第70話:侮れない男
待合室で向かい合わせに座らされた帯刀は、取り敢えず自己紹介を始めた。
「名乗るのが遅くなりすみません。
自分は凪さんと同じ生徒会をしている、2年の帯刀恭介と申します」
「君の事は毛利君から先程聞かせて頂いたよ。
さて、先程妙な会話を聞いたのだが、説明してくれるね?」
何故凪の父親に今まで気付かなかったのか、帯刀は後悔した。
以前凪が父親は頼りになるが、口を開かないと存在に気付きにくいと言っていたが、いくら凪で頭がいっぱいだったとはいえ、自分が人の気配に気付かないとは完全に失態である。
そして、頼りになるというだけある。
穏和そうでありながら実はかなりの切れ者のようで、適当に誤魔化す事は出来なさそうだ。
帯刀は誤魔化すのは止めて、正直に話し始めた。
そしてそれを聞いた父親は、頭を抱えた。
「……どうにもあの子は、厄介事に巻き込まれるのが好きらしい」
「理事長、春宮晃に所縁がある時点で、予測出来た事かと……」
その通りである。
凪が生きる活力になればと、入学を許したのは父親である自分自身だ。
だが、それに目の前の少年が巻き込まれるのは忍びない。
「君は手を引きなさい。あとは私の方でなんとかしてみるから」
「いえ。学園の中で起きている事は生徒会の仕事です。
御父様の仕事は存じてますが、どうか手を出さずに自分達に任せて貰えませんか?」
仕事を知っていると言われドキリとしたが、父親は譲らない。
「春宮グループのお家騒動は学園の問題ではないと思うがね」
「学園の人間が関わっている限り、学園の問題です」
帯刀も譲らない。
「春宮に関わるのは君にとってメリットにはならないと言っているんだ」
「娘さんが動くなら動く。俺はそれだけで充分です。
それにあんな低脳がどうこうできるメンツではないですから。うちの生徒会は」
嘗めてかかってるとしか思えない言動に目を剥いたが、帯刀の瞳は絶対的な自信が宿っている。
「……勝算があるとでも?」
「野心家というものは、叩けばいくらでも埃が出ますので」
「……その埃はなかなか表には出て来やしない」
「今が、後継者争いの幕開けのようなものです。
派閥誕生直後ほど穴だらけな状態はないですから簡単に侵入し、破壊出来ます」
何故そこまで言いきれるのだろうか?
「学園内で起きている以上、部外者でしかも大人が介入すれば大事になり、それこそ相手が隙を見せなくなります」
学生の方が動きやすいから邪魔するなと帯刀が言いたいのを察し、父親は大きな溜息を洩らした。
「……凪に何をやらせるつもりだい?」
「彼女はあくまで、彼女は学園に必要な存在だと相手に認識させるだけです。権力争いには主だって参加はさせません。
彼女が生徒達に認められれば簡単に彼女に手を出せなくなり、他の手を熱望するでしょう。
その隙を狙い、俺が攻撃するだけです」
危険な目に会うのは自分だけだと言う少年の言葉をあっさり受け入れる大人がいるだろうか。
「大丈夫です。教頭は小者ですから。
先程メリットがないと言われましたが、春宮晃が間違いなく勝つでしょう。ならば彼に、恩を売れば大きなメリットになります。
そう言えば納得しますか?」
(この子は本当に高校生なのだろうか?……面白い)
帯刀に非常に興味を持ち笑いたくなった凪の父親だったが、彼は敢えて渋々引き下がったふうを装って、降参とばかりに手を上げた。
「私の負けだ。ならば、もしもの時は私に連絡しなさい」
そんなふうに言われ、帯刀は眉間に皺を寄せた。
「……娘さんは大丈夫ですが?」
「君が大丈夫じゃないだろう」
それを聞いて、帯刀は信じられないといった表情を浮かべた。
その表情を見て、凪の父親はようやく笑みを浮かべた。
「君は凪を支えているのだろう?だから恩返しだと思えばいい」
帯刀は暫く彼を観察し、ややあって納得したように頷いた。
「善意6割ですか?」
すると、凪の父親はとんでもないと否定した。
「善意8割だよ」
「残りの2割は自分の想像通りと捉えて構いませんか?」
凪の父親は含みのある笑みを浮かべて頷いた。
「解りました。では、その時はご協力願います」
凪が帯刀や紫藤に抵抗を感じなかった理由が解り、帯刀は複雑な表情になった。
(究極のタヌキを見て育ったから俺達に抵抗がなかったわけか)
凪と付き合えば、もれなく付いてくるタヌキ親父。
並大抵の男なら恐らく逃げ出す。
若しくは凪の父親の本質が見抜けないままかもしれない。
だが、タヌキはタヌキでも不思議と落ち着ける雰囲気に帯刀はクスリと微笑んだ。
凪の父、久々の登場です。そして、完全に恋愛色なくしました(笑)




