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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第27話 浸水式

光祭りからしばらく、私の日常もだいぶ落ち着いてきた。

光祭り後すぐは、神殿内でもかつてのように「聖女様!」と声をかけられることが多かったのだ。


光祭りが終わってすぐ、公園にバラも見に行った。アーロン王子が話していたバラも門も見られたけれど、あの日は帰り着くのが大変だった。

出て行った時は、時間帯が良かったのか何も問題なく抜け出せたが、帰ってきたらアスラ以外にもお世話をしてくれようとしていた人がいたみたいで、部屋の前に神官の姿がちらほら。

なんとか隙を見て部屋に戻ったが、「どちらに行かれてたのですか?」と聞かれた時には本当に困った。

とりあえずにっこり笑って、チリーと遊んでいたことにした。


そんなわけで、少しの間外へ出るのは自重し、何度も何度もアスラ一人で充分な旨を神官たちに説明して、最終的にはジジ様にもお願いして、やっと一週間前あたりから私の部屋の周りも静かになった。


と、いうわけで。

細心の注意を払って、今日も外へと出発だ。

扉を少しだけ開けてチリーが先に飛び立つ。

曲がり角のあたりまで飛んで曲がり角の向こうを確認。

コツコツ。床を二回つついた音がした。

その音を聞いて、私もするりと部屋を出る。

ふふ。なんだか楽しい。


「チリー隊員、そちらの状況は。はっ! 異常ありませんっ! なんてね」


聖騎士たちの真似事を脳内でしているとチリーがフードの中にそっと入ってきた。


「お前、また声に出てる。そんなこと話してたら気づかれるだろ」


やれやれという雰囲気で諌めるチリー。

最近はチリーが話し相手になってくれているからまだマシだが、今も時々こうして独り言がでてきてしまう。

トマスに挨拶をして裏門を出る。

ミトさんのスープ屋に行くと、ちょうどレネが来ていた。

私に気づいたレネがテンション高くズンズンと近づき手を握る。

いったいどうした!?


「セイ! 舟が、出来上がったんだ!」

「え? すごい……」

「今日みんなで海に浮かべる予定なんだ。セイも来いよ!」


ミトさんに別れを告げ、レネと二人パンとミトさんのスープを売り歩く。

船を浮かべるのがよっぽど嬉しいのか、パンやスープを背負っているはずなのに、レネの足取りは軽く、私は早足で、時折小走りでレネについていく。

あっという間に仕事が終わり、倉庫のようなレネの家に着くと、ジェーダの歌を聴きに来ていた子たちが何人か家の前で待っていた。

もちろんジェーダも。


「遅いぞ!」

「ようやくだな!」


みんなが興奮冷めやらぬ顔で口々にレネに話しかける。

私もなんだかレネやみんなの熱に釣られてワクワクする気持ちがありつつも、心の奥底はザワザワとうるさい。

行くと言ったらレネは行く。

たとえ闇に包まれてからミュンダーから出て戻った人がいなくても、聖女が闇を晴らさなくても。

ジェーダはそれでも行くレネを応援することにしたと言っていたが、私は表面上応援しているが、心からの応援はまだできそうにない。

だって私が闇を晴らせばレネが安全に冒険できる可能性はグッと高くなるのだから。


「せーの!」


家に入ったみんながかけ声に合わせて舟を持ち上げる。


「セイ! セイはランタン持って先導してくれ! いつもジェーダが歌ってるとこだ。わかるだろ?」


舟を担ぎながらレネが言う。

わかったと返事をして、舟を持ったみんなを家から出し、家の扉を閉める。

ランタンを持った私を先頭に、舟を担いだみんなが後に続く。


「浮くかな?」

「浮くさ」

「何年かかったんだっけ?」

「お金貯めるところからだと、六年か? いや八年くらいか? 昔すぎて、ちょっともうわかんねー」


後ろの声を聞きながら、私は無言で歩く。

舟は出来上がった。レネはすぐ出発するつもりだろうか。


ザザーン、ザザパーン。

波の音が聞こえる。

初めてここに来た時はこの音が波によるものだとも知らなかった。

今は知ってる。いつもジェーダが歌うこの場所はレネの冒険の入り口、海だ。


海に浮かべる前に、一度舟を置くようレネが指示を出す。

なんだ、なんだと早く浮かべたがっていたみんなはちょっと不満顔だが、レネが普段と違い改まった感じで皆の前に立つと、皆一様に口を閉じた。


「えー、みんな。今日は俺の舟の浸水式に来てくれてありがとう。知っている奴もいるとは思うけど、俺の親父は冒険家だ。俺の小さい時に果てなき海へ出て行った。親父のことを人は無謀者と言うし、小さな俺を置いていくなんて非情な奴だとも言った」


いつもはジェーダが歌っているこの場所で、レネがみんなに話している。

なんか不思議だ。


「でも俺は思ったんだ! 俺を置いていくほどの魅力がこの海の向こうに、闇の向こうにあるじゃないかって」


「間違いねぇ!」と何人かが笑いを漏らす。

「バカだな、レネも!」とヤジも飛ぶ。

「まったく……」とため息も漏れる。


「まぁまぁまぁ、つまり俺も親父も取り憑かれてんだ。この海の向こうに何かがあるんだって……。今日舟が浮かべば、俺の冒険がやっと始まる。そんな大事な日に集まってくれたみんなに感謝してる」


最後は真面目にレネが頭を下げた。

ヤジを飛ばしてだ人も、笑ってた人も今は口を閉じてレネを見つめている。

ジェーダが一歩前に出た。


「それでは、浮かべてみましょうか」

「おうっ! やろうぜ!」

「よっしゃ、みんな後ろから押し出すぞ! お前は流されないよう紐を頼む」

「せーのっ!」


浮かべてみようと言うジェーダの言葉に俄かに活気付く。

海へと押し出す舟の上にはすでにレネが乗っている。


「いっけぇー!」


みんなで押し出した舟が水に浮く。

緊張した空気が海辺を包んだ。


「浮いてる! 浸水もなしだ! よっしゃぁぁぁ!」


少ししてレネの弾んだ声が聞こえる。それと同時に浜辺にいたみんなが雄叫びをあげた。


「セイ! 乗れよ!」


レネが手を伸ばす。

その手を掴む前に、「じゃあ俺も!」「あ、ずりぃ! 俺だって!」と声が続いた。


「ばっ、ばーか! お前らこの舟は乗れて三人だよ! そんな一気の乗ってくんなって。お、おいっ!」


ザザーン、ザパーン。

波の音と一緒に、笑い声ばかりが響き渡る。

ジェーダが声を張り上げた。


「レネ! 舟の名前はどうするんです?」

「名前、名前か~。考えてなかったな。ジェーダ! お前がつけてくれよ」


ジェーダが少し黙り込む。

舟に乗り込もうとしていた子たちもレネとの攻防に敗れて浜辺に戻ってきた。


「そうですね。舟の名はルシフェイラ。祈りの丘にだけ咲く光る花の名です」


ジェーダの言葉に、レネは嬉しそうに笑った。




*作者からのお知らせ

「第16話 聖騎士からの逃亡」内の舟の描写を一部変更しました。






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