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名ばかり聖女の覚醒~聖女は生贄なんて聞いてません  作者: 南の月
第一章 闇の国

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第13話 人助け……失敗

レネは言っていた。

勇者とは、勇気があって、人を助けると。

私は決めた。

聖女を辞めるのなら、勇者のように人を助ける人になろうと。


でも……人を助けるってどうやって。

神殿を抜け出して、ぶつぶつ言いながら歩く。


「人を助けるって言っても、お金もない、勇者みたいに強くもない私に何ができるっていうのよ。大体助ける人だってそうそういないし……」

「あの人手伝う! 荷物重いの手伝ったら、人助け!」


肩に乗るチリーが胸を張って言う。

チリーが指し示す先を見ると、重そうな荷物を両手に持ち、背中に赤子をおぶった人がよろよろと歩いていた。


「確かに。でもっ、でもっ、なんて声をかけたらいいの? 急に知らない人が荷物を持ってあげるって怪しくない? そもそも……」


勇気が出ず、いろいろと言い訳している間にチリーが飛び立つ。


「ちょっ、ちょっとチリー!」


チリーを追いかけて走る。チリーは重そうな荷物を持った人の周りを飛ぶ。


「すみません。こらっ、チリー」


そう言ってチリーを捕まえようと四苦八苦する。

近づけば、荷物を持った人の腰は曲がり、荒い息を吐きながらよろよろと歩いている様は今にも倒れそうだった。

チリーを捕まえるのをあきらめて、声をかける。


「大丈夫ですか? 私が荷物を持ちましょうか」


大荷物を持った人は視線だけで私を見上げ、地面に荷物を置いた。

よく見れば、随分と年を取っているようだ。

三十? いや四十歳くらいだろうか。


「ありがとう。それじゃあこの荷物お願いできる?」


地面に置かれた荷物を持つ。

お、お、重い! 手提げを部分に肘まで差し込み、気合を入れて持ち上げる。

持ち上げた反動でよろよろと後ろに転びそうになる。

それをなんとか踏ん張り、もう一つの荷物にも腕を差し込む。


「本当に大丈夫?」

「ダイ、ジョブ」


重い、腕がちぎれる。

市井の人たちはこんな重たいものを持ち運んでいるの? 大きくよろけながらも一歩踏み出す。

もう一歩。踏ん張り切れなくて横によろけた。

ちょうど近くを歩いている人が支えてくれて事なきを得たが、さらに一歩踏み込んだところで、私の手に手が乗った。

不審に思って視線を上げる。体ごと向き直ることはできない。

すると荷物を預けてくれたおばあちゃんが私の手を無言で下げさせていた。

荷物が地面に置かれる。


「ありがと。でも重いでしょ? これはやっぱり私が運ぶよ」

「何もお役に立てず……すみません」


疲れと情けなさでうつむく。

人を助けようなんて思い上がりだったんだろう。

たった三歩。私がこの人の代わりに荷物を持って歩けたのはたった三歩だった。

スープ一杯にお金がいることも料理や裁縫、給仕に針仕事も何も出来なくて、筋力すらない。

祈りしかやってこなかったのだ。

私にできることなんて……あるわけないのに。

ふいに頭上でぽんと手を叩く音がした。


「じゃあ、貴女はこの子をお願いできる?」

「え?」

「この子をおぶっていなかったら、肩に乗せて運べるからね」


おばあちゃんがにかっと笑う。

目にもとまらぬ速さで背中に巻き付けていた子を下ろし、私に巻き付ける。

背中が……温かい。

さっきまでの不甲斐なくて消えてしまいたい気持ちが、背中の温かさと共に溶けていく。一人で歩けぬ赤ちゃんをおぶってあげているはずの私の方が、何故か助けられた気持ちになっていた。


私にしっかりと赤ちゃんを巻き付けるとおばあちゃんは私が一つでよろけそうになった荷物をグイッと持ち上げた。

背中の赤ちゃんはチリーを目で追っているようだ。

おばあちゃんの歩みは相変わらず遅い。

けれど私よりも断然おばあちゃんの方がしっかりと歩いていた。

しばらくして目的地に着いた。

助かった、ありがとうとお礼を言われたけれど、上手く返事ができたかわからない。こちらこそ助かりましたというところだ。

赤ちゃんを下ろしておばあちゃんに返す。


「私に幸せな時間をくれてありがとうね」


背負っていた赤ちゃんにそう挨拶しておばあちゃんと別れた。

少し迷いつつも何とか神殿前広場に戻ってきた。

よろよろとミトさんの所にやってきてスープで一息つく。


「セイ、どうした? 元気ないじゃない?」


荷物を持とうとしたら、三歩しか歩けなかったことをもじもじと話すと、何故かミトさんは「そうだろうねぇ」と納得した。

ミトさんはその後私がしっかり防寒していることに感心し、私の頭に手を載せ言った。


「セイはセイのできることすればいいんだよ。ゆっくり自分のできることを探していけばいい。でも、そのおばあちゃんの役に立たなかったって言うのは違うと思うな」

「ミトさん無理に慰めなくていいよー。さすがに三歩で役に立ったなんてことはない。それくらいわかるよ、私だって」


がっくりと肩を落とす。


「まーそうね。三歩は役に立ってないわ」

「ほらー」

「でもさ、きつい時って声かけてくれるだけで救われんの。一人だと、誰か助けてよ、なんで私ばっかり、こんな世の中くそったれだって嫌なことばっかり頭を駆け巡るけどさ、そこで誰かが『大丈夫?』って声かけてくれたなら、手を差し伸べてくれたなら、それだけでその嫌なもやもやしたどす黒い言葉がどっか行くの。あぁ頑張っている私を見てくれている人がいる。もう少し頑張ろうって思えるもんさ」


ミトさんの首元の暗いネックレスがランプの光が反射してチカチカ煌めいた。

なんで今まで黒い石みたいなネックレスをしているのだろうと思っていた。

だって常闇のこの国で黒い石なんて全く目立たない。

けれど、よく見てみればその石の中には小さなキラキラが入っている。

夜空に光る星ってこんな感じなんだろうか。きれい。

お客さんに呼ばれミトさんが接客に戻っていく。

私はちびちびとスープを飲みながら、本当に少しでも役に立ったんだろうかと考えた。


その日はそのあとバルケル様の歌を聞きに行った。

バルケル様の歌を聞きながら思う。

森の中で暮らしていたあの女の子も、呪を受けた子も、家で虐げられていた子も、身投げをしたあの金の髪の子も、みんな美しい男性に助けてもらって、幸せになった。でも彼女たちが一番救われたのは、美しい男性と添い遂げられたことでも、辛い現状から救い出してくれたことでもなくて、辛い状況でも頑張る彼女たちを見つけてくれたことなのかもしれない。


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