第21話 儀式の日取り
勇者を目指して走ったり、神殿を抜け出したりするうちに私は十二歳になった。
十二歳は平民でも貴族でも大人の入り口だ。見習いとして働き始め、十五となったら一人前の大人として扱われる。
「聖女様も大きくなりましたね」
出来上がったばかりの式典用のローブと冠を被った私を見てアスラが言う。
真っ白なローブの胸元には金の刺繍が施され、冠はぐるりとルシフェイラの花が金で飾られている。
これが聖女の正装だ。
と言っても、聖女なんて私が初めてだからジジ様やアスラが神々しく? 見えるように作ってくれただけだが。
もうすぐ年に一度の光祭。
十二歳になった私はその式典に出席しなければならない。
「聖女様そろそろ行きませんと」
アスラにそう言われて部屋を出る。
街歩き用ローブを身に纏い、セイとして抜け出す時には私のことなど誰も気に留めないが、聖女として、しかも正装した聖女が廊下を歩くのは初めてだからか、近くの神官たちは廊下の端によけ頭を下げ、遠くの神官たちは何事かと目を凝らしてこちらを見ていた。
アスラの後ろを、背中をピンと伸ばしながらゆっくりと歩く。
貴族の子女にマナーを教えてきたという方を講師に迎え、立ち居振る舞いを習っている。
それも光祭りのため。
光祭で私がやることはないのだが、一応国の希望である聖女が赤子の時以来初めて民の前に出て来るということで、国王陛下から私の紹介があるらしい。
ジジ様は黙って手を振っていれば大丈夫と言っていたけれど、聖女らしい雰囲気作りは必要かもしれないと講師を用意してくれた。
きっと聖女らしい雰囲気が私を守ると信じて。
子供のように手を振れば、民は思うだろう。本当にこんな女が闇を晴らせるのかと。
けれどまるで王妃様のように高貴で慈愛ある雰囲気で手を振れば、今は闇を晴らせていないがあの方ならきっといつかは……! と思ってもらえるかもしれないというわけだ。
ちょっぴり騙しているようで、気が引ける。
いやちょっぴりどころじゃない。いつか私は神殿から逃げ出すのだから、詐欺もいいところだ。
目の前の扉をノックして、アスラが私の到着を告げる。
ガチャリと扉が開き、どうぞと招かれた。
アスラは中に入らず、私一人で入る。
「聖女様、よくきてきれた」
ベッドの上で出迎えてくれたのは前神殿の長であるジジ様のお父様ゲイル様。
お付きの人が紅茶を準備して、外へ出た。
部屋にはゲイル様と私だけ。
「長、お加減は?」
「もう私は神殿の長じゃない。長はジェラルドだ。聖女様はまだジェラルドのことをジジと呼んでいるとか」
ハハハと笑いながらゲイル様が言う。
ジジ様の名前はジェラルド。
けれど幼い私はジェラルドと呼ぶ事が難しくて、頭文字のジを繰り返すばかりで、ジージー、ジージーと言っているうちにジジ様が「私のことはジジと呼んで下さい」と折れたらしい。
そんな昔話に花を咲かせ、唐突に沈黙が降りた。
「聖女様、わしはもう長くない。ジェラルドから聖女の役目を聞いたな」
「はい」
「だが、時期は聞いていないだろう」
推し量るようにゲイル様がこちらを見る。
確かに、ジジ様はいつ私に役目を果たさせるかなんて話していなかった。
逃げ出すことしか考えていなかったが、そもそもどうやって役目を果たさせるつもりなのだろう。
知らないので、ゲイル様の問いに首を横に振る。
「三年後。聖女様が十五になられたら、儀式をする予定だ。何があってもな」
まっすぐ私を見るゲイル様。
神殿から逃げ出す予定の私は、なんだか居心地が悪くて少し俯く。
それをゲイル様はショックを受けたと思ったのだろうか。
ゲイル様の手が私の肩に置かれ、「儂は……」と何かを言いかけて、再び口を閉じた。
「ゲイル様?」
「いや、なんでもない。儂は少し疲れた」
肩に置かれた手を引っ込め、ゲイル様はベッドに横になった。
話は終わったという合図だろうと挨拶をして扉に向かう。
部屋を出て扉を閉める瞬間、中から「すまない」と聞こえた気がした。




