第23話 ミトの過去
光祭りが終わり、やっと時間がとれた今日は久しぶりに外に出る。
最近は、神殿公認で外に出る以外はなかなか外に出て来られなかった。
それはもちろん、いつもの祈りと走り込みに光祭りの準備が加わり、それ以外の時間はマナーの講師がつきっきりだったからだ。
さぁ、今日は何をしようかと意気揚々と町に出る。
やはり、最初はミトさんのスープ屋さんだ。
お金の勉強を始めてから少しだけお金を持たせてもらっている。
だから今日は初めてお金を払えるとちょっと口元が緩む。
「ミトさーん! スープ一杯ください」
にっこり笑って、銅貨三枚を差し出した私にミトさんが目を丸くしている。
「おやおや、銅貨も知らなかったセイがお金を持ってきたよ」
「久しぶりだな! セイちゃんもとうとう働き始めたのか?」
「あらほんと久しぶり。セイちゃん見習いの時期かしら」
ミトさんの屋台の右隣は麦を売るおじさんの屋台、左隣は手袋やマフラーなどを売るおばさんの屋台がある。
毎回のようにミトさんの所に出入りし、ひとしきり話していく私は彼らにとってもなじみの客だ。
「ううん。違うの、お小遣いもらったんだ」
ミトさんと屋台のおじさん、おばさんにそう言うと、なぜか全員が満面の笑みになった。
おじさんなんかは感極まって、私の前まで来ると「よかった、よかったなぁ」と背中をバンバンと叩いてくる。
何故……。
手袋を編みながら左隣のおばさんが「家族と和解できてよかったねぇ」と言ったところで気づいた。
そういえば最初ミトさんは私のことを家出予定の娘だと思っていたんだった。
もしかして、家でひどい扱いを受けていると思われていたのかも。
「あ! あの、違うよ! 私、えっと私を預かってくれている人はみんな優しいよ。虐められてなんかないから。私が世間知らずだったのは私が今まで外に出ようと思ったことがなかっただけなの」
「出ようと思わなかっただけ……? え? 家から出たことなかったの?」
わぁ、なんだか誤解が広がった気がする。
ちゃんと話さなきゃ。なんとか聖女とわからないように。
「本当に、本当にみんないい人なの。アスラはいつも私に気を配ってくれる。アスラが淹れるお茶はすごくおいしくて、すごくほっとするんだ。ジジはすごく頼りになるお兄さんみたい。小さい頃ね、上手くできなくて泣いている時よく頭をポンポンとして私が泣き止むまで傍にいてくれたの。私二人の事、大好き」
あわあわと説明していると私の背中をミトさんが軽く叩く。
「わかってる、わかってる。大事にされてるのはあんた見てたらわかるよ。ただちょっとあんたが危なっかしくて心配になるだけ」
ミトさんの言葉に麦売りのおじさんも小物売りのおばさんもうんうんと頷く。
危なっかしくて? どこが? と自分では疑問一杯だったのだけど、その後麦売りのおじさんは「わかるわかる。銅貨も知らなかったしな」と言い、小物売りのおばさんは「最初ブーツも持っていなかったから、本当に不憫で不憫で」と言い始めた。
それを聞いて納得する。
確かに常識もなく、寒さに耐えられる格好でもない私は危ないと言えるかもしれない。
「セイちゃんは見た? 光祭り。聖女様きれいだったわねー」
小物売りのおばさんのそんな言葉から話は光祭りになった。
突然の聖女様の話に、容姿を誉められたことよりも自分が聖女だとバレたのかと焦って、ドキドキする。
幸いすぐに麦売りのおじさんが口を開いてくれたので、ぼろを出すことはなかった。
「お生まれになって以来だからな。セイちゃんは知らないかな? 前のお披露目の時は赤子だから当たり前なんだけど俺の髪より少ない髪の毛だろ。それに、お顔も小さい。だから、顔なんて全然見えねぇ。それでもかがり火の光に照らされて、頭の所が一瞬きらりと光ったのを見ただけで、民衆は大騒ぎ。天使だなんて言ってたやつもいるくらいだ」
頭がきらり……。それは本当に金の髪に反射したのだろうか。
ちがうのでは? あの時私は生まれたばかりだし、遠くから見えるほどの髪あったかな?
赤子だから仕方ないのだけど、何か聞きたくなかったな。その話。
「それが、今回はあんなに立派になって。かがり火焚いても遠くからだとやっぱり顔までしっかりは見えないんだけど、あのビシッとした姿勢、佇まい。それにあのまばゆい光の髪。さすが聖女様と言われる方だけある。なぁ、ミトさんもそう思うだろ?」
べた褒めしてくれたおじさんがミトさんに話を振る。
あぁ、マナーの勉強頑張ってよかった。
「あぁ、そうだね。大きくなられた。とても」
「あら、ミトちゃん。以前の聖女様お披露目も見に来たの?」
いつも明るいミトさんが静かに話す。その様子がなんとなく気になったけれど、続く小物売りのおばさんの言葉にあっという間に興味は移った。
話を聞けば、ミトさんは前回の聖女披露の頃田舎から王都に来たよう。
けれど、それを聞いて益々疑問が深まる。
ずっと闇に覆われたミュンダーでは、町から町へ移動するのはとても難しい。
町の中も暗いが、家々の壁には光苔が張り付いているので、ぼんやりと光るものがある。
けれど町から一歩外へ出たら、そこは完全な闇。
そんな中、町から町へ移動できるのは、定期的に国中を巡る巡回団くらいだと最近アスラに教えてもらった。
光も目印の少ないその道を、巡回団は大人数で火を惜しみなく使い、光源を確保することで、進む。
個人で巡回団ほどの光源を確保することは難しい上、そもそも一生生まれ育った町から出ない人がほとんどなので、どうしても他の町へ行く必要がある人はこの巡回団と共に移動する。
ちなみに私ももしも神殿から逃げ出すことになったら、この巡回団と共に王都の外へ出ようと考えている。
つまり、町から町への移動は大変なのだ。とても。
それなのになんでミトさんはそんな労力を払って、わざわざここまで来たんだろう。
何かあったのかなとは思ったけれど、私の好奇心だけで聞いてはいけない気がして、そのままみんなとひとしきり光祭りの話をして、別れた。




