第83話:拐われた凪
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寮に着いた凪は、食事と入浴を早々に済ませ、課題に取り組んだ。
キーワードは、『学園』『仲間』『充実』。
凪は再び昔を振り返りながらそれらを書きなぐっていく。
終わりまで書くと今度は記事にしやすいように切り捨てながら整形していく。
そして格闘する事3時間、ようやく完成したそれを専用の袋に入れた。
おもむろに時計を見ると、時計の針は既に翌日を指していた。
「大変。早く寝なきゃ」
明後日の放課後は、水着審査がある。肌の調子をベストにするには寝不足は天敵である。
凪は慌ててベッドに潜り込んだ。
☆
(ここは……何処?)
目を覚ますとそこは埃の臭いが充満した小部屋だった。
身体を起こそうと手を動かそうとしたが、両手が前で組まれるように結ばれている。
(なんで……?)
凪は周囲を見回した。
小さい窓から洩れる光から、夕方だとは理解出来る。
その光に照らされた室内には、金属の籠に入ったバスケットボール、隅には跳び箱、その前に立て掛けるようにして置かれた錆び付いたハードル、身体の下にはマットレスが無造作に置かれている。
(体育倉庫?)
何故自分が体育倉庫で手を縛られているのか?
凪はボーとする頭を振りながら考えた。
原稿が書き終わり、お昼休みに校長先生にそれを手渡した。
その後、生徒会室に1度顔を出そうと裏庭を通ろうとした時に後ろから誰かに羽交い締めにされた。
(そうか……何かを嗅がされたから頭が働かないんだ……)
羽交い締めにされて抵抗してるうちに、急に頭がボヤけて意識を無くした事を思い出し、凪はどうするべきか頭を働かせた。
制服の胸ポケットには携帯電話がある。
電話すればいくら口をガムテープで塞がれていても、もがき声で異変に気付いて助けに来てくれるハズだ。
だが、手が縛られていてポケットに手を入れる事は不可能だ。
自力で出ようにも扉は恐らく鍵がかかっている。
(まずは、この紐を何とかしなきゃ……)
幸い今は誰もいない。
今のうちにロープをほどこうと切れそうなものを探した。
とはいえ、体育倉庫だ。
ハサミもカッターもあるわけがない。
(口が塞がれていなきゃ歯を使う事が出来たのに……)
悔しそうに項垂れたが、それでも何か代用できるものがないか探し続けた。
すると跳び箱の前に置かれたハードルが目に入った。
(ハードルの脚の部分で切れないかな?)
いまいち自信はないが、他に代用出来るものは無さそうだ。
凪はハードルを倒してバーを踏んで固定すると、手と手の間にそれを挿し込んで上下に擦り始めた。
時折身を削ってしまい、凪の顔は痛みで歪んだ。
だが、そこで止めるわけにはいかないので負けずに続けた。
日はいつしか落ち、窓からほんのり月明かりが差す以外は闇に包まれている。
春が近付いているとはいえ、暖房のない部屋は冷蔵庫の中よりも寒く、凪の吐く息も白い。
だが、彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
(……後、少し)
根気よく続けた結果、ロープはだいぶ擦り切れて来たものの女の力で切る事はまだ不可能だ。
もう少し頑張ろうとした時、懐中電灯らしき明るい光が扉から差し込んだ。
逆光で顔が見えない。
だが、凪の表情は険しくなった。
シルエットで判断つく。助けではない。
影達は案の定凪の行為に目を止めた一人が、次の瞬間彼女の右頬を平手で打った。
咄嗟に頬を反らす事で威力は半減できたが、口の中を切り鉄の味が口の中に広がった。
凪はそれでも脅える事なく、相手を睨み付けた。
目が慣れていき、シルエットの顔が徐々に見えてきた。
そこにいたのは柔道部にバスケ部の部長だった。
「チッ。少しは怖くなって泣き出すかと思ったのによ。可愛いげのねぇ女だな」
「叫ばせようぜ。ガムテ取ってさ」
「そうだな。コイツの泣き叫ぶ声聞かなきゃ気がおさまんねぇ」
二人はそう口々に言うと、凪の口から強引にガムテープを引き剥がした。
テープの粘着力で引っ張られた口からは唾液に混じって赤い血が滴り落ちていく。
それを見た二人は満足気に笑った。
「俺らをコケにした罰だ。ざまぁみろ!」
凪はそれでも黙って睨み続けた。
すると、バスケ部が凪の腹をめがけて蹴りを入れてきた。
「クッ!!」
痛みが腹を突き抜ける。凪は苦痛のあまり顔を歪めた。
「叫べよ!!助けて下さいって懇願しろよ!!」
バスケ部は泣きわめかない凪に苛立ちを感じ、背中を何度も踏みつけるように蹴った。
それでも凪は歯を食い縛り、叫ぼうとしない。
「なんで叫ばねぇんだよ!?コイツ!!」
息を切らせながらそう言うバスケ部に、柔道部は任せろと下がらせる。
そして、柔道部はズボンのポケットからナイフを取り出した。
「おい、流石にそれはヤベエよ」
金属の鈍い光にバスケ部が怯んでいると、柔道部は楽しそうに笑った。
「バーカ。刺したりとかしねえよ。脅すだけだって。ほら、見てみろよ。コイツの顔」
そう促されて凪を見ると、先程までの眼光が消え去り焦点の定まらない瞳のまま固まっていた。
「なるほど、効果ありだな」
「だろ?」
柔道部は得意気に笑うと、凪の上に馬乗りになって抵抗出来ないように縛った手を彼女の頭上に持っていき押さえ付けた。
そしてナイフの背で凪の頬を撫でる。
「怖いか?怖いよなぁ?
俺達をバカにするお前が悪いんだ。その可愛い顔が傷つきたくなきゃ俺達に詫びるんだな」
そんな声が聞こえてきたが、凪の意識は別の所に行っていた。




