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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第26話 密談2

王というのは忙しく、考えることも多い。

だから父上は職務が終わった夜、絵画室で一人酒を飲み、考え込むことがしばしばあった。

この暗闇の中絵を描く人など、ほとんどいない。

本と同様、闇に包まれた当初薪の代わりに多くの絵画が燃やされた。

おそらく残っている絵画はこの絵画室にあるだけだろう。

広い絵画室の中にあるのは、たった三枚の絵。

一つはこの城の絵、一つは海から見たミュンダーの国の絵。昔交易していた海の向こうの国からの船に同行していた画家が描いたと言われている。

そしてもう一つは、城下町の絵。

子供たちは風車を持って走り回り、女性たちは日傘をさしてその様子を眺める。

奥の方では、何かの祝いがあったのか酔っ払いたちが楽しそうに踊っている。


父上は特にこの三つ目の絵が好きだった。

その理由は聞かずともわかる。

われら王族は民を守るもの、それなのに今はその守るべき民の暮らしをこの闇の中では見ることができないからだ。

いつか光が戻り、この絵のような日常が訪れてほしい。

いわばこの何気ない日常が描かれた絵が、父上の、いや僕と父上の理想の国なのだ。

だから父上は、夜ここで酒を飲む。

自分の目指す方向を間違わぬよう。


おそらく今日も絵画室にいるだろうと、聖女様のことを聞きにやってきた。

ノックしようとあげた手が扉の前で止まる。

中から声が聞こえるところを見ると、来客のようだ。

こんな時間に、しかも絵画室で来客なんて……。


「何故祈りなど」

「本当に何もなしで良いと思っていたのですか? それでどうやって自分が闇を晴らすことができると思えるでしょう」

「だが、熱が出ている時までする必要はないだろ! そんなことで闇が晴れることなんてないのだから」


中から怒鳴り声が聞こえた。

一つは先日会った神殿の長の声、もう一つは珍しく声を荒げた父上の声。

こんな夜更けに絵画室で話していること以上に、父上が珍しく声を荒げていること以上に、気になることがあった。

聖女様が捧げているという祈りが……必要ない?

やはり噂は本当で、聖女様は闇を晴らす気がないということなんだろうか。

しかもそれを、父上も神殿の長も知っている。

知っているなら、なぜ聖女は祈っているんだ。なぜ父上も神殿の長も闇を晴らさせようとしないんだ。

心の中にもやもやと嫌な気分がたまっていく。

二人っきりで密談のように話していることが気になって、扉にそっと耳を付けた。


「今回の光祭りで民は少し希望を持った。輝教に入信後命を絶つ者も減るだろう」

「えぇ」

「だが、こんなものはその場しのぎにしかならん。三年は持たんだろう。もしも再び民に絶望感が広がり始めたら、私は決断しなければならない」


輝教……。

ここ数年で一気に民の間に広がった宗教だ。

なんでも信仰すれば死んで次の人生では光の中で生きられるという。

闇に包まれて、私たちが知ったのはこの闇のせいで寿命が短くなっているということだけではない。

人は光がないと生きてはいけないということ。

衣、食、住。そして光。

誰かがそれについて研究しているわけではないが、メモリーから過去の記憶を教えてもらっている王家の人間は知っている。

徐々に、人々は絶望しやすくなっていることを。

あの絵画に描かれていた人々ならば、笑い飛ばしたであろうことも深刻に考える人が増えていることを。

だから、王家は希望を与えることに注力してきた。


「儀式は三年後。それが約束のはずです」


たっぷり間をおいて神殿の長が答えた。

儀式?


「国の状況が許せばと言っていたはずだ。儀式さえすれば闇は晴れる。それはわかっているのだ。私には民を守る責務がある。民に絶望感が増えれば、輝教はますます勢いづくだろう。寿命の問題もある。約束を守って、守るべき民がいなくなっては私は何のための王なのだ」


驚きで声をあげそうになった口を必死に閉じた。

儀式さえすれば闇は晴れる? 

やはり、噂は本当だったのだ。闇を晴らすことができるのに、聖女様も、神殿の長も、父上も闇の中であることを許容していたのだ。

父上の声はつらさを含んでいた。

きっと断腸の思いで儀式を先延ばしにしているのだろう。

その原因はやはり聖女様……なのだろうか。

いや公園であった聖女様は、横になっている僕を倒れていると勘違いして声をかけてくるような人だ。

人々に不利を押し付けてまで聖女の地位に固執するような感じには見えなかった。

それならば、神殿か。

聖女様がいれば寄付金をもらうこともできると考えればあり得るのかもしれない。


「ジェラルド、帰るのか」

「えぇ」


父上の声に自分の状況を思い出した。

やがて出てくるであろう神殿の長と鉢合わせしないよう、僕は静かに、そして精一杯速くその場を離れた。

父上たちが話す儀式とやらをすぐにやらなければならない。

十歳である僕は本来ならまだ仕事をして良い年齢じゃない。

でもこの件は、父上も神殿の長も頼れない。僕が何とかしなければ。

あの人の良さそうな聖女様に頼んでみるか。

いや、神殿に握りつぶされるかもしれないし、聖女様がそもそもの元凶の可能性だってまだある。

何か儀式をせざる得ないような、父上でもひっくりかえせないような状況を、どうにか……。


早足で自室に戻りながら、どうすれば儀式を実行できるのか、そればかりを考えていた。


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