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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第二章 霧の海

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第37話 討伐

大きな怪物との距離はだいぶ縮んでしまい、今は影ではなく、その姿がはっきり見える。

まだ怪物は、空から急降下している巨大な鳥には気が付いていないようだ。

鳥は猛スピードで怪物に近づいている。

ついに白い空から黒い翼の大きな鳥が姿を現した。

その瞬間、鳥から何かが落ちた。


「はぁぁぁぁ!」


男の声が聞こえる。目を凝らしてみれば、鳥から落ちたのは、大きな剣を持った男だった。

男は怪物の上に降り立つことなく、怪物の眼前で剣をふるう。


「ギャギャギギギー」

「落ちるぞ!」


切り付けられた怪物が、身をよじり暴れ始める。

自分の身の何倍もある怪物を相手に一太刀浴びせた男に感動すると同時に、このままでは男が海に落ちることに気が付いた。

俺にあの怪物とは戦う力はない。

だが、海に落ちる男を回収することくらいできるんじゃねーか?

再びオールを握る手に力を籠める。


「レネ、見て」


ルシアの言葉に再び怪物の方を向けば、落ちていく男に黒い鳥が近づき、男は再び鳥の上にまたがり舞い上がった。


「すげー」


気づいたら言葉に出てた。

闇の中は、暗かった。こことは比べようがないほど違う。

闇の中にこんな怪物はいなかったし、巨大な鳥にまたがり、戦う人もいなかった。

それは、昔長老から聞いた勇者たちの姿に重なって見えた。


「ウォールディンさんに続け! 傷ついてる左から攻めるんだ!」


いつのまにか怪物の後ろに巨大な船の影ができていた。

影から船が姿を現し、そのまま怪物の左側に位置する。

船が止まるか止まらないかといったタイミングで武器を持った男たちが船のロープを操って、船から怪物へと乗り移った。

男たちは最初、暴れる尻尾に狙いを定めたようだ。

船から尻尾に向かって一人の細身の男が乗り移る。

男は手早く、尾をローブで縛っていった。

暴れる尾にしがみつきながらだ。すげー。


「完了したぞ! あとはてめぇらの仕事だ! お? うわぁぁぁあ」


細身の男が握りしめた片手を空に突き出し、声を張り上げた瞬間、尾から振り払われた。


「何やってんだ! 気を抜くな!」


空から鳥が急降下して鳥の男が細身の男を掴み、再び怪物の頭の方へとぶん投げた。

仲間放り投げた!?

投げられた男は「優してくれよ~、ウォールディンさん~」と言いながら、難なく怪物の上に着地している。まじか。

すごい、すごい、すごい!

やっぱりだ! 外の世界にはすげぇー奴がいっぱいいる!

俺もこの外の世界を冒険してたら、あんなふうに戦うようになるのか!? 

すげー、それって長老の話してた勇者みたいじゃん。


すごいすごいと静かに興奮しながら戦いを見ていたら、怪物の上に乗り移った男たちが交代で尾に向かって攻撃をはじめ、ついにその尾が切り落とされた。

巨大な怪物の巨大な尾が海へと落ち、突然大波がこちらに押し寄せてくる。

やっべ!


「ひゃあっ!」


後ろから声がして振り向けば、舟の外へ投げ出されるルシアが見えた。


「ルシア!」


ルシアに手を伸ばす。だが俺の手はルシアに届かない。


「おっおっ、うわわ!」


ただでさえ大波で揺れ動いているのに、急に舟の上で動いたため俺もバランスを崩して海に落ちる。

バシャンと海に落ちた音が聞こえたと同時に鼻に水が入った。

服が水を含んで動きにくい。

それでもなんとか海面に顔を出す。


「ぷはっ!」

「ルシア! いない! ルシアいない!」


チリーの声にハッとして辺りを見回すが、ルシアはいなかった。

再び水の中に潜り、水中を探る。

少し先に水中でおぼれもがいているルシアがいた。

足を動かし必死にルシアの方へ向かうが、水の中では思うように動けない。

それでも足の力を使って、何とか近づく。

あと少しの所でぼふっと大量の空気がルシアから漏れ、ルシアの力が抜けていく。

急いで腕をとり、再び足の力を使って上を目指す。

足の力は、普通の人よりほんの少し速く走れる、ほんの少し高くジャンプができるだけだ。

でも、つまりは足が強くなってんだろ? なら泳ぐのだってほんの少し速くなってもいいはずだ。

必死に足を動かし水面を目指す。


「はぁっ!」


水面に顔を出す。

ルシアも一緒だ。


「助け来た! 足に掴まってって」


チリーの声を聞いて上を向く。そこには怪物と戦っていたはずの巨大な鳥がいた。


「はやく!」


チリーに急かされ、よくわからないまま左手でルシアを抱え、右手で鳥の足を掴む。

掴んだ瞬間、バサリと鳥が羽ばたいた。

ぐわんと体が海から引き上がる。

ルシアはまだ気が付いていないようで、海から上がってもぐったりしたままだ。

どんどん高度が上がる。

俺、空飛んでる! すげぇー。

あぁ、俺の脳内さっきからすげーしかない。

あ、俺の舟。

裏返ったままぷかぷか浮いている舟がどんどん小さくなる。

どこへ行くのかと進行方向を向くと、船の男たちは既に怪物を倒し終わったようで、ぐったりした怪物を船に結び付けていた。

船の甲板へ鳥が降下していく。

降下し始めるとルシアが咳き込み、意識を取り戻した。


「ゲホッゲホッ。レネ、ありが……ひゃぁぁぁぁ」

「よかった。無事だったか」

「落ちるぅぅぅ!」


甲板には指笛を吹いているシルバーグレイの髪の男が一人。

最初に怪物に切りかかっていた男だ。

確かウォールディンって呼ばれてた。

段々船の甲板が近づくいてくると怪物の後処理が終わったのか、他の男たちも集まってきた。

「女の子だ」「可愛い」「俺はもっとセクシーな感じがいい」「何言ってんだ。まだ子どもだよ!」なんて声が聞こえてくる。


「助かった。ありがとう」

「あ、ありがとうございます」


甲板に降り立ち、なんとなくルシアを後ろに隠して、シルバーグレイの髪の男に礼を言う。

遠くからじゃわからなかったけど、その体は俺よりずっと大きかった。

背が、とかじゃなくて、なんていうか全体的にでかい。

ルシアも全く状況が分かってなさそうだが、俺の後ろからひょこっと顔を出して礼を言う。

また、後ろの男たちが「可愛い」とざわめいてる。

ウォールディンと呼ばれていたシルバーグレイの男はまだしゃべらない。


「坊主も小さいくせにやるじゃないか! 女の子とはいえ、意識のない子を片手で抱えるなんてなかなかできることじゃないぞ!」


後から集まってきた男の一人が言った。

周りの男たちも「やるな坊主! ヒューヒュー」とはやし立てる。

あれ? 確かに。

ルシアは俺より小さい。けれど小さな子供と大人程の体格差があるわけじゃない。

俺の能力だって、足だ。腕の力が特別強いわけじゃない。

よく抱えられたな、俺。

そう言えば、重いとも思わなかった。

あれか? 絶体絶命の時はいつも以上の力が出るっていう、あれなのか。

ま、いいか。今考えてもわかんねーし。

助かったからそれでよし。


「うるせぇ!」


突然今まで口を閉ざしていたウォールディンが怒鳴った。

やいのやいのと騒いでいた男たちが、一斉に黙る。

ギロリと男が俺をにらみつける。


「てめぇら、なんであんな所にいた! 死にてぇのか!」


うわ、こわっ!


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