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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第28話 闇晴らしの儀式

「いつ出発するの?」


進水式が終わって一週間。レネはまだこの国にいた。

ミトさんの所でスープをもらい、レネと一緒に配達しながら、気になっていたことを聞いて見ることにした。


「あー、もうちょっといるかな。ほら海に出るなら食料一杯積まないとダメじゃん? 俺まだ、食料分のお金貯められてないし。他にも蝋燭とかもほしいし、舳先に光苔もつけようと思ってんだ。あと、釣り竿とか?」


すぐに出発してしまいそうだと思っていたけれど、まだ少し余裕があると知り、内心ほっと息をつく。

良かった。

神殿から抜け出すと決めた私には、レネの冒険にどんなサポートもできない。

私に出来ることがあるとしたらただ無事を祈るだけだ。


「そっか。出発したら……無事を祈っててあげる。祈るのは得意だから」

「あんがと。セイもなれるといいな! 勇者!」


ニカッと白い歯を見せてレネは笑う。もうすぐ小さな舟に乗って果てもない旅に出ていくというのに、レネの顔には悲壮感が全くない。

本当に、この自信、勇気どこから来るんだろう。

光祭りがあったせいで、最近レネやジェーダと会う頻度が減っていたが、もうすぐ出発ならばこれからはなるべく毎日ジェーダたちの所に顔を出そう。

レネは私がいなくても気にしないだろうが、私が会いたいのだ。

不安な気持ちが顔に出ていたからだろうか。レネがバンバンと私の背中を叩く。


「そんな心配すんなって。あ、ほら。祈りと言えば、聖女様ももうすぐ闇晴らしの儀式するらしいし、もしかしたら俺の出発より先に闇が無くなってるかもしれないじゃん?」

「闇晴らしの……儀式?」

「そう! セイ知らないのか? 聖女様の力がだんだん強くなってきたから、闇晴らしの儀式をして、大々的に闇を晴らすらしいぜ。みんな今か今かと待ち望んでるよ」


儀式の話は、私とジジ様、前神殿の長ゲイル様しか知らないはず。

国王陛下なら知っているのかもしれないが、それでもゲイル様言っていた。儀式は三年後、私が十五になってからだと。

なんで? 今? 


「なんでも、聖女様が輝教に心を痛めて、なるべく早く儀式ができるよう毎日毎日祈りを捧げて力を鍛えてるって話だ」

「へ、へぇ……。輝教に?」

「輝教が説いているのは、来世の希望だろ? それで今絶望している人たちが、有り金全部差し出して、来世に出発してるってわけ。国も聖女様の心に賛同して、ここのところ輝教の取り締まりをしてるみたいだしな」

「そう、なの」


確かに毎日祈っているし、輝教についてはレネから聞いて気になっていた。

でも、それだけだ。闇晴らしの儀式がもうすぐだということも輝教に心を痛めて祈っているというのも本当じゃない。

儀式のことだって、なんでみんなが知っているの。

だけどそんなことよりも。

輝教に入信した人たちが、自ら命を絶っている? 今に絶望して?


「セイ?」


黙り込んだ私を覗き込むレネに「なんでもない」と答えた。

ジェーダの所で歌を聞き、帰ったらジジ様に聞いて見ようと決意を新たに神殿への道を進む。

神殿前広場に入ると、人だかりができていた。

何事だろうという興味もあったが、人だかりから少し離れて広場の外周をくるりと回って神殿へ向かう。

ざわざわと話し合う人々の声を拾うと、取り締まられた輝教幹部がさらされているようだ。

輝教が、絶望した人たちの気持ちに付け込んでお金を巻き上げていたのなら、それは確かに取り締まらなければならないだろう。

でも、なんだか気味が悪い。

私は、輝教を憂いて儀式を早めようとなんかしていないからだ。

儀式を早めるという噂も、この輝教の取り締まりも誰かに仕組まれているような、薄気味悪さを感じて嫌な気分になる。


ミトさんたちの屋台が見えてきた。

話をする時間はないから、手だけ振って挨拶する。

その時、誰かとぶつかった。その衝撃か、何かに引っかかったのかローブが後ろへ引っ張られる。

体は大きくゆらめいた。

なんとか転ばずに済んだと安堵した時、近くで大きな声がした。


「聖女様だ! 聖女様が来てくれたぞ!」

「え……?」


咄嗟のことで理解が追い付かない。

安心したくてミトさんたちの方に視線を向ければ、麦売りのおじさんは人目もはばからず「えぇぇ!」と声を出して驚き、小物売りのおばさんは両手を口に当て必死に声を押し殺しているようだった。

そして、大きく目を見開き、ぎゅっと胸元のネックレスを握りしめるミトさん。

周りでは、「聖女様!」「金の髪だ。なんてお美しい」「もうすぐ闇が晴れるのね!」などと騒いでいる声が聞こえるが、そんな声など気にならない位ショックだった。


騙そうとしたわけではないけれど、ミトさんやおじさん、おばさん、この場にはいないけれど、レネやジェーダにも、私は自分を偽って近づいた。

結果的に騙したも同義だ。

あーあ、バレちゃった。もうみんなに会えないな。

私が聖女だと知って、みんなどう思うかな……。


「聖女様、お越しいただきありがとうございます。輝教はすでに押さえました。闇晴らしの儀式も陛下に申請中です」


後ろから声がした。

ミトさんたちから視線を外して振り返ると、いつの間にか近くに来ていた男性が私の目の前で膝をついていた。

身なりが良い。刺しゅう入りの服を見て、貴族だなと思い至る。

聖女だとバレる前は、儀式や輝教の取り締まりに何か仕組まれたものを感じていたけれど、目の前の人からはそんな雰囲気は感じられなかった。

純粋に闇を晴らすべく、尽力した……そんな感じだ。

私の返答の前に、別の人が声を上げた。こちらは私にではなく、周りの民衆に向かって声を上げたらしい。


「聖女様のご尽力で、闇晴らしの儀式もあと数日でできるであろう! 輝教もこの通り、もうない! 来世ではなく、今! 今を生きようではないか。光の暮らしももうすぐだ!」


おぉぉぉぉぉぉ!


民衆が声をあげる。

「ありがとうございます。聖女様」「光だ、光だぞー!」と様々な声が私に向かってかけられる。

神殿前広場はすごい熱狂だというのに、後ろにいるはずのミトさんたちがどう思っているかだけが気になった。

けれど、一度外れてしまった視線を元に戻す勇気はなくて、結局私は一度も振り返らず、膝をついてくれた貴族の男性に守られるように、民衆に囲まれながら神殿へ戻った。



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