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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第22話 光祭り

あっという間に毎日が過ぎ去り、光祭りの日になった。

先日出来上がったローブの下には、念のためということで鎖でできたベスト型の防具を着ている。

とても……重い。

ここ最近のマナー講習を思い出して、重さに負けぬようピッと背を伸ばした。

ジジ様と一緒に神殿から出る。

先ほど挨拶したばかりの王と王妃も出てきて、私たちは特別に設置された豪華な椅子に座る。

神殿前広場にはたくさんのかがり火が焚かれていて、多くの民がここに押し寄せてきているのが分かった。

この中のどこかにミトさんやレネたちもいるのかな。


――まず、天と地があった。天は風に吹かれるままにわれらの頭上を走り続け、朝には光を連れて、夕べになると光を連れ去った。


ジジ様が本を片手に壇上に立ち、天地創造を語り始める。

私がジジ様の天地創造を聞いたのはこれで二回目。

一度目は、お忍びローブをかぶってこっそり隠れて聞いた。

聞いていたことがジジ様にバレた時、ジジ様が少し悲しそうな顔をしていたからそれ以来こっそり聞きに行くことはなくなった。


――世界が変わったのは、闇時前100年以上も前の事。

天より星が落ちてきた。

目がくらむような光、立ってはいられぬような風が吹き、人も、家畜も、木や花も、家々までも何もかもが消え去った。

後に残ったのは、小さな薄墨色の靄だけ。


ざわり。民たちが驚いた。

私も初めて聞く部分に目を見開く。

その後は、ジェーダの歌に出てくるような勇者たちが何人も出てきて、突然狂暴になった動物たちと戦い、化物と戦い、世界を救っていく。

ひそひそと話していた声がいつの間にかピタリと止み、皆が一語一句聞き漏らさぬよう真剣に聞いている。

ジェーダの歌を聞いている時のような、キリキリと締め上がってくるような高揚感。

そして、最後の勇者マキレスの話になるころには、ある種の緊迫した雰囲気が神殿前に漂っていた。

マキレスは人類史上最強の敵魔王と戦う。時にはマキレスが魔王を追い払い、時には魔王の猛攻に命からがら撤退する。

マキレスと魔王は何度も何度も死闘を繰り広げ、最後ここミュンダーの地で決着をつける。

勝者はマキレス。魔王は消えてなくなった。


――マキレスのその後はわからない。

マキレスがいなくなると同時に、世界は闇に包まれた。


ジジ様が本を閉じる。

シンと静まり返った神殿前広場を背にジジ様がこちらに向き直る。

王と王妃、そして私も座っていた椅子から立ち、民たちの前へ出てきた。

これほどかがり火が焚かれていては、私の金色の髪は目立つだろうなとどこか他人事に思っていた時、王が静かに口を開いた。

静まり返った神殿前広場に、王の言葉が響き渡る。


「今、我々は歴史的に重要な時代に生きている。魔王を退け、手にした平和と引き換えに我々は光を失った。だかそれもあと少しの辛抱だ。われらが悲願の時は、近い!」


王の言葉が終わるとともに、「おぉぉぉぉ!」と民衆たちが声をあげ、大地が揺れる。

すごい。

あと少しの辛抱、悲願の時が近いと言ったことで、皆は思ったのだろう。

何か闇を晴らせる兆しがあるのだと。

あともう少し待ってみようと思ってくれた人も多いようで、王の手に引かれ、私も一歩前に出ると「聖女様ー!」「光をー!」と大歓声が上がった。


光祭りの式典が終わり、神殿の中へ戻る。

外は未だにお祭り騒ぎで、時折「聖女様ー!」と言う声がまだ聞こえる。

中に入ると入口の裏側に待機していたアスラの目に涙が浮かんでいた。


「アスラ?」

「私、嬉しくて。誰よりも努力されていた聖女様を見てもらえて」


ずっとアスラは怒っていた。

私に対して、早く闇を晴らせよと言う人々に、闇を晴らすことなんかできないんじゃないかと悪口を言う人々に。

どんなに聖女が無能だと思っていても、曲がりなりにも私は聖女で、神殿の奥で大事にされている。

だから私が私への悪口を聞いたことは少ない。

でもアスラは……もっとたくさんの愚痴、悪口、苦言を聞いてきたのだろう。


「いつもありがとう、アスラ」


その後、神殿の外では民衆たちがお祭り騒ぎをしている。

神殿前広場にはいつも以上に屋台が立ち並んでいるので、そこで飲めや歌えの大騒ぎをしている集団も多いそうだ。

一度私室に戻った時にアスラがそう教えてくれた。


私室で紅茶を飲んで少し休憩すると、式典の時には下ろしたままだった髪をアスラがきれいに結い上げた。


「さぁ、参りましょうか」


アスラに促されて、私室を出る。

今日は式典に参加していた王たちと共に食事をとることになっている。

これさえなければ、食事の時のマナーは学ばなくてもよかったのに……。はぁ。


神殿にあるこじんまりとした来客用の食堂の扉を開く。

王とジジ様、そして年齢故に式典に参加していなかったアーロン王子がすでにそこに居た。

初めて会うアーロン王子と挨拶をしていると、王妃様も来られた。

今日の食事はこの五人。ジジ様以外は皆今日初めてあった人ばかり。

いや、王は私が赤子の時に会っているらしいが、赤子の時だから全く記憶にない。

何を話したらよいものかと悩んでいたけれど、さすがは王族というべきか、皆会話が上手だった。

料理のこと、式典のこと、私が着ているローブのことなど、最近勉強を始めたばかりで何も知らない私でも付いて行けるような会話もあり、ほっとした。

アーロン王子は市井の民にも優秀だと噂される才能溢れる王子だ。

時折私にはわからない学問や政治の話がでてもアーロン王子は難なく話についていっていた。

さすがだ。

ちなみに私はそういう場合はニコニコ笑って、口を挟まず食事をする。

ドキリとしたのは、食事の中盤のアーロン王子の言葉。


「聖女様はどのように闇を晴らしておられるのですか!」


純粋なまっすぐ私を見る目に一瞬言葉が詰まる。

あぁきっと、この王子は本当のことを知らないのだ。

当事者である私ですら真実を聞いたのはたった一年前。

あの時、私がジジ様に「私のことなんだから教えてよ!」と食って掛からなければ私はきっと十五まで知らなかったのだろう。

王子は、私の二つ下の十歳。きっと、まだ知らない。

驚いたことを悟らせないように、必死に落ち着いて口を開く。


「毎朝、毎晩ずっとお祈りしております」

「ずっと?」

「えぇ、六歳になる少し前だったでしょうか。神殿の長とともに祈り始めたのは。最初は意味も分からず、ただ長の真似事をしていただけでした。六歳になって私に闇を晴らす能力があると知ってからは、もう必死になって祈りましたわ」


嘘ではない。

結果的に祈りによって闇が晴れることはなかったけれど、今まで一度も休むことなくずっと祈っている。

ジジ様も口を開く。


「そうですね。聖女様はこの六年間一度も休まれたことはございません。熱が出た日さえも、フラフラになりながら祈りの間まで行き、祈りを捧げておられましたから」


カチン。

お皿にカトラリーが置かれた音がした。

誰もが音を立てずに食事をする中たてられた音の方に視線をむける。

視線の先で王の目が少し揺れていた。

どうしたのだろうか。



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