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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第34話 ルシア誕生

舟をとって戻ってきたレネに私も一緒に冒険に行くと言うと、レネはあっさり「いいぞ」と言った。

私がレネと一緒に冒険に行くと言わなければ、ジジ様は私をここに隠して、ほとぼりが冷めた頃に王都から離れた村に連れていこうと思っていたらしい。

祭壇から逃がした私を住まわせるため、ここにはトマスとジジ様がろうそくや飲食物などを一通り持ち込んでくれていた。

それらの用意してくれていた物資をトマスが舟に積み込み、レネもオールを持って乗り込む。


「聖女様、十二年前父が貴女を迎えに行きました。聖女様のお母様はどんなにお金を積まれても、何度尋ねて行っても、聖女様を手放さず、最後は王命が出されたほどです。そして、彼女は我々から金貨の一枚たりとももらわず、村から王都へ越してきて、神殿の前で暮らしを始めました」

「え?」

「聖女様、一度も話したことはありませんでしたが、貴女は愛されて生まれてきました。お母様は、貴女と別れた十二年前からずっと貴女のことを忘れず、胸に抱きながら生きています」


チリーがいなくなった時にジジ様と話したことを思い出す。

あの時私は、てっきりジジ様がジジ様のお父様であるゲイル様の死んだあとの話をしているのだと思っていた。

あの時、ジジ様は言っていた。

「別れがつらいなら別れそのものを阻止して、私も後を追いますか」と。

そしてジジ様が自棄になって、命を投げ出すのではないかと恐れた私を見てジジ様はなんて言ったんだったか。


――おそらく私は……別れた後も決して忘れず、ずっと胸に抱きながら生きます

――それは……辛くないの?

――辛くもあり、支えでもあるのかもしれません。私はそういう別れをした方を一人知っています。本当に強い生き方だと思います


もしかして、それが私のお母さん……?


「さぁ、そろそろ出発ですよ」


ジジ様に促されて、舟に乗る。

確かに、これ以上ここに居たら、決心が鈍ってしまいそうだ。

舟が岸を離れる直前、ジジ様が舟に片足をかけ私に何かを手渡した。


「聖女様のお母様から預かっていたものです。聖女様のお名前がわかるでしょう」


ジジ様が岸に戻り、舟をとんと前に押し出す。

ゆっくりと舟が出ていき、少しずつジジ様たちとの距離が開いていく。


「ジジ様! 私、約束守るわ。一緒にまぶしい海を見れるよう頑張るから!」


レネがオールを漕ぎ、舟がどんどん遠くに進んでいく。

もうすっかりジジ様やトマスは見えなくなって、導きの女神様の灯りだけがぽつんと見えるだけだった。

いつの間にか流れていた涙をふくと私とは反対側に座っているレネと目があった。


「セイ、見ろよ!」


レネが海を指さす。

レネに言われて海に視線を落とすと、周りの海が光っていた。


「わぁ。綺麗」

「な、知らなかったな。俺、やっぱり冒険出てよかった。まだ出発したばかりだけどさ、あんな闇があるなんて知らなかった。舟があったからセイも助けられた。それにちょっと海に出ただけで、こんなにきれいな光る魚がいるって知れたんだ。これからはきっと知らないことだらけだ!」


レネがニカッと笑う。もしかしたらレネなりに元気づけてくれているのかもしれない。

突然、ごそごそと音がした。


「なんだろう? 今の音」

「お、お、俺様もいるぞ!」

「チリー!?」

「そうだった。忘れてた」


レネのポケットからもぞもぞと出てきたのは、赤い帽子をかぶった白い鳥、チリーだった。

チリーとレネの話を総合すると、チリーがあの闇に気づきレネを呼びに行ったらしい。ちなみに今までおとなしかったのは、恐ろしすぎる闇の気配にポケットの中で気絶していたからだとか。


「チリー、もう舟を出しちゃったわ。よかったのよ、チリーの好きなところに行って」

「俺様、お前と一緒いる。約束した。儀式終わったらまた一緒」


チリーはそう言って、「俺様隠れ勇者だし!」と胸を張った。

レネがさっきトマスが運び入れてくれた食料の袋をごそごそと漁る。


「お、これいいじゃん」


レネが袋からチュロスを取り出し、ちぎって私に渡す。

チリーにも小さくちぎったものを前に置いた。


「冒険の始まりを祝して!」


レネがチュロスを高く掲げた。

それなら私は……。


「冒険の仲間たちに!」


私もチュロスを掲げる。


「楽しい! 今に~!」


最後にチリーが私たちが掲げたチュロスの周りを飛び回りながら、言った。

レネとチュロスを軽く合わせて、食べる。

前にチュロスを食べた時はアスラと一緒だった。

今日はレネだ。

誰かと美味しいねと言いながら食べるお菓子はなんて美味しいんだろうか。


「そういえばセイ、さっき何もらってたんだ?」


レネが最後のチュロスを口に放り込みながら言う言葉にハッとして、チュロスを持つ手とは反対の手を開いた。

最後の一口のチュロスを口に入れ、握りしめていた小袋を開ける。

中からすとんと出てきたのは、黒い石が付いたアクセサリー。

レネがランタンを近づけてくれる。

黒い石の中にキラキラがちりばめられていたこの石を私は見たことがある。


――聖女様のお母様から預かっていたものです。聖女様のお名前がわかるでしょう


「ミトさん……」


知らずにお母さんと会っていた。私を神殿に渡した後も、ずっと神殿前広場から私を見守ってくれていたんだ。


「きれい! ミトさんの石!」


チリーが石の周りを飛び回る。

確かに、シンプルながら金の台座に黒い石がとてもあっている。

何気なく裏を向け石の台座を見た。

そこに、名前がただ一つ。


「ルシア」


今まで名前がなかった。

それはきっと儀式でいなくなるのが分かっていたから。

ミトさんが名付けてくれた名前を読んだ瞬間、生きてていいよと言われた気がした。

一息ついて、再び口を開く。


「私の本当の名前はルシアなの」


言葉に出した瞬間泣きそうになった。


「セイじゃなかったのか。そっか、よろしくな! ルシア!」

「ルシア! ルシア!」


レネがニカッと笑って私を呼ぶ。

チリーが浮かれたように私の名前を連呼する。

なんだか体の中でぽっと火が灯ったようだった。


無事に祭壇から逃げ出し、新たに冒険を始める事に皆が浮足立って気が抜けていたのかもしれない。

突然ぞわりと鳥肌が立つ。

チリーが鋭い声で叫ぶ。


「来る! 闇!」


その後は全てがあっという間のことだった。

チリーの声に反応して、レネが私を背にかばう。

その瞬間すごいスピードで伸びてきた闇がそのままレネを貫いた。

闇に貫かれたレネは、貫かれたところから少しずつ闇に飲まれ、だんだんと舟から空へと昇っていく。


「レネーー!!」

「ルシア!」


舟の先まで登って、必死にレネへと手を伸ばす。

闇に飲み込まれながらレネも必死で私の手を掴んだ。


レネを助けたい、闇に飲み込ませたりなんかしない。

たとえ私が死のうとも、この手は絶対に離さない!


「レネを放してよ!」


レネを引っ張りながら叫ぶ。

直後、私と闇の間で強い閃光が走り、レネを引きずり込んでいた闇の力がふっと弱まった。

ずるりとレネを引き摺り出す。

突然かかるレネの重みに耐えきれない。

ぎゅっと目を瞑り、レネを抱え込むようにして後ろに倒れた。



どれだけ時間が経ったかわからない。


「ルシア! 大丈夫か!」


私の上から声がした。

目を開けると、そこには心配そうに私をのぞき込むレネ。

目と目があって、レネが無事だとわかり、よかったと笑みを浮かべる。

私を見るレネが驚きに目を見開いた。

驚いているレネのむこう側が白い。


「まぶしい。これが空なの?」


ぽつりとつぶやいた。


昨日でゴールデンウイークも終わり、今日からまた日常が始まりますね。

皆様お元気でしょうか。

ルシアの話もこれにて第一章 闇の国終了です。

本日夜からは第二章 霧の海が始まります。

二章も引き続きルシアとレネの歩みを見守っていただければ嬉しいです。


今後は朝晩の二投稿の予定です。

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