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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第19話 【閑話】幸せな背中

今日も重たい荷物を両手に持ち、娘が残したたった一人の赤子を背負い、町を歩く。

腕に能力が発現した私は今までも穀物、木材、羊毛……持てる物は何でも運んできた。

でもそれも若い時の話。

四十を超えてからは、普通の人よりはいまだに力持ちではあるものの少しずつ衰えている。


娘が出戻ってきたのは、半年前。

私に似て男の見る目のない娘。

子供を産んだとたんに捨てられ、ぼろぼろになって戻ってきた。

親子そろって女手一つで子供を育てなければならないとは。

そんなところ似なくてもいいのに……と思いつつ、私はさして心配していなかった。

私が思う以上に追い詰められていたのだと知ったのは、娘が輝教に入信したいと言い始めた頃だ。


「今あるお金全部使ったら、入信できるわ」

「何言ってんだい! そんなにつぎ込んだら私たちの生活はどうなる? この子はこれからお金がかかるんだよ!」

「いいじゃない! 私の人生散々よ! 次に期待したっていいでしょ!」

「私がどんだけあんたに手をかけ育てたと思ってんだ。それを散々だなんて、口が裂けても言うんじゃないよ! そんなに不幸なら勝手にしな! ただし私とこの子を巻き込むんじゃないよ!」


今思えば、売り言葉に買い言葉。

本気で勝手にしろと思っていたわけじゃない。

貧乏でも娘と孫と一緒に暮らせばいいと思っていた。娘が帰ってきて、嬉しいと思っていた部分もあった。

だからこそ、人生散々だと言った娘の言葉にカッときた。


あの時、娘は心に大きな傷を負ったばかり。産後の不安定な時期でもあっただろう。

どんなに頭に来ても、娘を手放すようなことは言ってはいけなかった。

大げんかの翌日、娘はいなくなっていた。

家にあったお金と共に。

残されたのは、娘が生んだばかりの赤子だけ。


娘に帰ってきてほしいと輝教本部に行ってみた。

門前払いを受けた。

何度行っても同じで、娘が生きているか死んでいるかもわからない。

輝教に入信した人は帰ってこない人が多い。

現実に絶望した人ばかりだから、すぐに命を断っているんじゃないかと聞いたこともある。

もしかしたら娘も……。


心にぽっかり穴が開く。

それでも何もわからぬ赤子は泣く。お腹が空いたと、おしめを変えてと。

だから今日も働く。

若いころ仕事をしていたあちらこちらに掛け合って、いくつもの荷物を一日何度も運ぶ。


「婆さん、大丈夫か? 」


そう言われることもある。

けれど、家にはもうお金がない。娘が残したたった一人の宝を守らないといけない。

赤子を背中におぶり、両手で荷物を運ぶ。

毎日朝から晩まであっちへこっちへ。

一日中荷物を持って歩くばかり。

あぁ、疲れた。私の人生って何なのかね。そして一人残されたこの子の人生も……。


—次に期待したっていいでしょ!

 

荷物を持って歩く間、娘の言葉がぐるぐると頭に渦巻く。

このまま、この生活を続けても生活はギリギリだ。この子に楽しい思い出を作ってあげることも、将来困らぬように備えてあげることもできない。

次、次……。

馬鹿なことをと思っていたけれど、娘の言う通りだったのかもねぇ。

今の生活を続けても、私もこの子も幸せになんてなれない。


「大丈夫ですか? 私が荷物を持ちましょうか」


突然声をかけられた。

フードを目深にかぶり、白い小鳥がその子の周りを飛んでいる。フードの下から覗く顔つきと声で少女だとわかる。

荷物を持ってくれると言うんだから、きっとこの子も腕に能力があるんだろう。

そう思って荷物を託す。


少女は手提げに腕を通し、力を込めて持ち上げる。

ふら、ふら、ふらと三歩歩いたところで私が止めた。

あまりに危なっかしくて見ていられなかった。止めねば、バランスを崩して倒れてしまっただろう。


腕の能力でないのに、私を助けようとしたというのか。

少女には代わりに赤子を背負ってもらった。

一人で歩いていた時は悪いことばかりが思い浮かんでいたというのに、少女と話しながら歩いていた時は、悪いことなど一度も思い浮かばなかった。

三歩しか歩けなかった……、どの口が手伝うなんて言うのか……と項垂れる少女を勇気づけているうちに、自分の心も上向いてきているのがわかる。

指定の場所まで荷物を運び終え、少女から赤子を受け取る。


「私に幸せな時間をくれてありがとうね」


少女が赤子にそう言った。

あぁ……。

赤子を抱きしめる。

あったかい。

辛いこと、困難なことばかり目を向けていた自分を恥じる。

まだ私にはこの子という幸せが残っていた。

またぎゅっと抱きしめる。腕の中で赤子がキャッキャと嬉しそうに笑った。



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