第14話 役立たず
それからも毎日私は神殿を抜け出しては、困っている人探しをした。
ランタンの灯が消えてしまった人には、あやうくローブに火を引火させそうになりつつも火を分けてあげた。
燃え移りかけた火はチリーがはたいて消してくれた。
道に迷っている人もいた。私は道が全然わからなかったので、一緒に周りの人に聞きながら道案内した。
時々間違った方へ進もうとすると、チリーが私をつついて教えてくれた。
どれもこれもスマートに助けられたわけではない。
いつも困っている人以上に私の方がわたわたと慌てていたし、どの人の時も声をかけるまでずいぶん時間がかかってしまった。
人を助けようとすることって、たとえその内容が化物を退治するなんていう大事件でなくったってすごく勇気のいることなんだなぁ。
上手くいかない日々に落ち込んだ日には、ジェーダの所へ行って歌を歌ってもらった。
ときには他のお客さんがいることもあったから、初めてジェーダに会った時のように一緒に箱を叩いて演奏することはなかったけれど、ジェーダの歌はいつだって、私をよし、またもうひと踏ん張りと思わせてくれた。
そして思う。ただ困った人に声をかけるだけではだめだと。
私の人助けは、ミトさんが言うように誰かの心を慰めているのかもしれないけれど、ただそれだけでちゃんと助けるには至っていない。
これじゃ勇者になれない。一人反省会を開きながら神殿へ帰るその帰り道。
「俺様、全然人助けできない。俺様すごい鳥なのに、誰も褒めてくれない。俺様も頑張っているのに」
いつも自信満々のチリーが肩を落とす。
「そんなことないよ。チリーがいなかったら、私危うくあの人に大怪我させるところだったし、道案内の時だってずっと迷ったままだったかもしれないよ」
「でも、誰も俺様が頑張ってるってわかってくれない。俺様、悲しい」
そうだよね。チリーは小鳥だから、闇に包まれた外では目立たないし、まさか小鳥が人助けしているなんて思わない。
「そっか。チリーは隠れ勇者なんだ」
「隠れ勇者! ジェーダの歌で聞いた! でも、俺様ジェーダの歌であれだけは好きじゃない。誰も知らない間に助けても、誰も俺様ほめてくれない……」
チリーは隠れ勇者の名に一瞬気分が上がるも、やはり誰にもわかってもらえない点が悲しいようだ。
「人助けいいこと、わかる。でも、誰も喜んでくれない。気づいてくれない」
「私とチリーは知っているよ。チリー、あのね。私最近思うんだけど、人助けって自分の為なんだよ」
チリーが自分の為、自分の為とつぶやく。
そう。きっと私がやろうとすること全て、結局は自分の為なのだ。
勇者を目指して人助けをしたいのだって、聖女を辞める罪悪感を少しでも無くしたいからだろう。
「わかった! 俺様、人を助ける偉い鳥! 誰も知らなくても俺様、偉い! でもお前、俺様偉いの知ってるから、お前は俺様褒めろ」
「うん。チリーはすごい、すごい鳥!」
チリーが嬉しそうに私の周りを飛ぶ。
本当にチリーはえらい。私みたいな打算でもなく、純粋に人助けをしているんだから。
「おい! まだなんか! 聖女様はいつになったら闇を晴らしてくれるんじゃ!」
突然人々の雑踏、話し声を突き破って怒号が聞こえた。
聞こえた方へ反射的に顔を向ける。
ぼんやりとしか見えなかった人影が、周りにやじ馬たちが集まったことではっきりと見えてきた。
おじいちゃんが、町の見回りをしていた聖騎士に詰め寄っているようだ。
「聖女は何しているんだ! もう十一年だぞ……十一年も力が発現しないなんて、あるわけないじゃないか」
おじいちゃんの言葉にやじ馬たちの中からも「確かに遅すぎるよな」などという声が上がった。
聖騎士たちはこんな場面に慣れているのか、顔色一つ変えず言い放った。
「聖女様は毎日欠かさず、祈っておられます。信じてお待ちください」
「だが、もう十一年だ。儂は四十になる! もう時間がないんだ。生きているうちに光が見たい。そう思うのは当然だろう?」
「その気持ちはわかりますが、我々にはどうすることもできません。貴方が文句を言ったところで聖女様の力が発現するわけでもないのです」
聖騎士が手を叩き、やじ馬に解散を促した。私も急ぎ神殿に戻った。
その夜、私は夢を見た。
闇を晴らせないことを糾弾される夢だ。
神殿をこっそり出てきた私のフードをあのおじいちゃんがつかむ。
場所は神殿前広場、大勢のランタンの灯りがこちらに出される。
「闇も晴らさず、お前はこんなところで何しているんじゃ。もうお前も十一歳だろう。さっさと闇を晴らさんか!」
おじいちゃんと私を見つめる無数の光から「そうだそうだ!」「この役立たずが」と声が上がる。
その声がだんだんと大きくなり、「早く闇を払え」「今すぐだ!」と全員が口をそろえて言い始める。
「私だって一生懸命にやったの! それでも闇は晴れなかったのよ!」
そんな私の声は誰にも届かない。おじいちゃんが声を張り上げる。
「闇を晴らせん役立たずはいらん! お前の存在があるから夢を見てしまう。お前がいるから辛いんだ! だから、闇を晴らせないならさっさと死んでくれ」
おじいちゃんの顔が黒く見えた。
「早く闇を晴らせ」と要求していたやじ馬たちの声も今や「死ね」と連呼している。
その中で私一人、何の行動もとれず闇に落ちていくところで目が覚めた。
暑くはないはずなのに、汗をびっしょりかいている。
物音ひとつしない深夜、ベッドの上でぽつりとつぶやく。
「はやく、勇者にならないと」




