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第82話:チャンス到来?

 


 ☆


 本選は知力も競わせると最初の説明にあった通り、数学や古典からの出題もあった。

 一年の凪には若干不利かと思われたが、特別クラスに行くと決めていた彼女はそれらの問題も難しい表情ではあったものの無事クリアしていった。

 そして、凪は次の課題であるパンフレットに載せる学園の生活について考える為に今までの事を振り返っていた。



『おい、新入生』



 バスから降りて最初に話したのは浩樹だった。

 人を惹き付けて止まない圧倒的な存在感に心を奪われ、思わず『殿様?』と呼んだ事をを思いだし、クスッと笑みを溢した。

 そのまま強引に連れ拐われて、生徒会室で帯刀と出逢った。



(あの時の帯刀先輩怖かったなぁ)



 目を閉じると鮮明に浮かぶ帯刀の表情。それは全てを拒絶する冷たい氷の刃のようで近付きたくないとさえ思った。



「でも生徒会に入ったお陰で、帯刀先輩が本当は優しい人だと知れて良かったな」


「俺が優しいか?」



 誰もいないはずの生徒会室に帯刀の声が響き、凪は目を開くとそこには帯刀が自分を見下ろすように立っていた。



「待たせたな。課題は終わりそうか?」


「まだです。今までの事を振り返っていたんです。

 自分が望みさえすれば、充実した学園生活を送れる事を書こうと思うのですが、切り口をどうするか決めかねています」


「そうか。期限は明後日の朝だがイケそうか?」


「後は寮に戻って今夜中に書き上げます」



 凪はそう言うと、鞄に荷物を詰め込んで帯刀と肩を並べて部屋を出た。

 凪は歩きながらそっと帯刀を盗み見た。



(やっぱり帯刀先輩は綺麗だな……)



 月夜に照された帯刀の美しさに、凪は吐息を洩らした。

 だが、視線を帯刀の唇に下ろした瞬間、凪は思わず俯いた。



(ダメだ。無かった事に出来ないよ)



 形のいい唇の感触、その後に感じた帯刀の熱い吐息。

 それらが鮮明に思い出され、凪は自分の胸が激しく高鳴るのを必死に手で抑えた。



「凪?」


「な、な、ななんでもないです!!」



 そう言われても、人の顔をじっと見つめてきてると思ったら、いきなり俯かれてなんでもないわけがない。



「だが、お前顔が赤いぞ?一体どうしたん……」



 と、そこまで言いかけて帯刀はハッとなった。



(俺を見て、赤くなった?ということは、まさか、異性として俺を意識しているのか?)



『チャンス到来』



 脳裏にハデなネオンのようにそのフレーズがピカピカと点滅し始めてるのが浮かんだ。

 本来なら目的を達成するまで封印すべき事だ。だが、このチャンスを見逃すわけにはいかない。

 相手はドS級のスーパー鈍感凪だけに、意識されてるうちに何とかしなければならない。

 帯刀は生唾を飲み込み、慎重に凪の肩に手を置くと、ゆっくり自分を見るように促した。



「凪。先程俺を優しいと言ったな?」



 凪は顔を赤らめたまま頷き、恥ずかしいのか上目遣いで帯刀を見ている。



「俺は誰にでも優しいわけじゃない。ただ、凪の為になるのなら、どんな事でもしたいと思っている。

 いや、身体が勝手に動いてしまう。

 俺にとってそのくらいお前が大切なんだ。凪」


「帯刀先輩……」



 いつもと違う雰囲気の帯刀に戸惑いながらも、熱い眼差しを受けて凪の胸は痛いほど跳ね続けている。



「俺はこれから先もずっと凪と共にいたい。解るな?」


「……先輩。それほどまでにあたしを?」



 帯刀は強く頷いた。

 すると凪の瞳からポロリと真珠のような涙がこぼれ落ちた。



「帯刀先輩。あたし、嬉しいです」


(通じた……!ようやく俺の気持ちが!!)



 帯刀は感動のあまり、身体を震わせた。



「凪……!」



 帯刀はそのまま凪を抱き締めようとしたが、そこで動きを止めた。



(いや、待て?今までの凪を考えるに、この展開には必ずオチが待っている。まさかと思うが、これでも俺の気持ちが通じていない可能性もある。

 確認してみるか?)



 凪の鈍感ブリを散々味わってきた帯刀としては、疑いたくはないが疑わざるを得ない。

 ゆっくり息を吐き出すと、帯刀は真剣な表情で凪に聞き返した。



「凪、本当に嬉しいか?」



 凪は「当然です!」と顔を上げた。



「だって帯刀先輩はあたしを大切な仲間だと心から思ってくれたんですよね!?

 これが嬉しいと言わずに何を嬉しいと言うんですか!?」


(……うん。そうだな……。お前はそういう奴だ)



 先程まで盛り上がっていた気持ちが一気に奈落に落ちていくのを感じながら、帯刀は諦めの吐息を洩らした。

 すると、同時に草むらが“ガサリ“と揺れてそこから毛利が転がり出で、更におい被さるように岩倉も姿を表した。



「い、いや、声をかけようとしたらな?岩倉に引き止められて、だな……」



 沈黙が流れる中、押し潰されたまま毛利がしどろもどろに言い訳をした。

 そして危険を察知した岩倉は、毛利が言い訳をしてる間に飛び起きてカメラを抱えながら毛利を置いて逃げて行った。



「……で?感想があるなら聞こうか?」



 帯刀から放たれた声に毒を含んだ黒い障気が放たれているのを感じ、毛利は顔をひきつらせながら後退りした。



(ここは素直に帯刀の味方になるべきだな)



 毛利はわざとらしく咳払いをした。



「まあ、アレだ。樹神はもう少し敏感になった方がいいぞ。平和の為に、な」


「平和のために?」



 何故そんな事を言われたのか全く理解出来ずに首を傾げている凪に、毛利は乾いた笑いを上げながら逃げるように去っていった。



「……いったいなんだったんでしょうか?毛利先輩らしくなかったですが」


「……そうだな」



 帯刀も何故か機嫌が悪くなっている。



「……あの、あたし、何かしたんでしょうか?」



 明らかに自分の発言の後に起きたとしか思えない状況に、不安そうにしている凪を見ながら帯刀は首を横に振った。



「いや、何もしていない。さぁ行くぞ。今日中に書き上げるんだろう?」



 凪は頷くと、寮へと向かう帯刀の後に従った。

 自分の後を追いかけるようについてくる凪を見ながら帯刀はそっと溜息を吐いた。



(こうなったら凪が俺に惚れるまで待つしかない。何年かかっても、な)




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