきびと動き始める。

細身の男が一人、こっちに来た。

怪物のしっぽにロープを巻き付けていた奴だ。

ギジェと名乗るその男によると、ここは通称「キリの海」と呼ばれる魔物が出る危ない海なのだそうだ。

キリの海に魔物が増えすぎると、大陸側にある彼らの国にも被害が出るため、彼ら冒険者が魔物を狩り、魔物が増えすぎないようにしているらしい。


「ウォールディンさん、本当はすげぇ気さくで優しい人なんだ。さっき怒ってたのだって坊主たちを心配してのことさ。悪く思うな」


ウォールディンもまた冒険者であり、この船の船長でもあるという。

ギジェの所にタオルが届く。


「風邪をひく。これにくるまってろ」


ギジェはそう言って俺らにタオルを手渡し、他の男たちは「せーの」と言いながら、俺の舟を引き上げてくれている。

口は悪い、目つきも悪い、けれどやっぱりいい人たちだ。

怖いと思っていた気持ちがあっという間にワクワクに変わる。

見たこともない大きな怪物、それを倒す屈強な男たち、長老の話す物語に出てくるような奴らと実際に会って話をしているんだ。

ワクワクするなっていう方が無理。


俺の舟の回収を、みんなに任せ、俺らはギジェと共に船長室へ。

部屋に入ってすぐにウォールディンが口を開く。


「お前たちのように、他にもミュンダーから出てきた奴はいるのか?」

「わかんない。昔は闇から出ていきたいとたくさんの人たちが出て行ったんだ。だけど戻ってきた人はいない。こっちには来ていないのか?」

「俺はもう二十年くらいこの海で魔物を狩っているが、闇から出てきたなんて言った奴はお前らが初めてだ」


ギジェもウォールディンの隣でうんうんと頷く。

そうか、じゃあやっぱり今までの冒険家は、闇を抜け出すことができなかったんだろう。

ちらりともう顔も覚えていない親父のことが頭に浮かんだ。


「どうやって闇から出てきた?」

「どうやって……って言っても気づいたら? なぁ、ルシア」

「う、うん。気が付いたら周りが明るかったの」


コクコクと頷きながら、俺の言葉に同意するルシアの言葉を聞いて、ギジェが眉を寄せた。


「お前らにとって、ここは明るいのか」


どうやら周囲の白いのは、霧というらしい。

ウォールディンやギジェたちにとっては、ここは視界の悪い霧の中だという。

なるほど、それで「霧の海」か。


「へぇ~。俺は明るいとこんなに綺麗に見えるんだって思った」


ルシアの瞳を見ながら話す俺の言葉にギジェが俺の真似をして「へぇ~」と面白そうに相槌を打つ。

ウォールディンたちは闇の中へ入る方法を探していたようだったが、結局俺らの言葉はあまり役に立たなかったようだ。


「まぁ、ゆっくりしろや。島には明後日着くからよ」とウォールディンに言われて、船長室を出る。ギジェについて船内を歩く。

船長室からすぐの部屋をギジェが開けた。


「嬢ちゃんはこの部屋を使ってくれ。服もほれ。男物で悪いが、今船にある中でそれが一番小さいやつだ」

「おぉ、広いな〜。部屋に風呂もあるのか! すげぇー」


外から見ていた時からわかっていたが、俺の舟とは比べ物にならないくらいデカい。


「鍵はこれな。悪い奴はいないはずだが、着替える時、風呂入る時、寝る時は鍵閉めて、カーテンも閉めとけよ」


ギジェはルシアに鍵を渡しながら、窓の横の壁をドン! と叩いた。

外で「どわっ! やべぇーバレてる!」と声がする。

は? 船の側面にへばりついてたのか? すげぇ。

窓から頭を出してのぞけば、側面をひょいひょい登る男たちがいた。

しかも一人じゃない、何人もだ。

ルシアも目を丸くしている。


「あーそうだ。着替えたら食事の手伝いしてくれねぇか? 野郎どもが喜ぶ」

「は、はい。私ができることなら……」


ルシアが答えると、ギジェが「無理はしなくていいぞ」と言う。

俺も「わかった、すぐ行く」と言ったら、ギジェに首根っこ掴まれ、ズルズル扉のところまで連れて行かれる。ギジェ、強いな。

ウォールディンや他の男たちに比べるとギジェはかなり細身だが、今ギジェ一人を改めて見れば俺よりはずっとずっとがっしりしていた。


「ばか。レネ、お前はこっちだ」

「え? 俺もここじゃないの?」


客室っぽい部屋が何部屋もあるわけないから俺もここだと思っていたが、そうではないらしい。


「ここなわけないだろ。嬢ちゃんと同じ部屋で寝るつもりか、ばかたれ」


ギジェがため息をつく。

あー、そっか。

俺の舟には部屋とかないから、ルシアとずっと一緒にいるものだと思っていた。

分けられる部屋があれば、そりゃ男と女で分けるよな。


「あ、待って」


ギジェに連れられ部屋を出る前、思い出して、ギジェを止める。


「ルシアちょっと後ろむいて」

「どうしたの?」


不思議そうに後ろを向くルシアに、ポケットから出した黒い石のネックレスをつけてやる。これは、ルシアにとって大事なものだ。早く返してやらないと。


「これ……。レネ、ありがとう!」


ルシアが満面の笑みでお礼を言ってくる。あぁ、あの時拾っておいてよかった。無くさないでよかった。

ちゃんとルシアにネックレスを返せたことにほっと胸をなでおろし、「ちゃんと鍵かけろよー」と言って部屋を出る。

部屋の外ではギジェがニヤニヤしながら待っていた。


ギジェに連れられ、やってきた俺の部屋はルシアや船長の部屋よりも下の階層だった。

窓なんかない。

ルシアの部屋にあった風呂もベッドもない。

ハンモックとかいう網を引っ掛けただけのものが、八つもある。


貸してもらった服に着替え、そっとハンモックに寝転がってみる。

うわー! 何これ、揺れる。なんか秘密基地みたいじゃんか。

ルシア残念だったな。絶対ルシアもこっちが良かったはずだ。


「暇だったら見張りしてみるか?」


ハンモックに揺られていると、俺と同じ年くらいのやつに声をかけられた。


「俺、ダッチ。よろしくな」

「俺はレネ。見張り、ついて行っていいのか?」

「いいよ。今から俺の番だし」


二人で見張り台に上る。

うわー高い。

やっぱこの船、でかいなぁ。

見張り台から改めてあたりを見渡すと、あっちもこっちも真っ白だった。

ウォールディンたちとの会話を思い出す。


「ダッチ、これ、霧ってやつがなかったらどんな感じ?」

「どんな感じって言われてもなぁ。もっと遠くまで見えるぜ。空も青いし」


闇の中では見えないのが当たり前だった。遠くどころか近くも見にくかった。

ここは遠くは見えないかもしれないが、近くは見える。

色までしっかり。

ルシアの緑の瞳を思い出す。あの色が見られたのも、明るいからだよな。

闇の中じゃ、あんなにしっかり色なんて見えなかった。

明るいっていいな。

じゃあ霧がなかったら、あの瞳はどんな風に見えるんだろうか。もっときれいなんじゃないだろうか……。


それから俺らはいろんなことを話した。

俺が灯茸アカリダケ光苔ヒカリゴケの明かりを頼りに町を歩くと言えば、ダッチは目を丸くしたし、ダッチが魔物という怪物の話をすれば俺の心はジェーダの歌を聞いた時のように高鳴った。


「で? あの子とどんな関係なんだ?」

「ルシア? 仲間だよ」

「それだけ?」

「だけ」


それだけって、他に何がある。

見張りを交代して、ダッチと食事を食べに行ったら、ルシアが食事を運んできてくれた。ギジェが渡した服はルシアにはかなり大きかったのか、ウエストだけでなく、足首も紐でぎゅっと結んである。

俺と同じような男物の服のはずなのに、ルシアが着るとなんか可愛い。なんでだ。


「そっちはどう?」

「全然。役に立たなかったから皿運び係しているとこ」


早速怪我をしたらしい指を見せてルシアが笑う。


「ルシアちゃん、料理苦手なの?」

「包丁持ったら、それは人を殺すときの持ち方だ! って言われちゃった」


自分で質問したくせに、ダッチがルシアの返答にちょっと引いてる。

俺も知ったばかりだけど、そういえばルシア聖女様だもんな。

料理なんてしたことないだろ。包丁だって持ったことないはずだ。

他の人たちは俺らが見張りをしていた時に食べたらしい。ルシアは俺らの食事を運び終えると、空になった皿を運び、テーブルを拭きはじめた。

食事を終えて「じゃあな」と言って別れる。


後は寝るだけと思っていた俺の苦難はこれからだった。

部屋に戻ると、八つのハンモック全てにおっさんたちが座っていた。

床にも何人もいて、皆が酒瓶持って待ち構えていた。


「さぁて坊主、洗いざらい話してもらうぞ」

「な、何をだよ。おっさん」


どうやらダッチと同じく、他のおっさんたちも闇から二人っきりで出てきた俺とルシアを何か特別な関係だと思っていたようだ。

「坊主のくせに駆け落ちとは生意気だ」だの、「あの子は別嬪になるぞ」とか酔っぱらったおっさんたちが好き勝手話し始める。

俺は、「おっさん、ルシアは仲間だよ」というのだが、酔っ払いどもは聞いちゃいない。

だというのに、「俺はまだ男勝りの二十八歳だよ! おっさん、おっさん言うんじゃねぇ!」なんて言う。そういうことだけはちゃんと聞いてるんだよな。

でもさ、そもそも二十八はもうおっさんでよくないか?


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