第81話:正々堂々と【2】
「……まさか、知って、いたの?」
そう聞かれて、凪は困ったように頷いた。
「二次選考の時に高杉先輩があたしを睨んでいたのを感じてましたし、先程もあの舞台上で先輩だけが笑っていたので、恐らく先輩が摩り替えたのだろうなとは思ってました」
「じゃあ、なんでそんな風に平気な顔してるの!?普通は責めたりするものでしょう!?」
自分を貶めようとした人間相手に至って普通に話をする凪が信じられなかった。
「理由は先程言いました。妨害に屈するなら所詮あたしはその程度。皆さんに認められるわけがないからです。
そんな事よりあたしは高杉先輩の方が気になります」
凪は高杉の目をしっかり見詰め、慎重に言葉を紡いだ。
「先程のお題は医学用語が使われてました。
……高杉先輩、もしや教頭先生に妨害するよう言われたんじゃないですか?」
凪は高杉の肩が揺れるのを見て、やはりと溜息を洩らした。
「そうなんですね。では、表向きは妨害は続けて下さい」
思っても見なかったセリフに意見しようとした高杉だったが、それを凪に止められた。
「もし先輩がそれを辞めた事が教頭先生に知られれば、高杉先輩が教頭先生に何をされるかわかりません。
何故そう思うかといった理由は聞かないで下さい」
凪のその表情に高杉は怯んだ。何やら深い裏の理由があるようだ。
だが、凪は「理由を聞くな」と拒絶し、話を続けた。
「あくまで妨害はしようとしたが、生徒会長に見つかった事にして下さい」
「わ、大海原君の?でも、不正をしたのにコンテストに出場出来てる時点でオカシイと感じると思うけど?」
高杉は教頭に関して追求したい気持ちを抑え込み、そう聞き返した。
「だから生徒会長なんです。
副会長の越智は意外に厳しいですので、不正は絶対に赦しません。
書記の紫藤や会計の帯刀の場合は、裏があるとあちらは判断してくる可能性が高いので好ましい状態にはならないでしょう。
ですが、会長の大海原は基本寛大です。だから見逃す可能性は高いと判断するはずです」
「ちょ、樹神さん。今のセリフは会長は一番甘いと言ってるようなものよ」
「事実ですから」
あっさり言ってのける凪に、高杉は目を白黒させていたが、フッと笑みを溢した。
「……あなたって謎だわ。一体どちらが本当の樹神さんなのかしら?」
思ってもいなかったセリフに凪は目を瞬かせた。
「見た目は何処にでもいる女の子。守ってあげなきゃという雰囲気を放ってる。でも、今、ここにいる樹神さんは違う。
あの生徒会の中にいても発言力を持っている強い子に見えるわ」
「すぐ泣き出しそうだとは、小さい頃から言われてましたからたぶん凄く弱そうに見えるんでしょうね、あたし。
まあ、確かに強いか弱いかと言われれば、あたしは自分を弱いと思ってます。
ただ、弱いからこそ強くあろうとはしてます」
強い意思を込めてそう言える人間は、少なくても弱くはない。
高杉は苦く笑うと、再び頭を下げた。
「私の負けね。私は本当に焦っていたわ。
以前は雑誌でひっぱりだこだったのに、流行が去ろうとすると共にオファーが減り続けて今では一社だけ。
私のモデル人生はもう終焉に近付いてる。その恐怖と戦っていた時に今回のコンテストが開催された。
チャンスが来たと思ったわ。でも、蓋を開けてみたら女子の票は樹神さんに流れていた。
焦ったわ。でも、同時にこうも思った。
なんの変鉄もない子がどうして?デキレースなのかもしれないって。ならば妨害してでも勝ってやるって思ったわ。
認めたくなかったのよ。みんなに私が飽きられてる事を。
だから教頭先生から原稿を摩り替えるよう言われた時は、なんの罪悪感もなかった。
けど……」
高杉はそこで一度区切ると、困ったように笑った。
「あなたは不思議な子ね。こうして話してるだけであなたを知りたいと思ってしまう。
そして、そう思い始めると自分がいかに醜い人間なのかを思い知らされる。普通はそうなると反発するものなのに嫌な感情が何故か起きない。
これが、みんながあなたに魅了される理由なのね……完全に負けたわ」
「……高杉先輩…」
「あら?でも、まだコンテストに負けたとは思ってないわ。
これから私は、自分の全てを正々堂々と出しきってあなたに勝ってみせるから覚悟なさい」
高杉はそう言うと、凪の頬を羽で優しく撫でるかのように触れて生徒会室を出て行った。
その音を聞き、もう大丈夫だろうと資料室から浩樹達が出てきたが、何故か浩樹が傷付いた表情をしている。
「浩樹先輩?どうかなされましたか?」
すると浩樹は、先程の会話の自分の扱いについて酷すぎると訴えた。
「……酷かったですか?」
「なんだか、バカだと言われた気がした……」
それを聞いて、凪は全身で慌てて否定した。
「ち、違いますよ!?
あたしは浩樹先輩をバカにしたわけじゃなくて、上に立つ者は寛大さがないと下はついて来ないという気持ちを込めてですね……!
それにサブの静香さんが充分厳しいですし、帯刀先輩や紫藤先輩なんて鬼畜レベルに切り捨てる人ですから浩樹先輩はそうじゃないとダメなんです!」
そう言うと、今度は帯刀と紫藤が口を開いた。
「おやおや、凪さん凄い言われようですね?」
「本当に鬼畜になってやろうか?」
(なんでそうなる!?)
凪はタジタジしながら弁明の言葉を探していると、越智が堪えきれずに吹き出した。
「入院中何があったか判んないけど、随分逞しくなって……いや、虐められるのが好きにでもなったか?」
「なってません!……さては楽しんでますね?あたしで遊んでますね?」
浩樹は違うと否定しているが、越智達は凪を獲物を見るような目で見ている。
「……先輩達の意地悪!!次の課題に取り組みますから失礼します!」
凪は不貞腐れながらそう言うと、飛び出すように生徒会室を出て行った。




